それからの私たちは、ただここで生存することのみに注力した。
ショッピングモールに暮らして、ひたすら救援を待ったのである。――
それからの私たちは、ただここで生存することのみに注力した。
ショッピングモールに暮らして、ひたすら救援を待ったのである。――
食糧の備蓄は、たっぷりあるわね
米軍の施設というのがよかったわ。たいていの物資はアメリカから大量に空輸されてくるのよ
衣類も化粧品にも困らないわ
お酒もBARにある
シャワーがジムにあるわよ
あとは寝所ね……
私たちは、店内マップをのぞきこんだ。
布団はあるけど、ベッドやマットレスは限られてるわね
米軍が提供する建物に備え付けてあるからよ
フードコートや警備室のソファーから、マットレスに改造できそうだけど
とりあえず今日はジムで寝ましょうか
私たちは、寝具店から毛布や枕をもらった。
それを持って、フィットネスジムに行った。
今夜は、ここで寝ましょう
うむ。ゆったりしているな
問題ないわね
じゃあ、消灯までは自由時間?
消灯は何時ですか?
あなたたちに合わせるわよ
お姉さんは、いっせいに私たちを見た。
どうする?
うーん。12時くらい?
もっと早く寝ちゃうかも
などと私たちは相談をした。
でも、なかなか決まらなかった。
しばらくすると、ヤマイダレさんが強引に意見をまとめた。
ジムの電気は、私が11時に消すわ。違う場所にいる人は、静かに帰ってくること。もちろん、シャワーは11時までに済ませてね
みんなはニコヤカにうなずいた。
そして、自由時間となったのだ。
※
夜の9時。
私と小夜、いつきはジムで寝転がっていた。
布団を敷いて、顔をつきあわせて、おしゃべりをしていた。
自由時間と言われても、何をしていいのか分からなかった。
だからご飯を食べて、シャワーを浴びて、布団に潜りこんだのだ。
みんな、まだBARにいるのかなあ
KGBのお姉さんがお酒強いんだよお
楽しそうに飲んでたよね
私たちは枕を抱いて、クスリと笑った。
でもさ、こんな感じで居住環境がいいとさ、どんどん欲求が出てくるよね
んー? たとえば?
私は、お風呂に入りたいかなあ
そうそれ! 私も!!
ああ、そういえば入りたいなあ。大浴場
えぇー!? そこまで贅沢言うゥ!?
あはは
でもさ、やっぱり日本人ならお風呂に入りたいよねえ
後でヤマイダレさんに言ってみよっか?
うん、きっと分かってくれるよお
などと、私たちはこれからのことを話していたのだけれども。
なんだかんだで疲れていたらしく、11時になる前にうとうとしはじめた。
なんだか眠くなっちゃった
寝る?
んー、おやすみぃ
というわけで。
私たちは、誰とはなしに眠りについた……――。
あっ!?
うふふ、ごきげんよう
淫夢の痴女だ
おぼえていてくれたのね。嬉しいわ
帰らなきゃ
私は、さっそく脱出を試みた。
たしか、この淫夢から脱出するのは、我慢していることをひとつ解放すれば良いんだっけ
ちょっと待ってよ
ええっと。我慢してること、やってみたいこと、気になってることは……
ねえねえ、もっとゆっくりしよう?
うーん
うーん
体位だ! 私は体位が気になってる!!
……あっさり正解するのね
私は、お姉さんたちが言ってた『好きな体位』に興味がある。疑問がどんどんわいてくる。私はこの好奇心を我慢しているんだよお
質問したくてしかたがなかったのね
そう! だから教えて!!
うーん、聞いてあげることならできるけど
痴女は、うらめしそうにそう言った。
しゃべってスッキリすることが、この世界から脱出する方法にほかならないからだ。
ねえ、エッチって好きな人とするんでしょう?
うーん、たいていは
好きな人とね、キスしたり抱き合ったりするのは分かる。それは私もしたい
え? 今、なんて?
好きな人とキスしたり抱き合ったりしたい!
うふふ、それで?
エッチもその延長だと思うの。キスしながら抱き合いながら……するから
うん
それでね? 『騎乗位』って、CIAのお姉さんが好きなんだけどね、それだとキスしながら抱き合いながらできるでしょ? だからその体位が好きなのは理解できる。だけどね?
うん
ヤマイダレさんは『バック』って言ったの。それがまったく分からない
どうして?
だって、キスしながらできないし、抱き合うこともできない。好きな人の顔も見られない。たぶん自由に動けない
その良さが理解できないの?
うん! まったく理解できないの
そっか
でも気になる。興味があるの。だって、あのヤマイダレさんが一番好きな体位なんだよ?
うん
あの、24時間365日何年間もずっとエッチのことばかり考えてる、そんなヤマイダレさんが一番好きだと言っていたんだよ? たぶん、本当に一番良いんだと思う
えっ? 一番良いって?
一番気持ちがいい体位は『バック』なんじゃないかって、私はそうにらんでる
きっぱりと、私は胸に秘めた思いを口にした。
ねえ、バックって気持ちいいの?
うーん
教えてよ!
……分からないけど、でも、試してみれば分かるかも
えっ?
バックの姿勢をしてみれば? そうすれば、きっと、しているときの気持ちが分かると思う
バックの姿勢……
私は、ツバをのみこんだ。
すると痴女は、にちゃあっとイヤらしい女の笑みをした。
それから、うながすようにうなずいた。
こっ、こうかな?
うふふ。そうそう、そんな感じで四つんばいになって、お尻をつきだして
これでいい?
もっとお尻をつきだして、胸をお布団に押しつけるように下にして
背中を反らす感じ?
そう。上半身をぐったりさせて、枕に顔をつっこんで
お尻がすうすうするよお
もっと天高くお尻を上げて。恥ずかしいところを見せつけるようにね
やだっ
うふふ。太ももを閉じてもムダよ。しっかり見えてるわ
もう
この状態で腰をぐいっとつかまれるのよ。好きな人があなたに激しく愛をぶつけまくるのよ
あぁん
どう?
もっと
もっと?
すごいっ
もう、想像力の豊かな子ね。なにもしてないのに、そんなに夢中になっちゃって
だめえっ
ダメ?
いじわる
ふふっ
んん!
このとき、私の全身をとめどない快感が電流のように走った。
つま先から頭のてっぺんまで突き抜けた。
私は恍惚の海に漂った。
やがて痴女が訊いた。
バック好き?
好き。バックは絶対気持ちいいよお
私は本心を口にした。
すると痴女は、満ち足りた笑みをした。
そして、すうぅーっと消え去った。
私は、お尻をつきだしたひどくみっともない格好で、それを見送った。
――……私は目を覚ました。
いつきと小夜が私の顔をのぞきこんでいた。
あっ
私は、またやらかしたことをすぐに理解した。
恥ずかしい寝言を言いまくって、それをまたふたりに聞かれてしまったのだ。
ごめんね、うるさかったでしょ
私はぎこちない笑みでそう言った。
すると、ふたりの後ろからお姉さんが顔を出した。
私は、しまったと思った。
いつきと小夜だけでなくお姉さんにも聞かれてしまった。
私は、すこしおどけた笑みをした。
するとお姉さんは、ひどく深刻な顔でこう言った。
淫夢の痴女『ドリームシアター』に憑(つ)かれてる。早急に対策が必要よ