ふう。これで後は連絡待ちね

KGBの職員

おつかれさま

 私たちは、ため息をついた。

 すると、疲れがドッと出た。

 しばらく警備室でくつろぐことにした。


 私はモニターに映る店内を、ぼんやり眺めていた。

あっ

うん?

これってテレビ放送だよね?

あっ!?

人が映ってる。なにかしゃべってるよお

 私たちは、いっせいにテレビを視た。

 音声を出力した。

こちらは渋谷の放送局。先ほどの通信を聞いて放送を思い立った

………………

ここにいるのは10人。私は横浜方面から来た。小田原や大宮方面から来た者もいる。追い詰められたと言ってもいい

………………

痴女の被害は、横須賀と横浜の港から広がった。箱根の向こうにもいる。大宮から先にもいる。品川や上野もダメだ。逃れる場所はどこにもない。都内は、いや、関東は痴女であふれている

………………

このビルの周りも痴女でいっぱいだ。建物の中にもいる。我々は、ここから出られない。食料の備蓄はない。社員食堂にわずかに食材があるのみ、後は餓死するだけである

………………

この放送を聞く生存者たちよ。もし避難場所を求めて、さまよっているのなら、関東に来てはならない。……我々はすでに消耗した。見苦しく食料を奪い合うよりも、自ら命を絶つことにした。みんなでそう決めた。その前に、これだけは伝えたくてカメラの前に立った

関東に来てはならない。生存者たちよ、幸運を祈る

 オバサンはマイクを置いた。

 それからフラフラと歩いて、画面の外に消えた。


 それを観たお姉さんたちは、沈痛な面持ちで首を振った。

 いつきと小夜は、涙をにじませた。


 そんななか、私はマイクを手に取った。

 理由も意味もなにもない。

 考えよりも行動が先に立った。

 私は、彼女たちを救いたい一心で、とにかくしゃべった。

渋谷放送局のみなさん。私は、こしのくに市のショッピングモールにいます。立花智子という女子中学生です

私は、ただの女子中学生です。運動は得意じゃないし、格闘技もやってません。殴り合いのケンカも、もちろんしたことはありません。体育の選択科目はダンスです

そんな私は、今、親友の小夜といつきと一緒にショッピングモールにいます。お姉さんたちに守られて、中学から逃げてきたんです。幸運だと思います。みんなには本当に感謝をしています

だけれども――。私は、ただ守られていたわけではありませんでした。私は、痴女を倒しました。クイーンという痴女たちの女王を、ひとりで倒しました。息の根を止めました。痴女の増殖を防ぎました。ただの女子中学生の私がです

 ここまで一気に言うと、私は大きく息を吸った。

 それから心をこめてこう言った。

痴女は倒せます。増殖は防げます。だから、あきらめないで

 いつきと小夜が、私の手をきつくにぎった。

生きてください

 私は涙を懸命にこらえてそう言った。

 どういうわけか激しくこみあげてきた。

 マイクを置いた。

KGBの職員

素晴らしいわ

 お姉さんはそう言って、私を胸に抱いた。

 みんなが私を抱きしめた。

 私は、もみくちゃにされながらもなんとか顔をあげた。

あっ

 テレビには、オバサンたちが映っていた。

 彼女たちは、力強くうなずいた。

 それから、カメラに視線をあわせて微笑んだ。

よかった

 さっきとは別人のような、活力に満ちた笑みだった。――

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