私は演奏の準備に入った。
今回の曲は『夢うつつの境界』だ。
そして傭兵たちの頭の中から
ハミュンに関する記憶を消去する魔法を念じる。
私は演奏の準備に入った。
今回の曲は『夢うつつの境界』だ。
そして傭兵たちの頭の中から
ハミュンに関する記憶を消去する魔法を念じる。
みんな忘れちゃえ!
♪~♪♪♪~♪~♪♪♪♪~!
発動させる魔法を意識しつつ、
楽譜に記されていた『神秘的に』という
指示を思い返して演奏していった。
音楽を始めた時は楽譜の指示の意味が
よく理解できなかったけど、
続けていくうちになんとなく分かってきた。
技術的な部分はもちろん必要だけど、
それ以上に大切なのは演奏者の想い!
――ううん、音楽だけじゃない。
きっと全ての物事の原点はそこなんだ。
うむ、素晴らしい曲だ……。
音が心地よいな。
よしっ!
きちんと音を聴いているみたい。
そろそろいいかな……。
アラン、傭兵さんたちに
木箱の中身を見せてあげて。
あ、うん。
アランは手に持っていた木箱の中を
傭兵たちに見せた。
中に入っているのは数体の人形――。
それを見た傭兵たちはキョトンとする。
なぜ人形を見せるのだ?
あなた方が木箱の中を見たいと
おっしゃったからです。
私たちが人形劇の興行を
していると聞いて
興味を持たれたのではないですか?
え? あ……。
そうだった……かな……?
うーむ、そんな話をしたような
気もするが……。
…………。
いかがですか、うちの人形。
よくできているでしょう?
これでご満足いただけました?
あ……そうだな……。
ミリア、そろそろ演奏を
やめてもいいんじゃないのか?
もう充分に演奏も
お楽しみいただけただろう。
――はい、座長。
私は演奏を止め、
アコーディオンをゆっくりと床に降ろした。
無事に私の目論み通りにいったみたい。
今回の興行のお代はハミュンに関する記憶。
――しっかりといただきましたっ♪
私どもは先を急ぎますゆえ
行ってもよろしいでしょうか?
そ、そうだな。
引き留めて悪かったな。
……待て。
俺はお前たち一座に興味が出た。
もう少し時間をもらえないか?
え? えぇ、少しだけなら。
我々はもう行くぞ?
勝手にしろ。
じゃあな。
2人の傭兵はコーツ村の方へ
歩いていってしまった。
でもなぜか1人だけはその場に残る。
この人も早く行ってくれないかな……。
魔法の効果はすぐには切れないはずだけど、
なんか嫌な予感がしてならない。
さて、邪魔者はいなくなったな。
あなた様は人形劇が
お好きなのですか?
それとも演奏が気に入ったとか?
いいや、どちらも全く興味がない。
俺が興味を持ったのは、
アコーディオンを演奏した女だ。
傭兵は私を指差して、じっと見つめてきた。
全く想定外の事態に
頭の中は真っ白になってしまう。
あたしっ!?
っ!
……っ。
ど、どういうことでしょうか?
その女、特殊魔法能力者だな?
おそらく音により魔法を
発動させるといったところか。
それを利用し、
精神に影響を与える魔法を
我々にかけただろう?
なっ?
俺の身につけている指輪には
混乱や幻覚といった
初歩的な精神状態異常魔法を
弾く効果がある。
あの2人には魔法が効いたようだが
俺は何の影響も受けていない。
残念だったな。
傭兵はニヤリと頬を緩ませた。
その瞳には邪悪な色が宿っている。
腕には鳥肌が立ち、
気がつけば体が小刻みに震えていた。
ミリア、大丈夫だ!
アラン……。
アランはその小さな体を私の前に投げ出し、
傭兵から庇うような位置に立った。
さらにアーシャも私の横に来て、
手を握ってくれる。
――あぁ、私はなんて幸せなんだろう。
こんなに素敵な家族がいるなんて……。
もはや鳥人族など、
どうでも良くなった。
女っ、俺に仕えろ!
きちんと高い報酬は払うし、
何から何まで面倒を見てやるぞ?
フフフ……。
っ!
そんなことはさせないっ!
アルベルト……。
アルベルトは馬車から飛び降り、
傭兵に向かって剣を構えた。
敵意と憎悪の眼差しが傭兵に向けられている。
次回へ続く!