一時間ほど、そこで待機を命じられた。
天都達は、好き勝手やりながら徐々に増えてきた参加者を眺める。
皆、心ココにあらず、という風にそわそわしている。
落ち着いているのは天都、月子、黒花、時雨ぐらいだ。
見た感じ割合は、女性の方が多い。

天都

やれやれ……
何処に行っても女難は回避できねえのかなぁ……

天都は女性率の方が高い現実にボヤく。
彼の人生経験では、女はろくな奴がいない。

月子

害虫が多くて嫌ですね

その筆頭、双子の実妹月子。
こいつの存在が、天都の人生において最初の踏み外した女である。

黒花

おや、わたしの顔に何か付いていますか?

丁寧な言葉使いだが中身がクレイジーな黒花。
こいつら以外にも、学校にはろくな女子がいなかった。
月子とは違う高校に一人で通う天都。
春菜も時雨も学校は違うため、遊ぶとか家で会う以外は顔を合わせない。
日常では、女子がまともじゃないのだ。
本当に、普通が羨ましい。

天都

速水みたいな奴とか勘弁してくれよ……
俺苦手だしなぁ……

学校のクラスメートにいる、雰囲気が怖い孤立している女子が、一番天都は怖かった。
あの目付きは、ヤクザとかそのへんの部類だ。
一時、学校にこなくなったがまた戻ってきたときには多少柔らかくなった雰囲気であったが、未だに怖い。

時雨

どうした天都
随分と腰が引けてるじゃねえか

天都

時雨……女って、怖いなぁ……

突然の天都の発言に、親友は肩を叩いて、しみじみとこう言った。

時雨

天都……
女は、気まぐれな小悪魔なんだ
下手に信用すると痛い目みるぜ?

まるで経験があるような言い方。
彼はフッ……とシニカルに笑うと首を振る。
経験あるらしい。

時雨

だからって女を恨むのはお門違いだぞ
恨むなら、だらしない自分を恨むべきだ

まあそのとおりだと思う。
大抵、女で痛い目見るのは男も悪い。

春菜

どうかしたの、天ちゃん?

天都

春菜は良い娘だよなぁ……
真っ直ぐで、人としての優しさがある

突然褒められた春菜は照れたようにあわあわと手を振って否定する。

春菜

ええっ!?
どうしたの天ちゃん?
わ、わたしそんなことないよ?

春菜

でも……嬉しいかな……
ありがと

これが普通の付き合いの長い少女の反応。
春奈に何かしらの好意があると、天都も流石に気付いている。
ギャルゲーにあるような鈍感な奴でもない。
が……そこに何か裏があると勘繰る自分が嫌だと、何時だったか天都は時雨に相談していた。

時雨

成程、納得した
天都が言うんだから間違い無いな

月子で苦労して、半ば女に恐怖心が植え付けられている天都。その天都が素直に褒める相手、春菜。
その心労を知っている時雨は、彼女が彼の周りで貴重な普通の少女であることをすぐに理解した。

春菜

えっ……えっ?
なんで光野君が納得してるの?

ついていけない春菜。
時雨は苦笑して言う。

時雨

こいつとはキミ程じゃないが付き合いが長い
野郎同士でしか話せないこともあるってこと

それが納得いかなかったのか、春菜は天都に問う。
顔が、結構拗ねていた。

春菜

……天ちゃん?

天都

悪い話じゃねえよ
悪いのは全部あっち

と指さすと、不満顔で腕を組んでいた妹が、白々しい笑顔で聞いてくる。

月子

なんですか?
に、い、さ、ん?

天都

お前も大概なクレイジーだってことを改めて確認したんだ
年中兄貴に発情しやがって……

今でこそ、月子に反撃できる天都だが、昔はやられるだけでストレスで胃に穴があきそうになったことも何度もある。
全部、この愚妹が実の兄に発情しているからだと思う。
こいつの中に、近親相愛とかそういう文字はきっとない。
無いから禁忌に喜んで突っ走ろうとするのだ。

天都

月子、お前ひとつ聞くぞ?

月子

はい?

天都

自分がマトモだと思うか?

月子

必要に応じて使い分けたいと思ってるんで微妙ですね

このざまである。
本当に、人間としての最低限の倫理すらどこかに忘れてきている。

天都

はぁ…………

最早ため息も数えるのが嫌なほどついている。
今更、今頃、後の祭り。
遠い目をしている天都。
そんな彼に、クスクスを遠目で眺めながら笑う声。
月子が敏感に兄に対する親しみの声色に反応して、噛み付いた。

月子

そこの貴方
私の兄を笑うのをやめてもらいますか?

ドスの効いた声で牽制する月子。
その声に、首を傾げて振り返る天都。
その笑っていた人物の顔を見た瞬間……天都が悲鳴を上げた。
今の今まで、こちらで話していて気付かなかった。
天都の学校のクレイジー女子でも月子に匹敵するイカレっぷりを発揮している奴を見つけたのだ。

天都

立夏!

兄に名前で呼ばれていることに眉を釣り上げる月子。
ちょっとその怯えの混じった悲鳴に怪訝そうに見つめる時雨と春菜。
あの声は、天都が本気でビビっている時の声だと知っていた。

立夏

ciao!
先輩、遠渡遥々先輩の嫁の立夏がお助けに参りましたよ!!

蝶々の可愛らしい髪飾りをした少女がトコトコと近寄ってくる。
天都はそれだけで後ろに逃げ出した。

天都

今すぐ帰れッ!!
そして死ねッ!!

何とか立ち直った彼から飛び出す怒鳴り声。
怒りというか焦りというか、攻撃される前に攻撃するという、そんな色が見え隠れする言葉に、その少女は堂々と言い返す。

立夏

だが断るッ!!
生命を賭けて!

月子ですら目を丸くする、兄の本音の罵倒。
兄は人を悪く言うことはあまりない。
それはどうやら、自分は周りのおかげで成り立っていると思っているフシがあるからである。
そんな兄が、死ねと罵った。
嫌悪感丸出しの憎しみを込めての言葉が人にぶつけられるのを、月子は双子やっていて初めて見た。
そして同時に悟る。こいつは――敵だ。

天都

こんなところまでついてきやがって!!
テメェは予想してたぜクソ野郎ッ!!
今度こそ引導を渡してやるッ!

時雨

お、落ち着け天都ッ!

なんとあの天都が、月子で鍛えられた天都の忍耐力が出会っただけで振り切れていた。
要するに、手を出そうとしていた。女相手に。
後ろから羽交い締めにして止める時雨。
学校が時雨も春菜も月子も違う。
故にこの少女が誰か、分からない。

天都

月子ォッ!
今だけ赦す、こいつを追い払えッ!

天都が更に信じられないことを叫んだ。
月子に暴力を許可したのだ。
常常、常識という言葉を月子に教えていた天都が水らかその戒めを解いた。
兄に絶対服従、絶対愛の月子も当然命令通りに動く。

月子

兄さんに言われずともッ!!

そこは双子だけあって、阿吽の呼吸。
月子は近くにあった花瓶を持ち上げるや、その少女に迷わず投げつけた。
突然の事に混乱する室内。
無関係の少年少女達は驚いたように部屋の隅に逃げたり、藻掻く天都を止めようと時雨を手伝う。

立夏

チェストォ!!

信じられないのが、その花瓶を空手チョップで叩き割って防ぐ少女。
派手な音をさせて、割れる花瓶。
割れた破片を手にすると、器用に月子は彼女に投げつける。

立夏

遅い、遅すぎるのですッ!
その程度で立夏を捉えるなど不可能ッ!

それすら手刀で叩き落とす少女。
何という動体視力とクソ度胸。
陶器を破壊しておいてケガしていない。

月子

このっ……!!
兄さん、刃物使っていいですかッ!?

天都

なんでも使えッ!!
そいつは完全に俺達の敵だッ!!

天都と月子は一応、心臓疾患を持つ病人である。
激しく興奮すれば、心臓が痛みを上げる。
特に月子は顕著に、それが現れる。

月子

うっ……!?
やば……ッ!

天都

ぐっ……!?
クソッ……またか……ッ!

揃って、左胸を押さえて苦しそうに呻く。
余裕の表情で床に散らばる破片を見下ろして、微笑む少女。

立夏

あははー
無様ですねえ、先輩
立夏に何度喧嘩を売ろうとも、持病持ちの先輩が勝てるとでも思ってるんですか?
尻に敷かれているくせにー

天都

ほざけ……!
この程度、気合で……

時雨

やめろ天都ッ!!
お前ぶっ倒れるぞ!!

挑発されて、まだ飛びかかろうとする天都。
時雨が慌てて止める。
何の事情があるか知らないが、彼と彼女は犬猿の仲のようだ。
倒れる月子を、春菜が介抱している。

春菜

天ちゃん、一体どうしたの?
あの人と何かあった?
月ちゃんも落ち着いて、ね?

月子

何であろうが、兄さんが言うならば私の敵!
離してください春菜さん、あいつは今此処で殺す!

春菜

月ちゃん!

諦めない月子に介抱からのヘッドロックに敢行、ゴキッとやばい音をさせて撃沈させた。
春菜は病人相手に技をかけて気絶させた。
大人しそうな顔をしている割に、派手なことをしている。

時雨

三城……月子さん、死んでないか?

春菜

大丈夫
これでも月ちゃん相手ならわたしのほうが強いから

春菜も幼少時からこの危険妹を相手していないのだ。
少しは、物理的な意味でも鍛えている。
そして幼馴染の貫禄と言えるような春菜は落ち着いた様子で、少女に問う。

春菜

よくわからないけど、天ちゃんがああいう反応を見せたってことは……
何か、あなたが天ちゃんにしたんだね
何があったかは知らないけど、天ちゃんが嫌がる人には、わたしも容赦はしないよ?

事実上、ゲーム開始前の宣戦布告だった。
春菜は天都の味方と周囲に印象づけるには十分すぎた。
そして相手も。

立夏

構いませんよー
立夏は単なる先輩の嫁ですんで

余裕で笑って済ませている。
嫁発言、よくわからないが旦那とは仲が悪いらしい。
が、天都という少年の味方であることは見て取れた。
睨み合いをする二人。
時雨は女難らしいと把握して天都に事情を聞く。
そんな中、遠目で唖然としていた連中のなかで一人だけ、パンパンと手を叩いて乗り出す少女、

未来

はいはい、バトってるのはこれまでよ
よくわかんないけど、そっちのアンタはこれ片付けな
ぶっ壊したんだからね
そっちのあんたは、カッカしてるんじゃないの
頭冷やしなって
心臓か何か弱いんでしょ
怒ってると身体に悪いよ?
あ、礼儀として名乗っておくわね
あたし、久遠寺未来(くおんじみらい)って言うの
一応よろしく

少女はその場を纏めるように、テキパキと指示を出す。
渋々だが蝶々の少女は従い、天都は時雨に事情をぶちまけた。

天都

…………

時雨

……マジか?

天都

マジ

時雨も月子で倒錯的な愛情には慣れているつもりだったが、どうやら相手はその上をいっていた。
完全に犯罪者の行為であると理解する。

時雨

お前……女難って言うか、これ最早呪われているレベルだぞ?
大丈夫か精神的に?

天都

心臓が痛い……

同情せざるを得ない凄まじい心労だった。
月子に加えて、最近ではまたその手の女に付き纏われていたらしい。
時雨に言っても巻き込まれるだけなので言えなかったとか。

立夏

じゃあこっちも礼儀ってことで
式見立花って言います
そこの夜伽先輩と同じ学校の後輩です
校内公認で先輩の嫁やってます

しれっと周りに関係をアピールする立夏。
天都は声を大にして、そんなことはないと言う。

天都

こいつは単なる脳内妄想激しいストーカーだ!
ストーキングされてるんだよ、俺はこいつに!

立夏

相変わらず、酷いですねえ先輩
立夏はただ、先輩のスケジュールを管理してるだけですよ?
無許可ですけど

否定を入れないで、そういう立夏。
反省の色など微塵もない。
それが天都の発言を真実だと告げていた。

未来

ストーカー……ねぇ
最近じゃ珍しくないけど、まだ学生でしょ?
あんたそれどうかしてるわよ?

立夏

どうかしているのは久遠寺さんの頭かと
立夏のこれはただのアイデンティティですよ?

未来

言ってくれるわね
あんたみたいなヤツは話を聞かないのは理解したわ
そっちのあんたは夜伽とか言ったっけ?
だから先手必勝で妹共々襲いかかったわけね?

頭の回転が速い未来という彼女は天都に確認して、頷くのを見ると改めて言う。

未来

個人の事に兎や角言うつもりはないけど
この場合は彼らの反応が正しいわね
で、そっちの黒髪のあんたは、何しようとしてるの

今まで成り行きをニヤニヤ愉しそうに眺めていた黒花。
茶々を入れようと、立夏に攻撃の準備をしていた。

黒花

バレましたか

未来

病人相手にちょっかい出そうとしてんじゃないわよ
子供かあんたは

数少ない常識人。
天都の抱いた印象はそんな感じだった。
ぼそっと近くで春菜の独り言が聞こえた。

春菜

け、圏外だった……

流石の春菜も、月子以上の相手には通報しようとしてくれていた。
時雨も手に負えないと、さじを投げることを天都に進めた。

未来

確か集まるのは12人……
全員まであと二人だから、待ちましょ
式見とそっちの黒髪
あんたらは大人しくしておきなさい
夜伽兄だっけ?
あんたはソファーで寝てるといいわ
妹も連れて、休んどいて

混乱していた場を鎮めるように、未来はそう告げると乱闘は進めないと勧告して取り仕切る。
彼女がいなければ大騒ぎになっていただろう。
天都も時雨に連れられて、暫し休むことにした。
舌打ちしながら、立夏殺すとか呪詛を吐きながら。

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