私たちは教室の一室に案内された。
ロープ。
頭から被せられたズタ袋。
後ろ手にかけられた手錠。
そこには捕虜スタイルで拘束された白瀬乃恵瑠がいた。
私たちは教室の一室に案内された。
ロープ。
頭から被せられたズタ袋。
後ろ手にかけられた手錠。
そこには捕虜スタイルで拘束された白瀬乃恵瑠がいた。
犯罪のニオイがする……
いえね、嫌がって来ようとしねえんで、ふん縛って持ってました
……お、おう。
これには修ちゃんもドン引きだ。
顔が引きつっている。
正直言って私もドン引きだ。
もう笑うしかない。
えーっと、白瀬さん。沙羅ちゃんのことで話しに来たと言えばわかりますわね?
もご、もご、もごごもごぉ!
なにを言っているかわからない。
猿ぐつわまで装着させられているのだろう。
怖すぎるわ!!!
えっと、剣持さん。
外してあげてください。
ういーっス。
そう言うと剣持さんはズタ袋を取り、暴れる白瀬を一発殴って大人しくさせてから猿ぐつわを取った。
なにこの流れるような手際の良さ。
明らかに手慣れている。
お前はどこのCIAだ。
私は頭が痛くなった。
複数の意味で。
て、テメエら!
なにすんだコノヤロウ!
しばらくすると殴られたことはすでに忘却の彼方なのか、白瀬は暴れはじめた。
数秒で記憶が維持できなくなるに違いない。
うちの金魚と同じだわ……
白瀬の外見はこざっぱりとした清潔感のある服装をしている。
髪の毛の色は別として。
それに比べて剣持はズボンの腰ばきやら金髪やら、ヒゲのそり残しやらでで小汚い。
おい剣持。白瀬はこの学校の生徒にしては小綺麗だな。
へい。
うちの学校の連中も就職活動のときはこんな感じっス。
なにその生々しい話。
お前は?
まずは卒業できる見込みがないと……
お前、それじゃダメだろ。少しは真面目に生きろよ。
修ちゃんらめえ!
それ以上追い込まないで!
私はなぜか涙目で叫んだ。
学校を追い出されてどん底を見てきた私はなぜか自分が言われてるような気がしたのだ。
あのね、剣持ちゃんは修ちゃんと違うの!
ダメな子はがんばってもダメなの!
上から目線ダメ絶対!
私のツッコミが追いつかなくなると、白瀬が意識を取り戻す。
おっと存在を忘れてた。
俺を無視するな!!!
白瀬は殴られたことより無視されたことを怒っているようだ。
でもそれは私にはどうでもいい。
なぜ沙羅ちゃんを捨てたの?
私がそう言うと白瀬の顔が真っ青になった。
てっきり開き直ると思っていた私の予想は大きく外れた。
なにか……理由があるの?
うるせえ!
てめえになにがわかるんだよ!
ああ、この気持ちはわかる。
なにがわかる。
この台詞は孤独から出てくる言葉だ。
彼は孤独なのだ。
私も同じだった。
社会に放り出されたとき、あまりの孤独に押しつぶされそうになった。
その時私も同じことを沙羅ちゃんに言った憶えがある。
だいたいテメエら金持ちになにがわかるんだよ!
沙羅もテメエらも俺をバカにしてるんだろ!
クソッあのバカ女!
おい、無礼な口をきくな!
と、たしなめる修ちゃんの声と同時だった。
うるせええええええええ!
私は飛び上がると白瀬の顔面に蹴りを入れた。
ガタガタと泣き言をほざく白瀬にムカついたのだ。
椅子ごと白瀬が倒れ込む。
私はそのまま白瀬の顔を踏むと怒鳴った。
おいこらテメエ。
沙羅ちゃんを妊娠させてどう落とし前取るんだって聞いてるんだ!
てめえあんま舐めてっと痛い目あわせるぞオラァッ!
汚嬢様。地が出ています
修ちゃんが身も蓋もないことを言った。
だがそれでも白瀬は折れなかった。
そして剣持さんはそんな私たちを見てオロオロしていた。
使えねえ!
ああ!やってみろ!
クソッ俺だって沙羅を守ってやりたかった……
でも、テメエらに別れさせられたんだよ!
どういう意味?
別れねえと家の工場の仕事を切るって脅されたんだよ!
汚え手を使いやがって!
俺は沙羅と一緒になるために努力してたのに……
誰がそんなことを!?
武藤マテリアルだよ!
ちょっと待て。
マジか?
……お嬢様。沙羅さんのご実家が圧力をかけたのかもしれません。
……わかった
私は白瀬を見下ろした。
家族を人質に取られているのだ。
でも彼は沙羅ちゃんを一番にできなかった。
それだけは気に入らない。
おいバカ。
私が話つけてやる。
テメエは落とし前つける用意しとけ!
私は胸を張った。
摩郷島工業を出ると修ちゃんが私に話しかけてくる。
で、汚嬢様。どうなされるんですか?
どうするか?
それが問題だった。
白瀬を殴れば四方丸く収まるってわけじゃない。
だから私は別の手を使うことにした。
今さ、本社で会議やってるじゃん
はい?
直接乗り込む。
はいいいいいいいいッ!?
お、お前なにを考えて……
いいから。
んでさ、修ちゃん、揃えて欲しい資料があるんだ。
は、はい。
それは構いませんが……
おーほっほっほ!!!
私を怒らせた報いを思い知るがいいわ!!!
優秀な執事がいればできないことはない。
それが真の汚嬢様ってやつだ。
間違えたお嬢様。
さて、着替え着替えっと。