ぺぽぺぽぺぽ。
修ちゃんが運転するバイクの後ろに乗って私は本社にやって来た。
修ちゃんが剣持くんから取り上げたバイクだ。
なのでバイクがヤンキー仕様なのは気にしない。
というかツッコんだら拳骨を落とされるに違いない。
ぺぽぺぽぺぽ。
修ちゃんが運転するバイクの後ろに乗って私は本社にやって来た。
修ちゃんが剣持くんから取り上げたバイクだ。
なのでバイクがヤンキー仕様なのは気にしない。
というかツッコんだら拳骨を落とされるに違いない。
触らぬ神に祟り無しですわ!!!
と、いうわけで、私は本社に乗り込む。
アニメ『イケメン☆ミリタリー学園』の制服(コスプレ)の格好でだ。
軍服に無駄に高いピンヒール付きのブーツ。
意味のない眼帯。
片手には鞭という扇情的なコスチュームでだ。
やんだーエローい♪
汚嬢様。
そ、そのなんというか……少し体の線を出し過ぎなコスチュームでして……
修ちゃんの顔が真っ赤になる。
ふふふ。
意識してる。意識してる!!!
でも残念ながら今は修ちゃんにセクハラしてる暇はない。
軍服に鞭。
これが正装だと聞きましたの♪
なんで深夜アニメ基準なんだよ。
汚嬢様よお。
ツッコミなど聞こえぬ!
ふふふ。楽しいからですわ!!!
修ちゃんが私に汚物を見るような視線を浴びせる。
あ、そう。
そういう態度。
ふーん、へー。
そういう態度の子はお仕置きなのだ♪
お尻さわさわさわさわ。
おいコラ、ナチュラルに尻を撫でるな。
腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐。
この乾ききった都会のコンクリートジャングルで少年へのセクハラに癒やしを求めてなにが悪い!
ええじゃないかええじゃないか!
俺が嫌だつってんだよ!
もう。
恥ずかしがってー。
ホントは私を好きで好きでたまらないくせにー。
と、私はニヤニヤしながら修ちゃんの脇腹をつつく。
もう嬉しいくせにー♪
スキンシップスキンシップげへへ。
ごちん。
んべ!
星が見えた。
なにを言っても無駄だと思ったのか修ちゃんは無言で拳骨を落としたのだ。
前回のじゃれ合いとは違い、制裁目的なので痛い。
手加減はされているのだが、それでも痛い。
ぶったー!
悪いか?
い、いえ……悪くは……
でも婦女子に問答無用で手をあげるというのは遺憾の極みであり……
もう一発落とすか?
和平条約の締結を提案する
私は心が折れた。
だって痛いもん。
敗残兵に交渉の余地があるとでも?
とにかくセクハラはやめろ。
いいな?
いえっさー!
じゃあ、そこで大人しく待ってろよ。
今資料もらってくるから。
さーいえっさー!
あとで鞭で叩いてやる。
セクハラしてやる。
絶対仕返ししてやる。
フフフ。
修ちゃんにはあとで甘ロリ着てもらって撮影会だ。
それで写真を撮ってサイトにアップロードして晒し者にしてくれる!
ぐはははは!
ぐはははははは!
私が実現不可能な仕返しに思いをはせていると修ちゃんが受付で資料を貰ってきた。
お嬢様。
資料をプリントアウト致しました。
はいはーい。
どれどれ。
私はその資料を隅々まで読む。
修ちゃんももう一部プリントした資料を読む。
あー、やっぱり。
おかしいと思ったんだよね……
このご時世に強要なんてねえー。
まったくですね……
二人であきれ果てていた。
だって、ねえ?
コンプライアンスだなんだとうるさいこの時代に無理がありすぎると思ったんだ……
汚嬢様きーっく!!!
私は軽く助走をつけると嫌みったらしく豪華なドアに蹴りを入れた。
勢いよくドアが開け放たれドスンと音を立てた。
ぱーぱー。来ちゃったわーん♪
全員の視線が私に集まった。
コスプレをした女の子がドアを蹴り開ければ、そりゃ注目はされる。
だがそんなことは関係ない。
私はここに勝負をしに来たのだ。
掛け金は私の信用。
それはもうデストロイしただろうが……
賞金は沙羅ちゃんだ。
気を引き締めてかからねばならない。
亜矢なんのようだ?
武藤洋二(むとうようじ)。
武藤財閥のNO.2にして私の父親だ。
会社では総帥である祖父の次に偉い。
そのクソ親父が私を睨み付けた。
会社に来たのですから会社の話ですわぁ。
わざとらしいお嬢様言葉でおちょくる。
んふ。
この会社に重大な危機が迫ってますわん。
ほう話してみろ。
だが、もしふざけた話だったらお前は終わりだぞ。
クソ親父は明らかにキレていた。
どうもこの親父との仲はうまくいっていない。
どうにも嫌われているような気がする。
だけど、それは関係ない。
ここまでは予定通りなのだ。
ええわかってますわ。
まず仲間沙羅さんの件で……
それは誰だ?
武藤マテリアルの関西支社の仲間社長のお嬢さんですよ。
大の大人が彼女に寄ってたかって嫌がらせしてますの。
ふん、くだらない。
それはただの家庭の問題だ。
あら、本当に?
中身も聞かずに断定できますの?
私はニコニコとしながら圧力をかける。
内心では腹が煮えくりかえるような思いだが、キレてこのオッサンに揚げ足を取られるわけにはいかない。
殴っちゃだめだぞー。
だめだぞー!
我慢ですわ。
我慢。
羊が一匹。ぶっ飛ばす。
羊が二匹。やっぱぶっ飛ばす。
蹴り入れて馬乗りになって殴って引っ掻いて……
もうすでに私の怒りは臨界状態だった。
どうやらテンパっている。
ひっひっふー。
ひっひっふー。
修一。
お前がついていながらなんだ。
亜矢を連れて行くんだ。
旦那様。正しいと思ったから私は手を貸しました。
聞かないと後悔されますよ。
言ってみろ。
ちょっと!
私の扱いと違くない?
なんか私より修ちゃんの方が信用されてない?
ぐぬぬ。
おまえらー!!!
だがそこにツッコミを入れる暇は与えられない。
では汚嬢様お願い致します。
彼女は妊娠してますの。
相手は白瀬乃恵瑠。
……
ぴくりと親父の眉が上がる。
白瀬のことは知っているのか。
し、白瀬って言うのはあの白瀬か!
……。
役員の一人が気がついたようだ。
その横でバーコードハゲが青くなっていた。
ああそうか。
コイツは武藤マテリアルの社長だ。
ええ。
あの宇宙産業から発電所まで、加工技術を持った町工場、白瀬軽合金鋳造所ですわ。
どういうことだ?
白瀬さんとはお付き合いさせてもらっているが……
いえね。よくあるんですよ。
町工場の弱みにつけ込んで技術よこせっていうやつ。
キャバクラ調べ。(キリッ!)
長い付き合いの中ではそういうこともあるだろう。
それに違法ではないはずだが……?
ぐぬぬぬぬ。
この野郎。
あとで隠してた秘蔵のワイン飲んじゃる!
と反射的に報復が頭に浮かぶが、そういう邪念を私は追い払う。
私は切り札を持っているのだ。
そう?
んじゃ、高藤財閥への横流しと技術流出も?
にっこり。
ここでようやく私は微笑んだ。
私は勝利を確信した。