ぺぽぺぽぺぽ。
修ちゃんが運転するバイクの後ろに乗って私は本社にやって来た。
修ちゃんが剣持くんから取り上げたバイクだ。

なのでバイクがヤンキー仕様なのは気にしない。
というかツッコんだら拳骨を落とされるに違いない。

武藤亜矢心の声

触らぬ神に祟り無しですわ!!!

と、いうわけで、私は本社に乗り込む。
アニメ『イケメン☆ミリタリー学園』の制服(コスプレ)の格好でだ。
軍服に無駄に高いピンヒール付きのブーツ。
意味のない眼帯。
片手には鞭という扇情的なコスチュームでだ。

武藤亜矢心の声

やんだーエローい♪

馬淵修一

汚嬢様。
そ、そのなんというか……少し体の線を出し過ぎなコスチュームでして……

修ちゃんの顔が真っ赤になる。
ふふふ。
意識してる。意識してる!!!

でも残念ながら今は修ちゃんにセクハラしてる暇はない。

武藤亜矢

軍服に鞭。
これが正装だと聞きましたの♪

馬淵修一

なんで深夜アニメ基準なんだよ。
汚嬢様よお。

ツッコミなど聞こえぬ!

武藤亜矢

ふふふ。楽しいからですわ!!!

修ちゃんが私に汚物を見るような視線を浴びせる。
あ、そう。
そういう態度。
ふーん、へー。
そういう態度の子はお仕置きなのだ♪
お尻さわさわさわさわ。

馬淵修一

おいコラ、ナチュラルに尻を撫でるな。

武藤亜矢

腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐。
この乾ききった都会のコンクリートジャングルで少年へのセクハラに癒やしを求めてなにが悪い!
ええじゃないかええじゃないか!

馬淵修一

俺が嫌だつってんだよ!

もう。
恥ずかしがってー。
ホントは私を好きで好きでたまらないくせにー。
と、私はニヤニヤしながら修ちゃんの脇腹をつつく。

武藤亜矢

もう嬉しいくせにー♪
スキンシップスキンシップげへへ。

 ごちん。

武藤亜矢

んべ!

星が見えた。
なにを言っても無駄だと思ったのか修ちゃんは無言で拳骨を落としたのだ。
前回のじゃれ合いとは違い、制裁目的なので痛い。
手加減はされているのだが、それでも痛い。

武藤亜矢

ぶったー!

馬淵修一

悪いか?

武藤亜矢

い、いえ……悪くは……
でも婦女子に問答無用で手をあげるというのは遺憾の極みであり……

馬淵修一

もう一発落とすか?

武藤亜矢

和平条約の締結を提案する

私は心が折れた。
だって痛いもん。

馬淵修一

敗残兵に交渉の余地があるとでも?
とにかくセクハラはやめろ。
いいな?

武藤亜矢

いえっさー!

馬淵修一

じゃあ、そこで大人しく待ってろよ。
今資料もらってくるから。

武藤亜矢

さーいえっさー!

あとで鞭で叩いてやる。
セクハラしてやる。
絶対仕返ししてやる。

武藤亜矢心の声

フフフ。
修ちゃんにはあとで甘ロリ着てもらって撮影会だ。
それで写真を撮ってサイトにアップロードして晒し者にしてくれる!
ぐはははは!
ぐはははははは!

私が実現不可能な仕返しに思いをはせていると修ちゃんが受付で資料を貰ってきた。

馬淵修一

お嬢様。
資料をプリントアウト致しました。

武藤亜矢

はいはーい。
どれどれ。

 私はその資料を隅々まで読む。
 修ちゃんももう一部プリントした資料を読む。
 あー、やっぱり。

武藤亜矢

おかしいと思ったんだよね……
このご時世に強要なんてねえー。

馬淵修一

まったくですね……

二人であきれ果てていた。
だって、ねえ?
コンプライアンスだなんだとうるさいこの時代に無理がありすぎると思ったんだ……

武藤亜矢心の声

汚嬢様きーっく!!!

私は軽く助走をつけると嫌みったらしく豪華なドアに蹴りを入れた。
勢いよくドアが開け放たれドスンと音を立てた。

武藤亜矢

ぱーぱー。来ちゃったわーん♪

全員の視線が私に集まった。
コスプレをした女の子がドアを蹴り開ければ、そりゃ注目はされる。
だがそんなことは関係ない。
私はここに勝負をしに来たのだ。
掛け金は私の信用。
それはもうデストロイしただろうが……
賞金は沙羅ちゃんだ。
気を引き締めてかからねばならない。

武藤洋二

亜矢なんのようだ?

武藤洋二(むとうようじ)。
武藤財閥のNO.2にして私の父親だ。
会社では総帥である祖父の次に偉い。
そのクソ親父が私を睨み付けた。

武藤亜矢

会社に来たのですから会社の話ですわぁ。

わざとらしいお嬢様言葉でおちょくる。

武藤亜矢

んふ。
この会社に重大な危機が迫ってますわん。

武藤洋二

ほう話してみろ。
だが、もしふざけた話だったらお前は終わりだぞ。

クソ親父は明らかにキレていた。
どうもこの親父との仲はうまくいっていない。
どうにも嫌われているような気がする。
だけど、それは関係ない。
ここまでは予定通りなのだ。

武藤亜矢

ええわかってますわ。
まず仲間沙羅さんの件で……

武藤洋二

それは誰だ?

武藤亜矢

武藤マテリアルの関西支社の仲間社長のお嬢さんですよ。
大の大人が彼女に寄ってたかって嫌がらせしてますの。

武藤洋二

ふん、くだらない。
それはただの家庭の問題だ。

武藤亜矢

あら、本当に?
中身も聞かずに断定できますの?

私はニコニコとしながら圧力をかける。
内心では腹が煮えくりかえるような思いだが、キレてこのオッサンに揚げ足を取られるわけにはいかない。
殴っちゃだめだぞー。
だめだぞー!

武藤亜矢心の声

我慢ですわ。
我慢。
羊が一匹。ぶっ飛ばす。
羊が二匹。やっぱぶっ飛ばす。
蹴り入れて馬乗りになって殴って引っ掻いて……

もうすでに私の怒りは臨界状態だった。
どうやらテンパっている。
ひっひっふー。
ひっひっふー。

武藤洋二

修一。
お前がついていながらなんだ。
亜矢を連れて行くんだ。

馬淵修一

旦那様。正しいと思ったから私は手を貸しました。
聞かないと後悔されますよ。

武藤洋二

言ってみろ。

武藤亜矢心の声

ちょっと!
私の扱いと違くない?
なんか私より修ちゃんの方が信用されてない?

ぐぬぬ。
おまえらー!!!

だがそこにツッコミを入れる暇は与えられない。

馬淵修一

では汚嬢様お願い致します。

武藤亜矢

彼女は妊娠してますの。
相手は白瀬乃恵瑠。

武藤洋二

……

ぴくりと親父の眉が上がる。
白瀬のことは知っているのか。

役員

し、白瀬って言うのはあの白瀬か!

バーコードハゲ

……。

役員の一人が気がついたようだ。
その横でバーコードハゲが青くなっていた。
ああそうか。
コイツは武藤マテリアルの社長だ。

武藤亜矢

ええ。
あの宇宙産業から発電所まで、加工技術を持った町工場、白瀬軽合金鋳造所ですわ。

武藤洋二

どういうことだ?
白瀬さんとはお付き合いさせてもらっているが……

武藤亜矢

いえね。よくあるんですよ。
町工場の弱みにつけ込んで技術よこせっていうやつ。

武藤亜矢心の声

キャバクラ調べ。(キリッ!)

武藤洋二

長い付き合いの中ではそういうこともあるだろう。
それに違法ではないはずだが……?

ぐぬぬぬぬ。
この野郎。
あとで隠してた秘蔵のワイン飲んじゃる!

と反射的に報復が頭に浮かぶが、そういう邪念を私は追い払う。
私は切り札を持っているのだ。

武藤亜矢

そう?
んじゃ、高藤財閥への横流しと技術流出も?

にっこり。
ここでようやく私は微笑んだ。
私は勝利を確信した。

第6話 汚嬢様、突撃する。

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