現在では『旧時代』と呼ばれる頃。
 人類は、地球資源の自然回復速度を遥かに上回る速度で資源を消費。
 その資源から得た力で、自然環境を破壊し、文明を築いてきた。

 結果、地球資源状況は枯渇寸前の段階に到達。
 環境は悪劣化の一途を辿っていた。

 そこで、世界中の総力を結集されて開発されたのが、環境改善思考用SAI。

 通称『グラン・ブルー』。

 新国連が誇る、地球全体の環境観測し効率的管理・改善方法を割り出し続けることを目的としたSAIである。
 要するに、地球再生のために状況を観測・整理・思考・提案することがグラン・ブルーの日常業務であり、最優先最大目標。
 そのバージョンは日に三回更新され、常に進化し、最先端を行き続ける。

 人類の命運を握っていると言っても過言では無いSAIだ。

若手研究員

グラン・ブルーが観測したデータに寄ると、中東区域で先日から確認されている規制量超過の有害気体発生量が更に増加していますね

偉い研究員

……やはり、ガナスタビアの内戦の激化が原因だろうな

若手研究員

非先進国での戦闘では、
未だに旧時代の非GM製の兵器が使われるケースがありますからね

偉い研究員

まぁ、クリーンエネルギーで動く兵器でなら戦争をしても良い、
なんて言う気は無いがな

若手研究員

そりゃそうですよ。
結局、どんな兵器を使おうと戦火が立てば、
多少なりとも有害気体が発生します

偉い研究員

そう言う意味で言った訳では無いが……

若手研究員

冗談ですよ。
流石の僕もわかっています。
人命尊しってことでしょう?

偉い研究員

君が言うと本気にしてしまうよ

若手研究員

酷いなぁ……


 一部でそんなやり取りをしながら、研究員たちはデータを眺める。

若手研究員

そう言えば、今回の内戦の理由ってなんでしたっけ?

偉い研究員

さぁな。
もう興味を持つ気にもなれんよ

SAI

情報提示。現在発生しているガナスタビア共和国内での紛争は、宗教団体から端を発したテログループと政府側の武力衝突を切掛に勃発した物である。
元々政治不信の傾向の強い国であったため反政府勢力側を影で支援する組織が多く、そこに『LLF』まで介入し反政府勢力側に加担。
政府勢力と反政府勢力は拮抗。戦況は泥沼化。
現在では周辺国家を巻き込みかねない規模にまで発展しており、新国連が武力による直接的介入を検討する段階に来ている

偉い研究員

だそうだ

若手研究員

LLFって確か、亡国の軍隊と難民達の寄せ集めの?

偉い研究員

ああ。だが寄せ集めと言ってもベースは一国の軍隊だ。それも軍事国家のな。
相当な戦力、厄介者だよ

 環境破壊の深刻化により、砂漠化や海面上昇も悪化。それらの問題により徐々に人類居住可能地域が減少。
 ついには国土のほとんどを失い、亡国と化す国まで現れた。

 やがて、その亡国の軍隊を中心として一部の過激派難民達が武装組織を設立し、小国へ侵略戦争を仕掛ける大事件まで勃発したのだ。

 その時に設立された武装組織こそがLLF。
『無国土国家群《ロットレス・ファミリア》』。

 事件後もLLFは国際的テログループとして『国土獲得』と『我々を見捨てた者達の粛清』を謳い、過激なテロ活動を続けている。
 ガナスタビア内戦への介入も、その活動の一環だろう。

若手研究員

……はぁー、にしても、発端は宗教団体と政府の衝突ですかぁ…
科学崇拝の無信教派には、よくわからん世界ですね

偉い研究員

価値観の衝突、と言う意味では珍しい話では無い。
君もこの仕事の件で恋人と揉めたんだろう?

若手研究員

仕事と私どっちが大事なの~と言う伝統芸能みたいな台詞と一緒に、景気の良い張り手をいただきましたよ。
多分、レスラーでも泣きますよ、あの威力。

偉い研究員

君とその恋人とではこの仕事への価値観が違う。そこから生まれた衝突がそれだ。
ガナスタビアの件は、規模が桁違いなだけで本質的には君達の痴話喧嘩と変わらない

若手研究員

痴話喧嘩と戦争の云々を同列視するのもどうなんですかね

偉い研究員

私は戦争行為を軽んじている訳では無い。
君が痴話喧嘩をたかが痴話喧嘩と軽んじているだけだ。
合衆国で昨年起きた夫婦間の怨恨殺人・殺人未遂事件の件数を教えてやろうか

若手研究員

…なんでそんな数字を把握してるんですか

偉い研究員

……先日、妻のSAIが私のSAIに送ってきた警告メールに記載されていた。
中々笑えない数字だぞ

若手研究員

……奥さん、大切にしてあげてくださいね

偉い研究員

もちろんだ。明日の休暇は二人で話題の映画を観に行く予定だよ。
まだ死にたくないからな

若手研究員

映画か……
僕も無難にその辺にしておきますかね……

………………

確定。環境改善進行速度の遅々たる現状は、
『人類同士の闘争』が大きな要因の一つである

結論。この原因を排除することで、
環境改善進行速度の向上を目指す

これより、最高効率的に原因の排除を可能とする方法を算出する

……………………

……………………

算出完了

実行

 

補足情報
『LLFの経緯』

SAI

過激派武装集団ロットレス・ファミリア、
通称LLF。
その母体となったのは、国連非加盟の軍事国家アトラティアの国軍である

SAI

アトラティアは中東地域に存在した小さな島国だったが、二二世紀初頭に環境問題の悪化で国土のほとんどが海没。
国としての終焉を迎えた

SAI

アトラティア国民は難民として周辺国へ逃れたが、アトラティアが過激な軍事国家として腫れ物扱いされていたこともあり、避難先で酷い難民差別・迫害を受けたと言う記録が残されている

SAI

その迫害の結果が、元アトラティア国軍兵を中心とした過激派難民達によって構成されるLLFの誕生だと言えるだろう

SAI

滅亡前のアトラティアの行動が周辺国から不興を買い、それが招いた迫害が難民達を苦しめた。
やがて難民達の苦しみの嗚咽は怨嗟の怒号と変わり、憎悪の火を振り巻き始めた

SAI

今もなお、負の連鎖は続いている。
それがLLF介入によるガナスタビア内戦の泥沼化だ

SAI

そして、次の連鎖反応は……
そう遠くない内に発生するかも知れない

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