神さまがこちらを見て、僕に問いかける。それに対して、僕は、
それで、ここには何の用で来たのかな来たのかな?
神さまがこちらを見て、僕に問いかける。それに対して、僕は、
神さまを捕まえに来ました
正直に答えた。正しくは、正直に答えるしかなかった。
神さまという存在は、嘘には厳しい。
特に、力のある神さまは、デフォルトで嘘を見破るという力を持つと言われている。
その力を恐れた僕は、神さまを捕まえるという荒唐無稽でばかげた話を正直に答えるしかなかった。
……ぷ
あははははははははははははは!
あはははは面白い面白い! お腹が、ぐるぐるよじれるよじれるー!
……大丈夫ですか?
はぁーっ、はぁーっ……大丈夫、落ちついた落ちついた
もう、君が面白いことを言うからだよだよ。しかも本当のようだしだし
すみません……
謝ることじゃないよじゃないよ。さすがに私は捕まえることは出来ないけど出来ないけど
そうでしょうね
ええ、知ってました。こんな超常を起こせる神さま捕まえるなんて、出来る気がしません。
ごめんねごめんね、ご希望に応えることが出来なくて出来なくて
滅相もない
本当に滅相もない。現在心底思っています。
でも、丁度よかったよかった
……丁度?
立ち話もあれだしあれだし。場所を変えましょうそうしましょう
推定山の神さまがそう言い、ぱん、と手をたたくと、瞬間、風景が切り替わる。
桜舞う棚田ではなく、囲炉裏が見える古民家の中の土間に足をつく。
さあ、上がって上がって
土間で下駄を脱ぎ、山の神さまが石段から木床に上がる。僕もそれにならい、靴を脱ぎ、揃えてから上がる。
すると、上った先に、奇妙な少女が立っていた。
柔らかで艶のある、赤めの金色の髪を持つ少女。山の神さまよりも生気があるというか、健康そうな赤めの肌色。赤紅葉の着物を着て、部屋に入ろうとする山の神さまの前に仁王立ちしていた。
そして何より、奇妙だったのが頭の側面からぴんと立っている、獣の耳。形は……犬?
遅いのじゃ
手を組みつつ、少女が苛立ちを隠さずに語気に加えて話している。
よほど怒っているのだろう。
後ろから見える金色と先が白色の尾が四尾、すべて逆立って見えた。
と、僕は気づいた。金色の獣耳に、白と金の尾。目の前の少女は、化け狐らしい。
ごめんねごめんね
しかも周り木々がびっくりおるし、一体お主は一体何を……っと。なぜここに童貞を連れ込んでおる?
どうてい、って僕のことだろうか。
いいじゃないいいじゃない
いいわけなかろが。仮にもここは神域じゃぞ
大丈夫大丈夫、これでも私の神威を一発で見抜いた巫候補よ。資格は十分あるわあるわ
資格があってもわらわがいやじゃ
嬉しいわ嬉しいわ、久しぶりに丸裸にされた感じ、懐かしいわ懐かしいわ
……話を聞くのじゃ、この露出狂
露出狂なんでひどいわひどいわ。優秀な巫候補にであえた喜びに震えてるって言えないかな言えないかな
そんなことでここに連れてくることなかろ
あら、それ以外にも理由はあるわあるわ
あの
あら?
なんじゃ
この子は誰ですか?
ああ、えっと、この子はねこの子はね
誰ですか、じゃと?
少女がわなわなと震え出ながら山の神さまの横まで進み、土間から部屋に上がろうとした僕の前で腕を組み、言った。
わらわはこの地の神にして古より生き存えし神獣、豊穣と円満を司る穂波の天狐であるぞ!
数秒、静寂が包む。僕は今までの情報をよく吟味し、結論を出した。
……誰?
吟味した結果、全く話が繋がらないことが分かった。
ぐはぁっ!
少女が胸を押さえて後ろに倒れこむ。
ああっ、穂波ちゃん!
それを山の神さまがナイスキャッチ。少女を後ろから横に抱きかかえる形に。
まさかここまでダメージを受けるとは、言い過ぎた気もするけど。
あ、なんかすみません
いいのよいいのよ、穂波ちゃんの知名度がないのはいつものことだし
げふぅっ!
さらにダメージが入った模様。山の神さまの腕の中で狐の少女が体を横に揺らす。
これでも、日本の神さまでは最古参に入るんだけどねだけどね
全然知らなかったです
ぐほぉっ!
三段ヒット。コンボが成立したのか狐耳の少女は耳の先からしっぽの先までビクビクしている。
で、山の神さま。この子というか狐?は一体
えっとね……この穂波ちゃんが本当の、この穂波山の神さまなのなの
……どういうことですか
それはね……っと説明するその前に、この体勢、ちょうどいいし、穂波ちゃん、今日の分を渡すね渡すね
へ? ちょっと待て後で良かろうなぜ今
だーめ
慌てる山の神さまが、腕の中にいる狐の神さま?の顔を顔面に引き寄せ、
そのまま、接吻を交わした。
しかも、でぃーぷな方である。
相手の口内を舌で蹂躙する、一方的で強烈な接吻が、目の前で行われている。
効果音としてズキュ~~~ン!とか付きそうだ。
僕は目の前で起こる突然の出来事に、混乱しつつも目が離せなくなっていた。
~~~!? ~~~!!
狐の神さまは必死に抵抗するも、体差も神としての力も差がある山の神さまに叶うはずもなく。
! ……
途中からぐったりとされるがままとなり。
ぁぁぁ……
山の神さまが口を離すと、そこには身も心も蕩けきり抜け殻と化した狐の神さまがいた。
ふう
山の神さまが自分の口の周りに付いたよだれを舌で舐めとる。
その顔は、すごく満足げで艶やかだった。