……嬢様。
……嬢様。
お嬢様。
うーん……
誰だよこんな早い時間に!
こちとら朝まで原稿描いてて眠いんだよ!
出勤まで起こさないで!
昨日はシャンパンタワーしながらお客さんとガ●ダム話に花を咲かせて……
ガン●ムと●ョジョはキャバ嬢の必修科目ーっと。
汚嬢様!!!
なんだ修ちゃんかあ。
おはようのチューしてくれたら起きてア・ゲ・ル♪
ぐこー。(再び眠る)
ぶん殴るぞ。
この汚嬢様!
はうあ! らめえ!!!
相変わらずお嬢様成分の全くない目覚めですね。
私は目をこすりながら辺りを見回した。
私がいるのはわざとらしいほど豪華なベッド。
無駄に広い部屋。
四畳半が懐かしい。
目の前にいるのは修ちゃん。
本名、馬淵修一(まぶちしゅういち)。
一つ上の男の子。
でも身長低め。
私の幼なじみで共犯者で御付きの人。
いわゆる執事だ。
巷では執事という職業はスーパーヒーローか何かと勘違いされてるような気がするが、修ちゃんはそういう万能執事だ。
気にしたら負けに違いない。
私とは一周目では実にくだらない悪事に無理矢理付き合わせた仲だ。
最終的に修ちゃんは警察に捕まってしまって少年刑務所送りに。
さすがに今回はそれは避けたい。
まったく、高校生になったんですからもうちょっと大人になってください。
いやぷー♪
一周目みたいなお嬢様成分100%だけが取り柄のバカになんかなるものか!
さて、幼なじみがいるのだ。
朝から恋愛ゲームと言う名の駆け引きとしゃれ込もう。
修ちゃん! 修ちゃん!
なんですか?
ツンデレとヤンデレどっちが好き?
お前はなにを言っている?
おっと、朝の小粋な会話に失敗したようだ。
おかしい。
男の子向けの萌えゲーではこういう会話でハートマークが飛び交ったのに!
まったく!
一周目で少年刑務所送りになったお詫びにどちらかのキャラで接してやろうと言っているのに……
いや違う……いや……も、もしかして!
い、妹キャラ……を……ご所望なのか……?
くっ!
む、難しいオーダーが入りやがったぜ……
てめえなにを口走ってやがる?
きゃるるーん♪
お兄ちゃんアヤアヤねー。
あんなクソ学校行きたくなーい♪
恋愛脳のクソビッチと、バカこじらせた教師ばかりでアヤアヤ超うんざりー♪
ガールズトークとかマジうぜぇー♪
みんな死ねばいいのに♪
きゃふーん♪
萌えオタならこれで萌え死ぬはずだ。
学校までサボれて一石二鳥!
これぞ完璧な戦略!!!
本気でぶん殴るぞ。
この汚嬢様。
オラ学校行くぞ。
ズル休み失敗でゴザル。
んじゃ着替えるか……
あー……学校行きたくねえ。
あ、そうそう。
修ちゃん、生着替え見る?
いやんばかん。
修ちゃんのえっちー♪
ほれほれ、女子高生の着替えだぞー♪
アホか!
冷たく言い放つと、修ちゃんはスタスタと部屋を出て行く。
女の子にその態度はどうかと思うぞ。
ちぇー。
お尻ポリポリ。
しかたねえ学校行くか。
学校への道
などなどなどーなーどー。
などなどなどどー。
(子牛の気持ちで)
あえてギリギリの線で逆らってみた。
豪華な車で市場じゃなくて学校に運ばれる私。
無駄に広い車内には修ちゃんもいる。
修ちゃんは一つ年上で同じ学校に通っている。
一つ上程度で偉そうにしやがって!
それにしてもこの車は無駄だ。
こういう無駄が破滅に直結してるとなぜわからない?
だいたい、このまま行けば中退するのに。
……ちょっとムカついたので考えるのをやめよう。
そうそう今日の予定を確かめないと。
はい。今日の私の予定。
朝、嫉妬から王子に色目を使った転校生に言いがかりをつける。
昼、転校生を屋上に呼び出して集団でいじめる。
夜、仲間の女子とSNSで悪巧み。
はうわッ!
……頭悪そう!!!
ダメだ!
とても同一人物とは思えないくらい頭が悪い!
いつ勉強してるんだこのバカは……
ああ、私ってバカだったんだ。
同じキャバクラで働いていてた沙羅ちゃん。
全力で恋愛してて男に逃げられて、しかも逃げられて、その頃には妊娠してて、子どもを産んだら家も学校も追い出された沙羅ちゃん。
心の片隅でほんのちょっとだけ不器用でバカな生き方だなあって思っててごめん。
マジでごめん。
私の方がもっと低レベルでガキでバカでした……
黒歴史が増えたー!
こ、こういうのって痛い目見ないとわからないって聞いてたけどガチでしたわ!
この路線はダメ!
絶対にダメ!
ホントダメだー!!!
なにを身もだえているんですかお嬢様
しゅ、修ちゃん……黒歴史ってどうやって消せばいい?
はうわー!
黒歴史が襲ってくるー!
誰もそうやって大人になるんです。
あきらめてください。
私も死にたいと思うことはありますし。
ぐぬぬ!
一つ上なのに偉そうに!
い、今死にたい!
今猛烈に死にたい!……って、修ちゃんに黒歴史?
黒歴史と無縁そうなこの男の子に一体何があった?
修ちゃんはミスターパーフェクトだぞ。
身長以外。
ええ、今は亡き奥様から任された大事なお嬢様の育て方間違えたなーって……
ほろり。
ちなみに修ちゃんの顔はニヒルに笑いながら影を作っている。
うーん、変なスイッチ押しちゃった。
それはそれはさぞかし悲しい思いを……
ってなんじゃそれー!!!
まったく酷い言いぐさだ。
私はキャバ嬢として世間の荒波にもまれた結果こうなったの!
これを成長と言わずしてなにを成長というのか!
オーホッホッホッホと高笑いして楽しそうにしてたと思えば、ある日突然オッサンみたいになってしまったし……
あー……
それは否定できない。
半裸の男が抱き合ってるマンガ買ってくるし。
しかも隠そうともしないし。
あー……
冷蔵庫のビール勝手に飲むし……
『パパにお使い頼まれちゃった♪』って嘘ついて焼酎とホッピー買ってくるし……
しかも肴が炙ったスルメですよ!酷すぎる!げふッ!ぐすッ!
な、泣くな!
まるで私が悪いみたいじゃないか!
朝は突然妹キャラとか意味がわからないこと言い出すし!
恥じらいもないし!!!
酷い!酷すぎる!!!
そのまま修ちゃんは号泣。
どうしてこうなった!!!
なんとか慰めないと私が悪者みたいじゃないか!
あ、あのね、修ちゃん……
くうううう。
どうしてこうなったー!
あ、あのね……これからトップを目指すから泣き止んで。
お、お嬢様
NO.1キャバ嬢になるだけの努力をする!!!
その後、なぜか修ちゃんは無言のまま固まりながら、涙を流しながらふるふると首を横に振っていた。
うーん、少し失敗したみたい。
次は働いていた店の近くにあるフィリピンパブ『ハリウッド』を潰すくらいがんばると言わねば。
いや違う!
もっと夢は大きくだ。
うん反省。
日本NO.1を目指す!!!
うわああああああああああああんッ!!!
ギャン泣き。
なぜ泣く?
もう収拾がつかない。
もうこうなったら……
アヤアヤ学校行こうっと♪
(逃げよっと)
この汚嬢様!!!
ふふふふ。
足掻くがいい!
私は反省しないし、やめないのだ!