汚嬢様は砕けない!

~ポンコツ悪役令嬢と万能執事~

武藤亜矢

ここに一本のゲームが存在する。

スマホゲーム

『イケメン☆ハイスクール』

なんの取り柄のない女の子が努力もせずにちやほやされ、男をとっかえひっかえするという女子の妄想いっぱいのゲームだ。

武藤亜矢

なんの取り柄のない女の子が。

武藤亜矢

大事なことだから二度言いました。
 げしっ!(ゴミ箱を蹴る音)

そんな主人公に代わって努力をするのはユーザーだ。

基本プレイ無料、ガチャ1回500円。
課金すれば課金するほどイケメンをゲットしやすくなるシステムだ。
さて、そんなゲームにも多少の女子は出現する。
例えばパラメーターを教えてくれる友人キャラ。
そして……悪役。

武藤亜矢

はい悪役です。

私はその中の悪役だった。
私のことを紹介しよう。

武藤亜矢

私は武藤亜矢。

武藤亜矢心の声

ちなみにこっちは私の心の声。

悪役である私は、武藤財閥の令嬢にして高校に君臨する暴君。
主人公に度重なる嫌がらせを繰り返し最終的に家まで巻き込んで自滅する役割だ。
私は武藤亜矢として一度破滅した。
でもゲームには続きがあった。
というか人生はたとえ破滅しても死ぬまでは続く。
それにその頃はこの世界がゲームだと気づいていなかった。

私の破滅は次のような流れだ。
嫌がらせ発覚。
学校での立場が危うくなる。
実家も気がついたら会社が傾いていた。
そして会社が倒産。
権力も金もなくなって家族は解散、私は学校をクビに。
……というかなり理不尽な流れで高校をクビになったわけだ。

なんとか築35年のアパートに入居すると年齢をごまかしてキャバクラで働いていた。
そこで社会を勉強し、世間の荒波にもまれて性格もだいぶ丸くなった。
まあそれなりに楽しく暮らしていた。
そんな中、あの事件が起こった。
家が燃えたのだ。
漏電だろうか?
それとも放火だろうか?
私はそれを知る術はない。
なぜなら私はその火事で死んだから。

武藤亜矢

せっかく稼いで集めたBLコレクションを燃やしてたまるものかああああああああッ!

じゃなくて。

武藤亜矢

ぬおおおおお! 集めた薄い本に火がついたああああああ!

これも違う。

武藤亜矢

ぬはッ! コミケの原稿があああああああああッ!

これ大事。

武藤亜矢

あ……やっべ……逃げ道なくなった!

あー……えーっと……はい。
私、そういう人。
アニオタでコミックオタでガノタ(ガ●ダムオタク)でプオタ(プロレスオタク)ですがなにか?
マンガとラノベでアパートの床が抜けそうですがなにか?
BLとかけしからん薄い本が好きですがなにか?
いやね、学校追い出されてキャバ嬢やってたときに暇潰しにマンガ買ったらハマっちゃってさ……
新しい自分の扉を開けてしまったのね。
それからは早かった……
まるで坂を転がり落ちるようにあらゆる趣味に手を出した。

武藤亜矢

オタクの世界って素晴らしい♪

それでコレクションを救い出そうとして、がっつり逃げ遅れたんだよね。
たぶん気にしたら負けだと思うんだ。

その後は記憶が曖昧なのだが、おぼろげに憶えているのは神様的な存在に触れた……っぽい。

※イメージ

なんかアメコミの全身タイツのヒーローみたいな……
エジプトの神みたいな……
麻呂みたいな……
パンチパーマの演歌歌手みたいな……

要するに……ほとんどなにも憶えていない。
そして私はこの世界がゲームだと知った。
気づいたら高校生活からやり直しになったわけね。
やりたいことに生きる!

お客さんにもプロレスやら鉄道やらガン●ムを紹介してもらって今の姿に……
でも後悔してない!

武藤亜矢心の声

だって今の方が楽しいから!!!

え?
ヒロインからイケメンを取り返す?

武藤亜矢心の声

いらないいらない。
いやマジで。

イケメンってのはあくまで観賞用。
遠くから眺めるのが一番適切な距離。
近くに寄ったらアラしか見えない。
っていうか私が溶ける。
あんな無駄にさわやかな人間が近くにいたら私は死んでしまう!
私はキャバでそれを覚った。
オタトークさえできれば喜んでくれるオタクのおっさんたち。
その空気感が大事なのだ。
普段使用する男は空気感が大事。
男なんて私の趣味を容認してくれて、できれば原稿手伝ってくれて、料理が上手で、だらしない姿を晒してもひかなくて、私の都合のいいときにくっつかせてくれればいいや。
まあ、実はそういう男ほどスーパーレアなんだけどね!

武藤亜矢

でも……いたんだ。

二度目になって見れば自分を一番認めててくれた男の子の存在に気づいたんだ。
一周目の自分ってそんなことも気づかないくらいにおバカ。
今度は遠くのイケメンより近くのいい男。
それにやらなきゃいけないこともたくさんある。
とにかく二周目は自分らしく楽しく生きるつもり。

武藤亜矢

だ、誰にも邪魔なんてさせないんだからね!

……ツンデレっぽく言ってみた。

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