この子たちも一緒に保護すること

 それがヤマイダレさんの提示した条件だった。

…………

 私はこのとき、自分たちの置かれた立場をようやく理解した。

 おそるおそる、みんなの顔色をうかがった。


 すると、お姉さんは、やさしく微笑んだ。

CIAの工作員

もちろん保護するわ

MI6の諜報員

当然だ

KGBの職員

当たり前よ

ありがとう

 ヤマイダレさんは、ほっと胸をなでおろした。

 お姉さんたちは、母性に満ちたため息をついた。


 私は全身から力が抜けていくのを感じた。

 その場に座りこみそうになった。

 ヤマイダレさんが気づかうようにこう言った。

ごめんね、オトナのつまらなくて醜いお話を長々と聞かせちゃって

いえっ

でも、これでもうお終い。後はこれからどうするかを、みんなで話しあうだけよ

えっ、はい

もしかして、私たちのことを嫌いになっちゃった?

ううん、そんなことない

だったら、これからのことを一緒に決めましょう? あなたたちも積極的に発言してね

 ヤマイダレさんは、にっこり笑ってそう言った。

 私たちは噛みしめるように、うなずいた。

さて。私たちが保護を求める国だけど――。参考までに、スパイのみんなにアンケートをとっていい?

 ヤマイダレさんが訊くと、お姉さんたちは笑顔でうなずいた。

もっとも信用できない国は?

CIAの工作員

イギリス

MI6の諜報員

イギリス

KGBの職員

イギリス

イギリス

※ あくまで個人の感想です

じゃあ、もっとも頼りがいのある国は?

CIAの工作員

ロシア

MI6の諜報員

ロシア

KGBの職員

アメリカ

アメリカっと

※ あくまで個人の感想です

うーん、みごとに別れたわね。で、もっとも好きな体位は?

CIAの工作員

騎乗位

MI6の諜報員

あはは

CIAの工作員

って、ちょっと何を言わせるのよ

KGBの職員

というか、イギリスぅ

もう、みごとな裏切りっぷりね

 ヤマイダレさんは、ニヤリと笑った。

 それから背を向けて振りかえると、肩越しにこう言った。

ちなみに、私はバックよ

 念を押すようにもう一度言った。

立ちバックが大好きよ

 キメ顔でそう言った。


 なんというか、いつものヤマイダレさんだった。

 下ネタが大好きな痴女に戻っていた。

 まあ、それが喜ばしいことなのかは分からないけれど、とにかく場の空気は、やわらいだ。

CIAの工作員

しかし、困ったわね

MI6の諜報員

信用できない国はさておき、頼れる国がロシアとアメリカに別れてしまったな

KGBの職員

頼れる国に、自国を選ぶ人はいないの?

うーん

 お姉さんは、みな苦笑いした。

 そのまま黙ってしまった。

 考えこんでしまったのだ。

………………

 永遠にも感じる沈黙が流れた。

 私たち中学生は、そわそわしはじめた。

 だけど、お姉さんたちは、ずっとうつむいたままだった。

 そのことが事態の深刻さを物語っていた。


 私は、この空気に堪えられなくなった。

 思っていることを言いたくなった。

 考えを口にしたくなった。

 そんな私の様子を、KGBのお姉さんが敏感に察した。

 穏やかな笑みをした。

 うながした。


 私は跳びはねるように言った。

あのっ、全世界に保護を求めるのはどうですか? 全世界に向けて、みなさんで一緒に発信するというのはどうですか?

CIAの工作員

あっ!?

MI6の諜報員

あっ!?

KGBの職員

あっ!?

あっ!?

 虚をつかれたような、そんな顔でみんなが私を見た。

 私は後ずさった。

CIAの工作員

良いわね

MI6の諜報員

それがいい。一国だけに救援を求めても、どうせ他国にもすぐ知れる

KGBの職員

それに我々がこういう状況だということも、ある程度は予測してるわよ

だったら、国家間の綱引きは向こうにブン投げましょう。私たちが争うことないわよ

 この言葉に、みんなは大きくうなずいた。


 そして、それからのことは早かった。

 話がどんどんまとまった。

 警備室の機材を改造して、緊急信号を送ることになったのだ。

CIAの工作員

これで軍事衛星に送信できるわよ

MI6の諜報員

アメリカ、ロシア、イギリス、日本の緊急回線。それだけでなく全世界で受信できる

KGBの職員

ひとりずつ識別コードを言いましょう。それで各国の諜報機関には、私たちがいることは伝わるでしょう

じゃあ、打ち合わせ通りに私がしゃべるけど、それで良い?

 みんなは、いっせいにうなずいた。

 ヤマイダレさんは、マイクを手に取った。

 私は、彼女がまた何か下ネタ的なことをするんじゃないかと身構えた。

 すぐにツッコミを入れられるよう準備した。


 だけどヤマイダレさんは、やらかしはしなかった。

 ひどく真剣な顔でこう言った。

私たち7人――痴女ウィルスの免疫を持つ者を含んだ7人――は、こしのくに市の生存者である。この音声は、アメリカ、ロシア、イギリス、日本の緊急回線、そして全世界へ向けて発信している。これから識別コードを言う

CIAの工作員

識別コードは、ウィズ・リバティ・アンド・ジャスティス・フォー・オール

MI6の諜報員

ヴェスパー

KGBの職員

フロム・ロシア・ウィズ・ラブ

 みんながいっせいにKGBのお姉さんの顔を見た。

 お姉さんは言った。

KGBの職員

なによ、母国語を識別コードするほどマヌケじゃないわよ

CIAの工作員

………………

MI6の諜報員

……国名言ってるじゃん

先ほど話した通り、我々は『痴女ウィルスの免疫』を有している。場所は、こしのくに市の自衛隊駐屯地、その米軍エリアにあるショッピングモール

人数は7人。ただし、これから増える可能性はある。来る者があれば可能な限り受け入れる。さて、『免疫』受け渡しの条件であるが……――

 ヤマイダレさんは、事前に打ち合わせたことだけを言った。

 余計なことは、いっさい話さなかった。

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