投票のやり方、教えてくれる住吉?

真澄

あっ……うん
端末いじってくれればすぐできるけど……

終わらせきゃ。
誰もが辛いこのゲームを、すぐにでも。
私は住吉に先を促す。
彼女は、私を見て頷いた。
彼女は投票の仕方を説明して、端末の投票モードを起
動して、誰を追放するかを選択するという。
投票の棄権は、できないという。

真澄

っつーか、私がさせない
最期は私がやるって言ってんだ
ああだこうだ言わないで、早く入れて
入れるだけでしょ?

強い口調で言う。
確かに最期の仕事は住吉がするって言ってるんだ。
ただ、追放の意思を出すことだけ。
罪の意識は、背負わなくてもいい。
終わらせたいなら協力しろと。

あやや、阿澄さんは分かったと言って、決心したように時間を掛かったが入れてくれた。
半井さんは迷わず、縛られている如月の分は、パッと住吉が片付けてしまった。
代理の権限で進行の邪魔をさせないための処置。
と彼女は告げる。
如月もルール違反で次がない。
私と同じになった。
問題は二人だ。
渋っていた御手洗さんに、嫌そうな顔をする山風さん。

……あかねは……

山風さんはまだ嫌がっている。
こんなことはしたくない、こんなことはやりたくない。
子供だから仕方ないとしても、段々その態度に苛立ちを覚えてくる。
まずいと思う。余裕がなくなってきている。
もう少しでクリアできそうなのに、邪魔をする彼女に、焦燥感から来る怒りがわきそうになる。

御手洗

茜ちゃん……よく聞いて
武田さんも……辛いんだよ
みんなが辛いの、怖いの

言い聞かせるように山風さんに言うのは……御手洗さん。
彼女は、思っていたよりも遥かに協力的になってくれた。
今も説得、というか宥めるように山風さんに言い聞かせている。

御手洗

もう、おうちに帰ろう?
このボタン押したら、みんなで

みんな……?

御手洗

うん、みんなで
私が、武田さんも連れて帰る

……御手洗さん、まさか……。
一見すると、武田さんは人狼。
連れて帰るなんてことは無理だ。
それではゲームが終わらない。
その意味を察したのは私だけじゃない。
半井さんが目を見開いた。気付いたらしい。

あや

だったら……あやも……

その言葉は波紋のように広がっていく。
あやが名案のように、呟く。

阿澄

武田さんを連れて帰る、か……

阿澄さんまで。
それは本末転倒。
決して意味のある行動じゃない。

真澄

帰れないこともないけど……
新しい死人が増えるだけだよ?

住吉が肩を竦めると、それでもと御手洗さんは言う。

御手洗

消えてしまうよりはきっといいよ
仮初でも、生きているんでしょう?

やっぱり。
御手洗さんは、武田さんを連れていくだ。
自分の願いで、復活させるつもりなのだ。
完全に感情的になっている。

真澄

現状知らない人間が、軽く言ってくれるね……
まあ手間省けるからいいけど、仮にこの後武田さん殺して、また誰かの願いで蘇生しても、ここからはでられないよ?
死人の蘇生には手順がいるんだよ

今は一応生き返った元死人である住吉は説明する。
確かに願いでは死人の生き返ることは可能。
但しそれには制約がついて、魂だけが一時的にこのオカルトの空間に固定されるだけで、完全に生き返ったわけではないと言う。
自由を手に入れて、尚且つ再び生きていくには最低三つの願いの権利が必要になると。
つまり三回はゲームに勝たないと出ることはできない。
武田さんは、そんなことしなくていいと、いらないと言っている。
だが御手洗さんは嫌だとキッパリ拒否。
連れて帰ると決めたらしい。譲りやしない。

真澄

姉貴は前回、私が生き返らせて魂を固定してるから今は生きているように見えてるけど
今回、私が肉体の確保で願いを使って、姉貴が共に脱出することを願って漸くなんだ
一度のゲームで武田さんを殺して完全に生き返させることなんてできないわ

そう。
前回の貯金を使って、住吉はギリギリで完全に復活できるのだ。
御手洗さん一人でどうこう出来る範疇ではない。

あや

だったら!!

そこで大声を出したのは、何とあやだった。
彼女は、住吉にこう言った。

あや

あやも権利を使う!
武田さんの肉体確保!
それがあやの願いにすればいい!!

……意外だった。
あやが、そんなことを言い出すなんて。
目を丸くする私に、あやは悲しそうに言った。

あや

凛……あや、もうやだよ……
これ以上、死んじゃう人が出るのは、嫌だよ……
全員はダメでも、一人ぐらいなら……いいよね?

そっか……。そうだ。
あやは、私と一緒に、住吉の結末を見ているのだ。
鮮血を撒き散らして倒れる彼女を、見てる。
これ以上、目の前で……知ってしまった人が、死ぬのは嫌。
そう思うのは、当然だった。
間に合うならば、可能ならば。
これ以上は、誰も死んで欲しくない。
私と住吉が殺してしまい、もう間に合わない水渓さんや高瀬さんとは違って、まだ生きている武田さんは間に合うかもしれない。
その可能性に縋りたい、と。
彼女はそう私に言う。

あや

お願い、真澄っ!
あやの願いを認めて!!

あやは住吉に抱きついて懇願する。
……出た。あれに、私は勝ったためしがない。
あやの最終兵器、涙目の上目遣いのお願い。
小柄なあやだから出来る反則技。
あれはこう、小さい子をいじめているような良心の呵責がチクチクときて……無下にできない。

真澄

いや、そう言われても……
個人が何願おうが別にそれはこっちの知ったことじゃないし……

困ったようにオロオロする住吉。
……凄い懐かしい。
前はああやって、彼女に抱きついていた。
今は私になっているが、あの時は住吉の役目だった。

真澄

あー……
でも、この手触り気持ちいい……
相変わらずふわふわの癖っ毛してるね
たまんねぇ……

あやの頭を撫でて、幸せそうな顔してる。
手触り確かに気持ちいいけど。それは認めるけど。
顔がやらしいのは気のせいか。
満足そうにあやを抱きしめて、っていうか頬擦りまでしてる。

阿澄

真澄……だらしない顔して……

阿澄さんが呆れる先で、彼女は仕方ないと笑った。

真澄

個人で何願おうが権利はあるわけだし、それはいいよ
そうしたければそうして
御手洗さんも別にいいよ

武田さんの意思は今回スルーということでこの瞬間、満場一致で決まった。
その空気に、一度は死ぬけど後で戻ってくると安心した山風さんはだったら……と渋々ながら投票した。

武田

お、俺の意思は……?

数で封殺されたわね
つまりは貴方の自己犠牲は完膚なきまでに否定されたわ
一度死んだらチャラとは言わないけど、禊にはこれ以上無いほどのチャンスよ

もう……死人は、沢山よ……

正直言えば殺したくて殺そうとしていたのは、如月だけだ。
みんな、後は仕方ないとしか言えないじゃない。
可能なことなら回避したい。そう思って何が悪い。
今ならまだ、クリアと同時に彼が完全に帰れるだけの手があるのだ。
罪悪感だって、一度同じ目に合えば少しは気休めになるかもしれない。

どうせ誘拐された身だもの
願いなんてないし、私も……

私の願いも、と言い出そうとしたところで。
山風さんも、武田さん復活に手を貸すという。
何と願いのないらしい御手洗さん、願いのないあや、山風さんの三人によって最低限が満たされてしまった。

半井

今できることをやるということか
武田、ここは彼女達の行為に甘えろ
お前の結末が気に入らないと、覚悟を聞いて上でそう言っているんだ
譲れない強い想いがあるのだろう
それを切り捨てるのか?

武田

だが……俺は……
黒幕の、人狼なんだぞ?
何でそこまでして助けようとする……?

ここにいる以上、身奇麗では出られない
それでも、チャンスがあるなら何でもしたいと思うのは、きっとそういうことなのよ

武田さんは今も人狼だ。
でもその前に……彼は人狼になりきれていなかった。
三人は誰も殺していない。
彼女たちは、ただ死人が出ていくのを見ていただけ。
もう十分だと嫌がって、結末を変えようとする。
……あの時とは違った。
覆る終幕。
死が結末ではなく、生が最後。
私は、どこかホッとしていた。
あの時みたいにならないで、よかった。

御手洗

私、武田さんのお願い聞いたよね?
だから、今度は武田さんが私のお願い聞く番だよ

まだ渋る武田さんに、御手洗さんは切り札を使う。
お互い様だよね、笑顔で迫られて武田さんは、とうとう了承した。

武田

だぁーーーー!!
わかったよ、わかった!!
そこまで言うならいっぺん死んで頭冷やしてくるから、後で外で待っててくれよ!!
あとで迎えに行って詫びに帰りがてら、飯でも何でも奢る!
それでいいんだろう!?

あ、キレた。
あまりにも消えるな消えるなと三人が言うので逆ギレしたようだ。
ついでに謝罪にご飯を奢ってくれるらしい。
それは良い話だ。ご馳走になろう。

みんなは約束した。
一人でも多く、一緒に帰ろうと。
……多く、か。
私一人でも、出来ること……あるわよね?
たとえ……中途半端だったとしても。
ひとこと、お詫びを入れたいし。
出来るかどうかは分かんないけど、試す価値はある。
最後に……やってみよう。

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