私達は、投票を終えた。
全員、武田さんに入れてある。
最後に、住吉から部屋から出るように言われた。

真澄

見なくてもいい部分だからね
部屋閉めとくよ

要は、やってくれるということだ。
閉められるドア。
手筈通りなので、耳を塞いだり天に祈ったりしながらその時を待つ。

室内から一発の銃声が響く。
ビクッとする私達。
これで、一度、武田さんは死んだ。
そして同時に、ゲームは……無事、終了を迎えた。
たった一人の人狼を炙り出した私達村人の……勝利。

……無事、終わったわね
先ずは、生き残れたことを喜ぶべきなのでしょうけど……

半井

後味は悪いな……
至極当然だが

簀巻きにした如月を背中に担いでいる半井さんは疲れきったように、溜息をついて言う。
みんな……よく頑張ったと思う。
本当に、生き残るのに必死になって。
楽しんでいた狂人が意識を取り戻したのもその頃だった。

白雪

……やれやれ
ゲーム終了ですか
あーぁ……わたしの楽しみが……

怯える彼女達を見ても、担がれる狂人はそんなことをボヤきながら、意外に大人しくしていた。
何だろう、この如月から発せられる脱力感は……?

白雪

なーんかもう、興が削がれちゃいました
終わっちゃったら楽しめませんしねぇ……

じゃあ何?
今度は自分から騒ぎを起こす?

白雪

や、いいですよ
ゲーム終了ならそれはそれで
次の機会にでもしましょうかね
終わった事に文句をつけないのが持論でして

如月はそう言って、もう暴れるのもやる気無くしたからやっぱいい、と言う。
呆気ない奴だった。
本当に快楽主義というか、刹那主義というか、今さえよければそれでいいとタイプの人間。
終わったら次の楽しいことを探しに戻るという。

もう暴れないわけね?

白雪

正直面倒くさいです
過ぎたこと何時まで引きずって良いことはないですからね
まぁ、次のゲームの予約でもしながら楽しみにしていますよ

如月も一応勝者だという。
つまり、願いを叶える権利がある。
先程の顛末を説明すると、呆れたり文句を言うかと思ったら、ニヤリと唇を釣り上げて言った。

白雪

いいじゃないですか
一度死を経験して蘇生し、通常なら持って帰れない経験を手にする……
黄泉がえりって奴ですね
中々出来る経験じゃありませんよ?
それに生きていてくれれば、また戦える
偽善的な態度には辟易していますが、死んでも生きてるなら殺せる機会が倍になる
それは楽しいので歓迎ですよ

こいつは……。
歪みに歪んでいて、ツボがイマイチ理解できない。
楽しみを邪魔されると激昂し、過ぎてしまえば静かになる。
言動が極端すぎて、読みきれないのだ。

大人しくしていて
もう貴方まで相手してる余裕はないわ

私が釘を指すと、如月はいやいやと笑って否定する。

白雪

この後のおたのしみに、半井さんが相手してくれるそうなんで、そっちを優先します
無駄な体力使うと、負けますからね
遊ぶからには全力でないと

そういえばそんなこと言っていた。
見れば、嫌そうな顔をする半井さん。

半井

まぁ、仕方あるまい
自分が切り出したことだ
純粋な死合がしたいなら付き合ってやる
如月、言っとくが
俺は強いぞ

白雪

自意識過剰ってことじゃなさそうですし
嗚呼、本当に楽しみですねェ!
久々に本気の殺し合いができそう
あ、大丈夫ですよ
決して殺しませんので
半井さんの手練、希少なんです
探して出会えるようなもんじゃないんで
遊び相手になってください
今暇なら、ルール決めときますか?

半井

猛獣と命懸けで遊んでいる気分だ……

うって変わって嬉しそうに半井さんと殺し合いという試合なのか死合なのか分からない勝負の取り決めを始める如月。
子供のようにはしゃいでいる。
さっきまで本気で殺し合いしていた相手に。

阿澄

本当に異常の一言だね……
真澄とは大違い……

阿澄さんがそんなことをこぼしていた。
あれと彼女を一緒にされたら彼女がキレる。
山風さんと御手洗さんは既に話を聞いていない。
二人で何か何を奢ってもらうか相談してる。
私はあやを抱きしめながら住吉の帰りを待つ。

真澄

終わったよー……って何してんの?

バカが回復しただけよ

戻ってきた住吉に簡潔に説明して、私達はどうするべきかを彼女に問う。
住吉は願いを自分に伝えて、自分の部屋に一度戻るように言った
尚、案の定というか賞金的なものも支払われるとか。
後日、口座に振り込まれるという。
願いを叶えるには、ある程度時間がかかるらしい。
あと、願いの範囲は言ってなかったが、基本的には何でも出来るけど不可能に近ければ近いほど、制約がつくので気をつけるように言った。

そして。
私達は、願いを伝える。
あや、御手洗さん、山風さんは武田さん関係のコトを。
住吉達は互いの願いを。

半井

俺は……そうだな、進行役
ちょっときてくれ

手招きして、住吉の耳元で何かを囁く。
半井の願いを聞いた住吉は、愉快そうに笑っていた。

真澄

うわぁ……超ロマンチスト……
しかも中二病ときたか
大丈夫、それなら何とでもなるから

何願ったんだろう。
よくわからないが、憮然とした彼を見るから、大切なことだったのだ。
そして残ったのは、私と……如月。
何時の間にか解放された如月はどうするか迷っていた。
私はやってみようと思っていたことを彼女に打ち明ける。

水渓さんと、高瀬さんの魂の復活はできる?

真澄

うん?
魂だけなら二人分、一気に出来るよ
一応やっとく?
それだけじゃ出られないと思うけど

……分かってる。出られない。幽霊になるだけだ。
それでも。
消えるよりは。死んでるよりは。
一言、顛末と謝罪を入れたい。
だからどうせ使い道がないなら。
そう、罪悪感もあって言う。
そこに横槍が入った。

白雪

あー、じゃあわたしの願いはお二人の身体の蘇生で
直接二人とも相手してみたいんでこの際、生き返ってもらいましょうか

……実に如月らしい理由で、私の願いに乗っかる形で彼女も蘇生に賛成だという。
但しその目的は自分が戦いたい、という利己的な理由だったが。

真澄

ギリギリ肉体だけなら蘇生はできるけど……
ってかあんた……次回もくるつもり?
次回は違う代理がやるから、融通きかないよ?
あんなことしてりゃ、GMによっちゃ死ぬよ?

言外にこれでもうこの世界ともお別れするらしい住吉は、そう言うがケラケラと如月はそれでいいと言う。
休みは長いので、もっと暇潰しがしたいらしい。

嫌な世界ね……

私の言葉も気にせずに、如月は笑顔でいるだけ。
この異常者は最後までそのままだった、ということか。

白雪

くると言っても次は違うゲームですよ
次は実弾サバゲー行くつもりなんで
生きててもらわないと、戦えないじゃないですか
楽しみの貯金ってヤツですよ
次回の人狼ゲームには参加しませんって
まぁ、もう一人のわたしの方は知りませんけどね……

などと、妙なことを言いながら如月は、自由こそないけど生きてさえいれば後はやりようと邪悪に顔を歪めて言う。

真澄

まーいいや、了解
あとはこっちでやっとくからみんなは部屋戻ってて
時間になったら迎え行くから!
勝手に居なくならないでねー!
出られないから!

そう言うと、住吉は駆け足で何処かに向かっていった。
私達は、言われたとおりに自分の部屋へと戻ったのだった。
それから、私達がこの場所を脱出するまでに、そう時間は関わらなかった……。

武田

で、俺に何を奢れって?
言っとくと、金はそんなにねえぞ?

数時間後。私達は某駅前に揃っていた。
あの場所から脱出した私達は、個々の自宅が意外に近場にあることが判明した。
それでもって、中間地点のこの場所で今回の騒動の謝罪をしてもらおうということになった。
生命の対価として一度の食事とは安いものだが、もう過ぎたこと。気にしても意味がない。
そこには、死んだはずの武田さんもしっかり記憶などの違和感もなく存在しており、今回のお詫びとしてみんなに集られるというオチになっていた。

武田

美味い豚丼出す店なら知ってるが
安くて早くて美味いっていう三拍子でな

ああ、やっぱり豚を進めるんだこの人……。
そいえば最初に叫んでたっけ。今では懐かしい。

静流

豚丼大盛りキムチ乗せ唐辛子山盛りでもいい?

ひより

あたし、肉はあんまり好きじゃないんですけど……

で。
何故か、この二人までついてきていた。
私と如月の願いは完全な蘇生まで。
自由までは保証していないのに。
何事もなかったように、代理は「別にいいって。どうせよみがえるなら、次回に強制参加することを条件に今回はサービスするって」とGMの言葉を代弁した。
一応、代価はあったが帰ってこれた。
二人に代価のことは住吉が説明をしてあるという。
納得しているのかいないのかは不明だが。
私は深々と二人に頭を下げて、謝罪した。
二人とも、終わったし仕方ないと諦めたように許してくれた。
尚、代理の仕事も今回で終わった住吉姉妹はというと。

阿澄

一緒にご飯って何年ぶりかな!?
やった!!
やったね真澄!!
帰ってきたよ!!
帰ってきたんだよ私達!!

大はしゃぎの阿澄さんが妹相手に騒ぎまくっていた。
その妹も劇的な変化をしているのだが。

真澄

姉貴、痛い痛い!!

何と。以前の身体に戻っているのだ。
願いの過程で、ついでにやっといてやる、長い間お疲れ的な退職金の代わりだと言われたとか。
オカルト補正で、粉々に吹っ飛んだ身体を復元したらしいが、その完璧な再現率に私は幽霊が本当に実体化したんだなと思った。疾患の方は大丈夫だという。
二人並んでいると、双子だけあって良く似ている。
なお、戸籍などの問題は既に解決済みで、新しい人間として既に用意されているとか。
手際が良すぎて不気味だと思うがつつかなくていいので気にしない。

なお、この場に如月、半井さん、御手洗さん、山風さんはいない。
如月は気付けば姿を消していて、半井さんは寄るところがあるから先に帰ってしまった。
御手洗さんは大学の卒論がやばいとかで、山風さんも御手洗さんが家に送ると一緒に戻っていった。

あや

帰ってきたね……凛

ええ、長かったわね

護りたいと思ったものを、犠牲をしてでも守り抜いた。
綺麗事では進めないゲームを勝ち抜くとは、必ず痛みが伴う。
犠牲がなかったことになったとは思わない。
事実、人を殺している私だ。
きっと、このあとも後悔すると思う。
後悔できてよかったと思う。
苦しみが戒めなら受ける。
生きている限り、ずっと背負い続ける。
その覚悟も持って、帰ってきたのだから。

武田

面倒くさいから回転寿司にするか
俺の知り合いが経営してるんだわ
そこならいくらでもツケ効くし、好きなだけ注文してくれていいぞ?

武田さんがお財布と相談して回転寿司に決定した。
そのまま、私達は騒がしく駅前から移動することになった。
一連の騒動は、狼の食事の奢りで幕を閉じたのだった。
私達の戦いは……これで、漸く終結した。
明日からは、また日常に戻れる。
これでもう、人を殺さないで済む。
あの世界には、二度と行きたくない。
平和な世界に戻ってこれた。
どこにでもある日常こそが、私の最高の宝物。
これからも失わないように、頑張っていこう。

帰りましょう、あや
私たちの家へ

あや

……うんっ!

この笑顔を、曇らせないように……。

人狼ゲームアクティブ たった一人の狼
最終話
ただいま

おしまい

周りの突然いなくなる人間。
帰ってこないでどこかに消える。
魔の手は広く深く、底が見えない。
求められる限り、ゲームは繰り返す。

――生きる為に、俺は戦う――

――兄の為に、私は戦う――

腐った愛情。
歪な関係。

対の羽が、それぞれの目的の為に、闇へと墜ちる。

生きるため。
愛のため。
生命を賭けて、挑んで行く。

双子の兄妹が挑む、人狼ゲームの幕が上がる。

ニューゲーム
人狼ゲーム 番鳥に続く……

pagetop