武田

結論から言うとだな……
堂賀は昔、俺の身内を殺したんだ
俺はここに奴が来ると聞きつけて、あいつを殺すつもりで参加したんだよ

実に簡単に、勿体ぶることもなく武田さんは言った。
堂賀さんが、人を……?

真澄

そりゃおかしな話だよ
私、一応参加者の経歴目を通したけど……
あいつに殺人の前科はなかったよ?

代理として、把握している限りはそれはないと住吉は言う。
すると、武田さんは言った。

武田

そりゃ……な
あいつが起こしたのは交通事故だ
殺人とは別の話だから分かるわけもない
それに、奴が後始末するためにやばいところに借金作ってまで逃げ込んだのは把握しているんだ

武田さんの言いたいことだけは、それだけで伝わった。
復讐だ。
武田さんは復讐するために、堂賀さんを殺したんだ。
彼はそれから、滔々と語りだす。
堂賀さんは当時酒に酔っ払って運転していて、それで武田さんの身内……言うには、武田さんの妹さんを轢き殺して、挙句には逃げたらしいのだ。
それは……酷い話だ。立派な殺人じゃないか。

なぜ罪にならなかったのか。
それは堂賀さんが裏社会の不味いところに事件のもみ消しを依頼したからだ。
丁度、如月の所属する組織みたいな場所に。
警察の捜査は難航してうまくいかず、結局犯人は見つからずじまいで、事件は迷宮入りという結末だったと言う。

武田

俺は絶対に犯人を逃がすつもりはなかった
だから……俺も、似たような所に依頼をして、犯人は堂賀であると調査してもらったんだ
ついでに、奴が多額の借金を背負っていることも、それを返すためにここに来ることも知った

武田さんは決意したという。
あのろくでなしの堂賀さんを殺して、最期は誰かに殺されてそれで終わらせようと。
だが、計画は頓挫する。
いきなり、自分が人狼という役目になってしまったのだ。

武田

初夜に決着をつけようと思ったら、水渓の嬢ちゃんが俺の部屋に居座って、出かけることもできなくてチャンスを逃すしな
これは神様って奴が俺に人を殺すなって最後の警告してるんじゃねえかと思ったよ

初夜は、水渓さんが一緒だったのか。
だから、狼は動かなかった。いえ、動けなかった。
その代わり、住吉が死んだ。

最初、武田さんは水渓さんの制止役をしていた。
アレは、そういう流れで一緒になっていたんだろう。
一日目の夜には、水渓さんも積極的に出ていって隙ができ、周辺をチェックしてから、二日目に襲撃しようと決意した、と述べる武田さん。

武田

いざ殺そうと思ったら、また誰か死んだって通知が来てな
慌ててきてみりゃまた進行役の嬢ちゃんが死んでるしよ
こりゃ朝復活すると思って諦めたぜ
ハッキリ言って変態か何かかと思ってたよ

どうやら武田さんは住吉の死体を見ているらしい。
死ぬまでタイムラグあると言っていたのでその間だろう。
気付かなかったように彼女は唖然としている。

二日目の夜。
焦って出てきたという堂賀さんを、狙って殺しに行った。
フライングで飛び出していった水渓さんは、同じような理由できっと先手を打ちたかったんだろうと思われる。
待ち伏せして襲撃、能力で殺害すると騒ぎに気付いた住吉たちの足音がして慌てて逃げたという。

武田

で……
まあ、目的を果たしたまでは、よかったんだ
そこまでは、俺は後悔なんざしてねえ
自分で進んで踏み外した行為だからな

人狼はそこだけは微塵の後悔もないのだろう。
だが、そこで不意に表情が曇る。

武田

俺はそこで、勝負を終わらせようと思ったんだ
重い沈黙も、自分のせいだからな
早めに言い出そうとしていたんだが……

真澄

ああ、そういえば私が静流ちゃんイジッて遊んでたから……

タイミングを逃したのね

武田

……ああ
今更どんな言い訳だ、って思われても仕方ねえけど……
俺は実際、言い出せなかった

そう。
三日目の朝も、二人はぎゃあぎゃあ騒いでいた。
意味あっての行為だったのだが、それがまさか人狼の自白のタイミングを完全に壊していたと、誰が思うだろうか?
このゲームの根本を否定するような行為だ。
誰も考えない。

武田

言おう言おうと思っていながら、結局言い出せなかった
何処かでビビっちまってたんだ
自分が狼だとバラしたとき、周りに人殺しと罵られるのが怖くなって……
それが、いらねえ犠牲を生むことになるなんて、考えてもなくてな

彼の口調には強い憤りがある。
それは保身に走った自分に対する怒りであって、殺しをした私たちへの怒りではなかった。
何で私達を責めないのだろう?
二人を殺したのは、私達だというのに。

武田

……で、次の日になったらあのざまだ
水渓と高瀬の嬢ちゃんが死ぬ羽目になった
二人を間接的に俺が殺したようなもんだ
我が身可愛さで逃げた馬鹿な俺のせいで

彼は項垂れて、言う。
最後は聞き取れないほど小さな慟哭。
彼は自分が悪いと言う。でも、本当に悪いのは……。

武田

疑心暗鬼になっていた嬢ちゃん達を責めるのはお門違いだろう?
本来だったら、俺が一言言い出せば死なずに済んだ二人だ
どっちみち、死んでいる人間が変わるだけで、無駄な犠牲であることには変わらねえ

…………

そう。この人狼が言うことは、正しい。
黒幕は自分。逃げたのは自分。
ゲームは疑心暗鬼。戦わなければ死ぬだけ。
私達は、当然のことをしただけ……。

真澄

後悔なんかしないよ
私は、やるべきことをやったんだ

罪悪感で押しつぶされそうな私とは違う。
住吉は、強い表情で堂々と言った。

真澄

殺しに来るなら殺す
それがこのゲームなんだ
取り繕うつもりないわ
謝るつもりもない

強いな、と思う。
以前と変わらない、自己正当化。
ここまで自分を信じられるその強さが、私は羨ましい。
決意、覚悟。
あの時彼女に言われたことが、まだ私は出来ないのだ。
したつもりでも、結局弱音を吐く。

人狼は、だから次の夜は誰も殺さないと決めたのだという。
だから、御手洗さんに全てを打ち明け、能力を使ってもらったのだという。

御手洗

私も、最初は信じられなかった
でも武田さん、全部明日には終わらせるからって、土下座までしたの
私は……それに賭けてみようかなって思ったんだ
人狼の言うことなんて特に信じられないけど、この人は別なんだって
本気で……もう死人を出したくないって思ってるって
目を見て……感じたんだ

御手洗さんはそれが手を貸した理由だという。
成程……。これで、不自然な事も腑に落ちた。
予想通りというか、やっぱりこの人は人狼に向いていない。
良い人のまま人狼の皮をかぶり、怖気ついて逃げた先にあった私の行なった殺人を見て、覚悟を決めてこうしたんだ。

武田

それにな……
水渓の嬢ちゃんは、死んだ妹に似てたんだ……
丁度、生きていれば同い年だったなって思っててよ
だから色々面倒みてたんだ……

武田

それを……俺は……ッ!!

――哀しい、狼の慟哭が響く。
過ちを犯したのは私達なのに、彼はその罪すら自分が背負うと、自分のせいだと言う。
あの時項垂れていたのは、本物の後悔。
その後悔を繰り返さないために捨てた、人狼の皮。
その結末が、ここにあった。

……ごめんなさぃ……
こんなこと今頃言ったって、何の意味もないけど…………

その姿は、私の良心にトドメをさした。
気付けば、こんなことを呟いていた。
辛うじて、涙声だけは避けられた。
猛烈に沸き上がる激情を、何とか堪える。
私は、殺したんだ。
無関係だった人を。
この手で、自分の意思で。
なんてことを、なんてことをしてしまったんだ。
私は……。

真澄

…………

阿澄

真澄……?

真澄

大丈夫だよ、姉貴
私は……平気
うん、大丈夫だよ

必死になって強がりを言う住吉。
彼女もいくら鈍感でも、開き直ってても、少しくらいは……心の痛みを、罪の意識を自覚したはずだ。

あや

……凛……
ごめんね……あやのために……

あやが私の事を、助けてくれた。
抱きしめてくれて、すごく……救われる気がした。
これを失いたくなくて、私も道を踏み外したんだ。
あやが、大切だから。

……ん
ありがとう、あや
私はもう平気だよ

私は、あやに支えられて、人狼に向き直る。
決着……つけなくちゃ。これで、全部終わらせる。
人狼の悲しみも、私達の罪も。
ゲームと共に、ここで一度の区切りをつけないと。
先に、進めない。

さぁ、投票を始めましょう
これで、ゲームを終了させるわ
武田さんも、いいわね?

私の一言に、みんなは悲痛な面持ちで頷いた。
辛い。早く逃げたい。終わらせたい。
そうするための、最後の一歩を。踏み出そう。

終わらせましょう……全てを

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