荷台では早速、
アルベルトが鳥人族の子に回復魔法をかける。
すると温かな光が降り注ぎ、
傷口は塞がっていった。

そして次第に顔色も良くなっていき、
ようやく意識を取り戻す。
 
 

ハミュン

……ぅ……。

ミリア

良かった。
気がついたみたいね。

ハミュン

っ!?

 
鳥人族の子は目を丸くしながら身構えた。

そんな彼女にこれ以上警戒させないよう、
私は微笑みながら声をかける。
 
 

ミリア

安心して。私たちはあなたに
危害を加えるつもりはないから。

ハミュン

……怪我が治ってる?
手当てしてくれたの?

アルベルト

まぁな。俺が回復魔法をかけた。
放ってはおけないからな。

ミリア

私はミリア。
私たちは旅をしながら
人形劇の興行をしているの。

ハミュン

私は……ハミュン……。

アラン

お前、鳥人族だよな?
それで傭兵や賞金稼ぎどもに
襲われたんだろ?

ハミュン

…………。

 
ハミュンは暗い表情を浮かべ、沈黙していた。

でも今さら隠しても意味はないと思ったのか、
程なく私たちの方を向いて口を開く。
 
 

ハミュン

……えぇ。この森で
隠れて暮らしていたんだけど、
人間に見つかっちゃったみたいで。

ハミュン

私以外はみんな捕まったり
殺されたりしちゃった……。

 
瞳に涙を浮かべ、
拳をギュッと握りしめるハミュン。

その小さな体は小刻みに震えている。



一部の人間の私利私欲のために、
彼女たちは平和な暮らしが奪われてしまった。
何も悪いことをしていないのに……。


見ている私もいたたまれなくなって、
胸が苦しくなる。
 
 

ミリア

ひどい……。

ハミュン

いいのよ、
あなたたちも私を好きにして。
もう逃げるのに疲れちゃった。

ハミュン

私たちを捕まえる目的で
この森にやってきたんでしょ?

アラン

そうじゃねぇよ!
オイラたちは興行をするために
旅をしている途中ってだけだ。
勘違いすんな。

ハミュン

嘘をつかなくてもいいわよ。
人間が欲深くて乱暴な
最低最悪の種族ってことくらい
知ってるから……。

フロスト

……ふむ。

 
ハミュンは人間に対して
不信感しか持っていないみたい。

……でも当然だよね。


目の前で仲間が殺されたり捕まったりして、
自分自身も酷い目に遭わされたんだもんね。



なんて声をかければいいんだろう?

私が頭を悩ませていると、
ハミュンの前にアーシャが歩み出る。
 
 

アーシャ

そうですね、
確かに人間はひどい種族です。

アーシャ

でも全ての人間が
そうではありません。
この一座の皆さんのように
心優しい人たちもいます。

ハミュン

どうかしら?
人間のあなたが言っても
説得力ないわよ?

アーシャ

私は人間ではありません。

ハミュン

えっ?

フロスト

何っ!?
アーシャは人間じゃないのかっ?

 
ハミュンとフロストはほぼ同時に
驚きの声を上げた。


……そっか、
アーシャが人間じゃないってこと、
フロストには話してなかったんだっけ。

見た目は完全に人間だもんね。
言われないと、
ほとんどの人は気がつかないかも。
 
 

アーシャ

はい、私は――

 
 
 
 
 
 
 
 

キホーテ

ヒヒィイイイイィーン!

 
 
 
 
 
 
 
 
アーシャの言葉を遮るように、
不意にキホーテが大きくいなないた。

程なく馬車は振動に包まれながら停止する。



前方に視線を向けると、
数人の傭兵が両手を横に広げて
馬車の前に立ち塞がっていた。

それを見た瞬間、
私は即座にハミュンに向かって囁く。
 
 

ミリア

ハミュン、
鳥に変身できる力は残ってるっ?

ハミュン

え、えぇ……。

ミリア

すぐに変身して! 早くっ!!

ハミュン

わ、分かったわ……。

ハミュン

…………。

 
 
 

 
 
 
ハミュンは何かを呟き、小鳥の姿に変身した。

まるまるとしていてモコモコで、
すごく可愛らしい……。 
 

ハミュン

これでいいの?

ミリア

私の服の中に隠れてて!
なるべく動かず、
声は絶対に立てないで!

ハミュン

う、うん……。

 
私はハミュンを両手で優しく包み込み、
懐の中へ隠した。


――彼女の存在がバレないよう、
この場はなんとしても乗り切らないと!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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