ベッドにうつ伏せの織原経華とそれを診察検査する小暮忍。

織原経華

先輩を信じたい気持ちは山々なのですが、信じがたい光景のオンパレードで私はもう何がなんだか…

小暮忍

心中察する部分はあるがね。
まあ俺はどっかの誰かさんみたいに無断転用はしないからご安心を。

次に小暮は両人差し指と中指を経華の背中から臀部(お尻)に向かって静かに這わせた。


その長くてしっかりした指が臀部に到達する前に出っ張りに

と固い何かに当たって引っ掛かる。


これが骨盤のでっぱりである。


これも足の長さに比例して左半分が下がり、

右半分が上がり、

爪先ほどに段差が出来ている。

小暮忍

骨盤が右上がりになってるのわかる?

織原経華

はい、触られた感じでなんとなく

さらに小暮の指先は先程とは逆方向に経華の背骨に向かって指を伝っていく。


一個一個を探りながら

小暮忍

ここ痛い?

織原経華

ああ、痛いです!

小暮忍

ここの骨が胃腸ね

織原経華

ああ、胃腸痛いです!

小暮忍

ここの骨が肝臓

織原経華

ああ、そういえば肝臓も痛いです!すっかり忘れてたのに…何かちょっと損した気分

小暮忍

背骨一個一個が内臓に直結している。人の体を家に例えるなら骨盤は土台で背骨は大黒柱。土台が歪めば柱も曲がる。そして家が傾く。それが君の左おっぱいの正体だ

織原経華

上手い!現代文の先生みたいですね?もしかして教職も向いてるんじゃないですか?

小暮忍

そりゃどうも恐縮です。でも、あいにく学校とは相性が悪いんだ。それでは施術に入ろう。まずは左足首から回していく

小暮はうつ伏せの経華の膝を曲げ、

その踵を自身の胸元に近づけて、

ゆっくりと大きく時計回りにぐりんぐりんと回し始めた。

織原経華

うおお!

小暮忍

痛くいないかい?

織原経華

はい全く。一体何なんですかこれは!?

小暮忍

足首回転。オステオパシー療法の一種でカイロプラクティックの基本中の基本の技術さ。足首を回すことで自然と足首を矯正し、体全体の神経を和らげる効果がある。どうだい?段々体がポカポカしてきたと思うんだけど?

織原経華

たしかに!足だけじゃなくてお腹回りもポカポカしてきました。あー、気持ち良い~

時おり経華の足首がこりこりと鳴ったり、

上手く回らず反発したりする。


だがそれとは対照的に経華の表情はリラックスを通り越して、

徐々にウトウトし始めて来た。

小暮忍

こいつはとんだ暴れ馬だな。君ちゃんと寝れてないだろ?

コクリ。

小暮忍

この技術はマッサージで例えるなら肩揉みみたいなもんさ。しかも、筋肉への揉み返しもないから自然と無理なくカラダ全体を弛緩させていく効果があるんだ

コ…クリ。

小暮忍

話は変わるけど、さっきの遠い目をしてるってのはどういう意味かな?君で二人目なんだ。そんな事を言う人間は…

織原経華

お父さん、内定取ったよ~。心配させてごめんね

ガッツポーズしながらヘラヘラして寝息を立てる経華に小暮は思わずヘヘッと笑ってしまった。

小暮忍

居眠りされちゃ、現代文の授業もチャイム時だな



小暮は両足首回転を終えた後、

ひざ回りの回転矯正、

骨盤回りの押圧矯正をさらりと終えた。


足の長さを測る検査を再び行うと両かかとはピタリと同じ高さに揃った。

小暮の長い指先がそのまま経華の骨盤に伸びる。

こちらも右左均等に揃っている。

織原経華

う~ん

小暮忍

衝動的に、

そのまま背中のブラウスから透けるブラ線ホックに手をかけるか否かのところで

ドアのノック音がし、

慌てて経華の肩に毛布をかけてその場を後にした。


続く

モーフ・ザ・キャット その4

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