話は少し、遡る。

寒……

雪道を俺は歩いていた。

土地柄、冬は雪が積もる。

無邪気に楽しんだのは小学生の時だけで、
中学生になってからは朝一で除雪車も通っていない新雪を自分で踏み分けていかなければならない冬が大嫌いだった。

極寒で年柄年中雪と生活している某国なんかに比べれば春から秋まで寒さに悩むこともなくて良いのかもしれない。
しかし俺の考えは違った。

雪の無い季節があるからこそ、雪が嫌いになるのだと。

周りの人が口を揃えて冬よりも夏が嫌いだと言い張る中、自分だけが常に冬が大嫌いだと言い張っていた。

何が「冬は着こんだり暖房つければ問題ないけど、夏は脱いでも暑いしどうしようもない」、だ。
夏は雪がない、それだけで十分冬よりも良いじゃないか。

夏が好きという話をしているんじゃない、冬が大嫌いだと話している。
寒さも、人に理解されないのも、全部面倒で嫌いだ。

……くん、高峰くん!

!!

もうっ!さっきからずっと呼んでたんだよ?

ごめ……

ううん。大丈夫だよっ!

すかさず俺の言葉を遮る。

こいつは、謝られるのが嫌いだ。

ははっ、

雪が嫌いな俺と、謝られるのが嫌いなこいつ。

こいつは幼馴染の×××……

あれ?

なんだ……これ?

××××××××××××××××××
××××××××××××
×××××××××××××××
×××××××××

おい、なに言って……

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

おいっ!!

俺は目を覚ました。

大丈夫?

うなされてたよー

また悪夢見たの?

×××?!

!!

……あ、いや、なんでもない。

ここは、村外れの山小屋だ。

そう……。
何でもないなら良いんだけど、心配させないでよね、お兄ちゃん。

ほんとだぜー…兄貴が苦しそうにしてるの見るの嫌なんだっ!

この二人は、俺の……双子の妹と弟だ。

俺は……前世では「ファンタジー」とされていた世界に転生していた。

ごめんな、

いいよー。
それより、もうすぐご飯の時間っ!

ご・は・ん!

こらっ!ちゃんと手洗ってからだよ!
つまみ食いは、メッ!

うう……
沙月(さつき)姉がこわい…

……鳴太(めいた)?
誰が怖いって?

……ごめんなさい!手洗って!きます!

沙月と鳴太のいつもの会話。

ここには謝罪の言葉を嫌う誰かなんて居なくて、

そして、雪の降らないこの土地で雪を嫌う俺なんて居なかった。

お、沙月の料理はいつも美味しいな。

お兄ちゃん、ありがとう!

(もぐもぐう!)

ファンタジーな世界でありがちな、人間以外の種族。

転生先の俺の母親は、俺を生んだ後に死別し、その後に父親の再婚で獣人(じゅうじん)と呼ばれる新しい母親が出来た。しかし再婚した直後に父親を戦争によって亡くし、獣人の母は1人で3人の子供を育て上げた。

俺の育ての親は沙月と鳴太の産みの親というわけだ。

今日何か変わったことなかったか?

うーん……なかったよ?

(もぐもぐう!)

そうか……。

沙月の様子からして、何かあったのだろう。

村外れで俺達が生活しているのは、色んな理由が重なった結果だ。

まず第一に、獣人である母親は人間から疎ましく思われることが多い。よくある話だが、自分と違う種族を迫害する、ということがこの世界でも常識のように行われている。
そして、同様な理由から人間と獣人のハーフである沙月と鳴太はどっちからも疎ましく扱われ、かろうじて生活に支障のでない土地まで逃げてきた。

父親が生きていた頃はまだ良かった。

人間と獣人の戦争で死んだ父親のことを陰で囁かれ、母親もそれを追うように心労で亡くなった。

……

どうして転生先の家事情がこんなに込み合っているのかは分からないが、そんなわけで俺は子供だけのこの一風変わった家で暮らしていたのだった。

そして、この世界でも変わらず同じ日々の繰り返し

転生前に見た情景はまだ覚えているが、「ソレ」が「ドコ」で「イツ」なのか分からない状況で動きようがない。

ただひたすら今は、この日々を繰り返すしかないのかもしれない。

しかし、

…!

…!!

この家に来客が来ることはない。

沙月が怯えたように目に涙を浮かべているのを見て、俺の直感は先ほどの沙月の言動とをつなげる。

おい!ここにいるんだろ!
人間もどきの化け物が!!!

やれやれ……

幸か不幸か、そんな複雑な家庭事情を抱えた今世の俺には波乱が付き物だった。

幾度となくこんな事態に遭遇している。

俺はしぶしぶと立ち上がり、玄関の扉を、

扉を開けずに、その隣にある覗き穴から睨みつける。

夜分遅くに何の用ですか

……?
人間か?

ええ…そうですけど何か?

ここに……確かに獣人が逃げ込んだのを見たんだ!

はあ……

……獣人を見てないか?

見てませんけど?

事実、獣人じゃなくて獣人と人間のハーフだし

そ……そうか……

まだ何か?

いや…なんでもない。

扉越しの問答に正気になったのか、相手は去って行った。

俺は冷めてしまった食事を横目で見ながら沙月に聞いた。

沙月……何があった?

うっ……

言わなきゃ分からないだろ

ううう……

ただただ泣きじゃくる沙月。

どうしたものかと悩んで溜息を吐くと、鳴太がびくりと体を震わせた。

沙月姉が悪いんじゃないよ……!
鳴太が、鳴太が、村の果実を食べちゃったからっ!

鳴太が悪いんじゃないの!
さ、つきが、沙月、が、鳴太のことちゃんと見てなかったからっ!

鳴太が勝手に村に下りちゃって、それ追いかけてたら、見つかっちゃって!

別に怒ってなんかない、でも、な……

3人で決めたルール、あったろ?

ううっ……人のいるとこ行かないこと……

ぐすっ、人の物を盗らないこと……

それと、必ず何かする時は俺に報告することだ、

わんわん泣く二人を見ながら、俺はずっと考えていたことを口にした。

なあ……、

ここを離れて、獣人の国にいかないか。

え…?

そんなことしたら今度はお兄ちゃんが……

前から思ってたんだよ。
ここは父さんが母さんのために建てた家だけれども、結局、村の奴らは俺達の事なんか何も理解してくれない。母さんのいない今、もうここに居続ける理由なんてないだろ。

とりあえず今は、双子の妹と弟を守ることが先決だった。

でも普通、転生主人公が守るのってヒロインだよな。

俺のヒロインはまだ出逢ってもいないようだ。


この世界に本当にヒロインがいるのかどうかは別として。

次回:「大きな森の小さな家」からの旅立ち

第二幕:ツンデレキュートなヒロインは何処にいますか?

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