……突然ですが、この小説では最初から怒涛のメタ発言及び会話になります。ご理解ご了承の上、お読みください。

俺は、死んでいた。死後の世界?

そんなものは無いと信じていた。

何故文章が過去形かって?

それは、実際、目の前に死後の世界が「ある」からだ。

突如我が家に突っ込んできたトラック。
運悪く玄関から出発しようとしていた俺は、
その巻き添えになり、即死。

ああ死んだ、死んだんだと思ったその瞬間、
光が満ちた。

おお、人の子よ。気づいたかい?

目の前の猫が喋る。

頭がおかしいと思うかもしれないが、白猫が一匹、
目の前にいて、俺に話しかけているのだ。

ややあって、俺は言葉を発した。

気づいたも何も、何ですか、これ

喜べ少年、貴様は神に選ばれた。

は?

2016年の現世を生きていた君ならもっと理解が早くても良いと思うんじゃなか?
あれじゃよ、あれ、言ってしまえば異世界転生モノの物語の幕開けじゃ。

目の前の猫は何を言っているんだ……?

理解できないことが多すぎる、俺は考えることを止めた。

…。

こら!考えることを止めるでない!

おぬしの考えていることは全て御見通しじゃ!
死んでしまったテメエを異世界に転生させて人生やり直してやると言うとるんじゃ、もっと喜ばんかい!!

なぜだろう…あまり嬉しくない…。

きっと俺は疲れていたのかもしれない。

いつも同じ時間に家を出て、

同じ時間に帰ってくる、繰り返しの日々に。

生きることに疲れていたのだと、
死んでからようやく気づく。

だから別に転生なんてどうでも良かった。

それにこの猫はさっきから言っていることがどうもおかしい。
二人称が定まらないし、そもそも「選ばれた」だなんて上から目線の神様は俺の都合なんてお構いなしだ。

……知っていますか?
応募してもいない賞に当たりましたといって騙すタイプの詐欺があることを……

?!

俺は転生なんてどうでも良いです。
別に、やり直したい程未練なんてないですし、

それにあれですよね?
異世界転生ってことは、俺のいた世界と全く別の世界ってことじゃないですか。
そんなところで1からのやり直し、そんなの何が楽しいんですか?
そんな状況を楽しめるのって一体どんな奴なんですか?

思うに、そんな設定を楽しめる奴ってのは、自分が大好きで、自分の人生が大好きな奴ですよ。
俺はそんな簡単にリセットの効く人生を生きてきた覚えはないし、そんな簡単にやり直す気力が湧くほど出来た人間じゃない。

こんなんで喜ぶと思っていた浅はかな考えに驚きます。残念でしたね、俺は転生なんて希望しないし、異世界なんて全く魅力を感じない。

……。

猫は黙ってしまった。

それよりも内心はっとしたのは、紡がれる自分の言葉だった。

俺はこんなに喋る人間じゃない。

すらすらと出てくる言葉は偽りでも何でもなく、心からの本心で、今まで意識したことのない自分の深淵そのものだった。

そうか…でもな……これは定められたことなのじゃ。どうしても嫌だと言うのならそうだな……

白猫の周りに光が集まりだす。

光は横長の四角になり、俺の目の前にある「モノ」を映しだした。

それは長いようで短い情景であった。



そして、「ソレ」を目にした俺は息を飲む。

!!

これでどうだろうか……?
それでも貴君は転生しないと言い張るのか?

……

……分かった。

そうかそうか、理解してくれたか。
ならば貴殿に転生の儀を施そう、異世界といえども住めば都。何事も試してみるが吉じゃよ!

何やら不可解な音がしたかと思えば、
俺の身体は一直線に落下していた。

何処から落ちたのかも、何処へ落ちるのかも分からない。



唯一分かっていることは、

「あの子を助けなければならない」ことだけであった。

転生特典として15歳まですっ飛ばした状態で生まれ変わらせてやろう。
また赤ん坊から始めるのも面倒だろうからな。

まだ未来は定まっておらぬ、お前さんはお前さんのしたいようにすれば良い。
そして、改めて為すべきことを探すが良い……

最後に耳元に響いた天の声。


あの白猫が神様だと言うのならば、
何故神が未来を変えないのかと疑問に思った。

そしてついでに言われたある言葉に絶望したのだった。

そうじゃ……言い忘れておったが、
よくある転生特典のチート設定は貴公には無いからの。

まあ、死なない程度に頑張ってくれ。

はあああああああああああああ?!?!

俺の叫びは虚しく、奈落の底へと一緒に落下していった。

次回:ツンデレキュートなヒロインは何処にいますか?

第一幕:突然ですが、転生主人公の異世界チート設定って多すぎやしませんか?

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