フラッペ

おぉ、ようやく来たか

フュイール

っ!

サジェス・エフォール

なるほど、お客さんは1人だけとは言ってなかったね

サジェス・エフォール

本当に、朝ごはんかきこんで正解だったよ

エクリール

…………

エクリールは鎧を着けた男をじっと見ていたが、やがて目をそらした。
幸いにも、サジェスには気づかれなかったようだ。

フラッペ

朝早くにすまぬな。私は国王軍上官のフラッペだ

サジェス・エフォール

へえ、美味しそうな名前だね!

エクリール

失礼だろう。というより、まだ腹が減っているのか

フラッペ

はっはっは!天才殿は面白い冗談を言う

フラッペは豪快に笑うと、サジェスの手を力強く握った。
サジェスも、少し顔をしかめながらも握手に応じる。

フュイール

あの……私は……

フラッペ

実は君によい話があるのだ。国王陛下は君の研究にとても関心を寄せている。よければ、我が軍の専属魔導士として迎えたいそうだ

サジェス・エフォール

へえ、とても光栄な話だ。ボクのようないち学生には身に余る賛辞だよ

サジェス・エフォール

けど、少し考える時間をくれないかい。どうせ緊急の用事ではないのだろう?

フラッペ

……そうだな

ほんの一瞬、フラッペの顔がかすかに歪んだ。
しかし、すぐに何事もなかったかのように話し始める。

食えない男だと、エクリールは思った。

フラッペ

もうひとつ話がある。これも軍からだ。君は発火魔法のエキスパートと学園長から聞いている。そこで、鉱山の発掘のために強力な発火薬を作ってほしいのだが

サジェス・エフォール

うん、それはかまわないよ。他の属性と調合する必要があるかもな。じゃあ早速……

フラッペ

余計なことはしなくていい。成果だけあげてくれれば良いのだ

ピリッ
部屋の中の空気が一気に重くなる。
サジェスの目が細くなる。
エクリールにも緊張が走る。
相手は国軍だ。サジェスの態度次第で牢屋に入れることも、捕まえて処刑することもできるのだ。
とりわけ、フラッペは過激派と聞いている。
最悪、自分が間に入らなければ……。



その時、学園長がまあまあと慌てて飛び出してきた。

バティール・ヴァルテュー

フラッペ騎士様、そろそろ朝の業務の時間では?サジェスには私からもお願いしておきますから

フラッペ

む、もうそんな時間か。礼を言うぞ、学園長殿

フラッペ

ではな、サジェス・エフォール殿。先の話も併せてよい結果を期待している!

フラッペはまた豪快に笑うと、マントを翻して出て行った。
はあ、とサジェスが大きく息を吐く。

サジェス・エフォール

ありがとう。助かったよ、学園長

バティール・ヴァルテュー

礼を言うのは後でいいんじゃない?もうひとりお客さんいるんだから

フュイール

……………………

部屋の隅で沈んでいる少女を見て、エクリールはもう一人の客の存在を思い出した。
フラッペの存在感があまりに大きくて、完璧に忘れていた。

フュイール

いいんです……気にしないで。どうせ皆私のことなんて見向きもしないんだから……

しかも、筋金入りにナイーブな少女だった。

サジェス・エフォール

待たせてごめんね。改めてお話聞かせてくれるかな?

フュイール

はいっ!喜んで!

話を振られた途端に目に見えて元気になった。

フュイール

私、この近くの病院で働いていますフェイールといいます。実は、サジェスさんにお願いがあって来ました

サジェス・エフォール

うん、フェイールさんだね。それで、ボクにお願いって何かな?

サジェスが聞くと、フェイールはまたうつむいてしまう。

フュイール

すみません。本来ならこんなこと、サジェスさんみたいな有名人に頼むようなことではないと思ったんですが……

サジェス・エフォール

そんなの気にしないで。逆に有名人扱いされる方が、ボクは嫌だな

フュイール

ご、ごめんなさい!

フュイール

私のお願いは……

フュイール

ある女の子に、会ってほしいんです

サジェス・エフォール

やあ。キミがシャンス・スーリールさんだね

シャンス・スーリール

……………………

紹介されたのは、個人病棟の少女だった。
表情は険しく、とてもサジェスを歓迎しているようには見えない。
サジェスの傍にはフェイールがついている。
エクリールは表情が怖いからという理由で、病室の前までの付き添いになった。

サジェス・エフォール

ボクはサジェス・エフォール。フェイールさんから頼まれてね。キミに会いに来たんだ

シャンス・スーリール

……………………

シャンスという少女はサジェスのことをじっと睨んでいたが、突然隣に立っていたフェイールに言った。
ボソボソと小さく、だけど明らかに不快だと分かる声で。

シャンス・スーリール

……………………先生

フュイール

う、うん。何かな?

シャンスは緩慢な動きでサジェスを指さす。
まるで、いじめっ子を先生に教える子供のように、強い敵意を持って。

シャンス・スーリール

どうして、こんな人を呼んだんですか

フュイール

えっ…………!

サジェス・エフォール

待ってシャンスさん。フェイールさんは何も悪くないんだ。ボクは自分から…………

シャンス・スーリール

帰って

サジェスの動きが止まった。
シャンスから発せられた言葉は、拒絶以外の何物でもなかったのだから。

シャンス・スーリール

帰って、ください

サジェス・エフォール

……分かった。今日のところは帰るよ

フュイール

サジェスさん!?

サジェス・エフォール

じゃあシャンスさん。また来るね!

シャンス・スーリール

……………………

シャンスの厳しい視線に見送られながら、サジェスは病室を後にした。

To be continued...

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