連れてこられた知らない会場で、そこには見たことのないテンションと声を出す理愛ちゃんの姿が一つ。
きゃあああ!
マコトくん、やっぱりカッコいい!
(……えええ、理愛ちゃん!?)
連れてこられた知らない会場で、そこには見たことのないテンションと声を出す理愛ちゃんの姿が一つ。
(マコトくんって、いったい誰のこと?
この会場のどこかにいる人なのかな?)
あたりを見回すけれど、いったい誰が理愛ちゃんの言っている人なのか、ぜんぜんわからない。
むしろ、あれは本当に理愛ちゃん? というテンションで会場を進んでいく。
わたしに気を配って、後ろに気をつけてはくれるけれど……うん、眼が違う。いつもと違う。
その瞳で、理愛ちゃんはとある机の前で立ち止まった。
ステキですね、既刊も含めて全ていいですか?
もちろんです、ありがとうございます!
この、マコトくんとカイくんのすれ違う様がグッと来ますね
(カイくんって誰!?
知らない人がまた出てきたよ)
嬉しいです!
そのシーン、アニメでも同じようなシーンがあって
わかります、23話ですよね!
クライマックスに向けて事態が重くなるのに、2人の心はすれ違うばかり……
でも、そのすれ違いは些細な誤解にすぎなくて
そしてあのクライマックスへと至る瞬間!
たまりませんよね~♪
(理愛ちゃんとあの人の会話が全然わからないのだ……なにか試合でもあったのかな?)
これからも読ませていただきますね、同じマコトくん好きとして!
はい、こちらこそ。
また語りましょう
(え、なに、マコトくんって二股かけてるの!?)
わたしはてっきりマコトくんに会うんだと想っていたのに、理愛ちゃんは会場でマコトくんマコトくんと叫ぶばかり。
そして机に座っている人に、なんだかマコトくん好きだって言って……どういうこと?
(でも、二股なのに……平和過ぎじゃない?)
疑問に想いながらも、前を歩く理愛ちゃんについて行く。
舞ちゃん、大丈夫?
だ、大丈夫!
身体は
頭のなかはぐちゃぐちゃだけど。
周囲を見ると、本やキーホルダーやバッジみたいなのが机の上にいっぱい置かれている。
値札も立てられて、売り物なのかもしれないけれど、普通のお店のものとは明らかに違う。
(なんだか昔に見た、フリーマーケットみたい)
きゃあ、この憂いの瞳ステキです!
理愛ちゃんの甲高い声に、想わずそっちへ眼を向けてしまう。
すると、少し前の机の前で、いっぱいお金を渡している理愛ちゃんの姿。
お金を渡すのと入れ替わるように、理愛ちゃんはたくさんの薄い本を受け取る。
(す、すごい勢いで本を受け取っているけれど……レジとかないよ?
そのままお金渡してるけど、大丈夫なのかな?)
でも、理愛ちゃんの顔を見ると、不安なんか全く見えない。
むしろ、幸せの絶頂みたいな顔。
すみません、新刊一部ください!
あ、また来てくれた!
嬉しいな
え、覚えててくださったんですか
当たり前だよ~、今回の新刊はあの時の話でイメージが膨らんだから、できたようなものなんだから
え、えぇぇぇ!?
マコト達が力不足を痛感して、合宿に行く前夜の話……褒めてくれて
そうですそうです!
不安を感じるけど皆には言えないマコトくんの表情が、とっても悲しいけれど見入られちゃって
だから、その対比で……試合後の、勝った後の話も書きたいなって想って
それで、今回の新刊の話になったんですか!?
アドレスもなにも知らないから、ちょっと悪かったなと想ったけれど……良かったかな?
もちろんです!
むしろ、あの不安な顔が笑顔になるお話、読まずにはいられません!
(……マコトくんって、あらゆる学校に所属する、スーパー高校生なのかな?)
ステキです!
既刊、全部いただいてもいいですか?
(またいっぱいお金渡してる……あれ、あの本の量、持てるのかな?)
きゃあ、このキーホルダー可愛い♪
二つください!
(あ、あの質素と倹約を絵に描いたような理愛ちゃんが……!)
あ、舞ちゃんちょっと待ってて!
う、うん。
大丈夫だけれど……
呆気にとられていた私はすぐに答えられなくて、あいまいに大丈夫と言ってしまう。
嬉しそうに顔が崩れる理愛ちゃんに、今は少しばかり不安もついてくる。
(ぜんぜん、事態が把握できません……!)
ごめんね、すぐに戻るから
わたしの心中をわかるわけもないし、そもそもわたしが大丈夫って言っちゃったからだけど、理愛ちゃんのためらいのない動きがスゴい。走ってないのに移動速度が速い技術なに。
向かった先は、近くに立っていた……えーと……なんで体操着? の人達。
半袖やハーフパンツが、周囲の人達の服装と比べて、すごく目立っている。
他にも眼を惹かれちゃうのは、髪型。オレンジ色や青色の髪は、染めている人もいればウィッグの人もいる。
(……試合帰りの人? でも、あんな格好で試合って出れるの?)
不思議な人達に近寄って理愛ちゃんは、手元から携帯をさっと取り出す。飾り気のない、薄いベージュ色の携帯を握りしめて、理愛ちゃんは口を開く。
すみません、写真一枚とらせていただいてもよろしいですか!?
ええ、大丈夫ですよ
よく見ると、会場の中には同じような格好をした人がたくさんいる。
これは……もしかすると、テレビで見た、コスプレってものなんだろうか。
ありがとうございます!
では、失礼して……
理愛ちゃんはそう言うと、携帯を構えてコスプレをした人達を撮影する。
タッチする具合と角度の変え方から、一枚や二枚じゃないみたい。
(理愛ちゃんって、あんなに携帯使えるんだ)
理愛ちゃんがこんな携帯の使い方をしているのを見たことがなかったから、すごく新鮮。
ポーズつけましょうか?
本当ですか、嬉しいです!
では、決勝戦の決め手になった、あのポーズがいいです♪
あのシーンいいですよね!
こちらとしてもやりがいがあります
そう言ってコスプレをした人は、理愛ちゃんに対して横目になるような位置に立ち、口元にわかるかわからないかくらいの笑みを浮かべる。
うっとりするような表情になった理愛ちゃんに対して、相手の人はお腹のあたりで右手の親指を立てて、言った。
……とるぜ。
この流れ、止めるわけにはいかないからな
(流れって、なんの流れ?)
かすかに聞こえてきた言葉の意味がわからないわたしと違い、理愛ちゃんは嬉しそうに頭を下げる。
本当にありがとうございます!
マコトくん、とってもお似合いです
そしてわたしの頭に、さらにわからない情報が飛び込んでくる。
(え。マコトくんってあの子?
でも女の子……でも似た子がいっぱい、マコトくんはどのマコトくん?)
パニックになったわたしは、想わず声を出してしまう。
……ど、どういうことなの!?
とはいえ、答えてくれる人なんていない。
じゃあ舞ちゃん、次のサークルさんに行きましょうか
み、みすてりーのことかな?
テレビで見た変な円形模様を想いだして、そんなことを言ってしまう。
サークルさんって、このイベントに参加して、大切な場所を一緒に作って、同じ作品を愛して、本を頒布したりコスプレをしたりしている……ステキな人達のことよ
(やっぱり単語がミステリーだよ、理愛ちゃん!)
ある意味、わたしにとってここがミステリーな場所なのは、間違いなかった。