仲直りをしたその日から、もう二週間くらい経とうとしている。
 その後、理愛ちゃんは時間を作って、わたしとよく一緒にいてくれるようになった。

 一緒に遊んだり、服を見に行ったり。

 ご飯食べたり、カラオケで歌ったり。

 勉強を一緒にしたり。

 最初は、とっても楽しかった。
 まるで昔に戻ったみたい、そう想っていた。

今日はどこへ行こうかしら、舞ちゃん

……そう、だね

 でも、わたしは気づいている。
 理愛ちゃんがたまに、携帯を見ながらぼーっとしていること。
 カラオケで曲を入れる時、いつもなにかを入れてから、打ち直していること。
 決まった時間になった時だけ、妙にソワソワしていること。
 ――昔はなかった、そんな仕草。

理愛ちゃん、無理してる

えっ、なんのことかしら

ダメだよ!
落ち込んでる理愛ちゃんは、わたしも見てて辛いよ

わ、わたし、落ち込んでなんかいないよ?

 驚いたように理愛ちゃんは言う。
 今は、そうなのかもしれない。

理愛ちゃん、わたしのためになにかを我慢しているでしょ

……そんなこと、ないわ

 冷静に、理愛ちゃんはわたしに受け応えようとする。
 でも、わたしでも、わかった。鈍いわたしでも、この間の夢のおかげで、気づくことができた。

いくらわたしが鈍くても、理愛ちゃんの変化くらい、気づくよ?

 自分の前で組んだ、理愛ちゃんの両腕。

 みんなを指し示し、わたしをエスコートしてくれるその手が、今、震えていることに。

(……理愛ちゃんは、そう、そうだったんだ)

でもね舞ちゃん、わたしは舞ちゃんの期待に応えたくて……

わたし、理愛ちゃんのこと、ちゃんと知りたい!

ちゃんと?

うん。
理愛ちゃんが、わたしと悩んでいることがあるなら……

 まっすぐに理愛ちゃんの瞳と見つめながら、想ったことを言う。

わたしのために、犠牲にしないでほしいの

 そうして、ぎゅっと震えた指先を握りしめる。
 あの、昔の日の記憶と、同じように。

舞ちゃん……

マコトくん、本当は好きなんでしょう?

……それは

 視線を外した理愛ちゃんは、否定しなかった。

わたしのために、理愛ちゃんが苦しむのなら……お願い

 ――選んで欲しい、って、わがままはあるけれど。それは、言えないから。
 でも、怖がって捨てようとしているのなら……それは、勇気を持って、欲しいと想う。
 少ししてから、理愛ちゃんは口を開いた。

舞ちゃん、お願いがあるの

なに、理愛ちゃん

 理愛ちゃんは決意したように、まっすぐした瞳でわたしを見る。
 わたしもその瞳を見ながら、しっかり話を聞こうと、耳に意識を集中した。

今度の日曜日、一緒に来てくれないかしら

どこに行くの?

マコトくんと、わたしとのこと……ちゃんと、知ってもらいたいの

……わかった。
わたし、遅れずに行くから

 わたしが頷(うなず)くと、理愛ちゃんも無言のまま頷(うなず)いてくれた。

 理愛ちゃんの腕を放すと、もう理愛ちゃんの腕に、震えはなくなっていた。

 その後は普通に帰宅し、部屋に戻って、いつもどおりの行動をする。
 お風呂から上がって、着替えて、自由になった頃。

(マコトくん。理愛ちゃんの、大切な人)

 その正体に考えを巡らせるけれど、ぜんぜんわからない。
 でも、それもあと少しのこと。

 その日を想って、わたしはベッドに潜り込んだ。

理愛ちゃんが足りない! - 10

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