あれから一時間ほど経過した。
大方片付け終えた私達は、もう大丈夫と連絡をして、怖々戻ってきた彼女達に見せる。
暴れまわっていた如月は、一度戻って半井さんが持ってきたガムテープで、グルグル巻きにしてやった。
手足から口から、呼吸できる鼻だけ開けて、全身服の上から簀巻きみたいになっている。
一応、端末と手錠には手を加えず、持ってきていた武器を奪い、ついでに身体チェックして、危ないものも没収した。
さて……どこから説明した方がいいかね……
あれから一時間ほど経過した。
大方片付け終えた私達は、もう大丈夫と連絡をして、怖々戻ってきた彼女達に見せる。
暴れまわっていた如月は、一度戻って半井さんが持ってきたガムテープで、グルグル巻きにしてやった。
手足から口から、呼吸できる鼻だけ開けて、全身服の上から簀巻きみたいになっている。
一応、端末と手錠には手を加えず、持ってきていた武器を奪い、ついでに身体チェックして、危ないものも没収した。
先ずは……『支配者』の能力内容を教えてくれないかしら?
実際、目の当たりにしても尚分からない。
ただ、言葉を紡いだだけだ。
それで面白いように簡単に、彼女は倒れた。
警戒してはいたけれど、あそこまでだとは。
一体、どれだけ強い能力だというのか……?
それもそうだが、俺よりも先に『無効化』の効果の種明かしもしてほしいんだがな
誰か、『無効化』の能力持っている奴いるだろ?
名の通り、能力を消すんだと思うんだ
誰が持ってる?
武田さんはそう言う。
成程、全てのアンチも私も気になる。
名の通りだとしても、きっと何かがあるはず。
でなければ『強奪』に奪われたりしない。
……『無効化』をもっていたのは……
……あかね、です……
おずおずと手を挙げたのは山風さんだった。
そう、彼女が最強能力の双璧の『無効化』をもっていた。
終始、表には出てこなかったが……彼女、結局殺されずに生きていた。
奪われたということは、如月とひと悶着あったはずなのに。
あいつはああ言っていたが、きっと暴力で奪おうとしたに違いない。
この現状を見ると、そっちの方が余程しっくりくる。
な、何だ……
山風の嬢ちゃんだったのか……
さっき聞いたけど、如月の嬢ちゃんに能力奪われていたらしいな?
はい……
でも如月さんは……詳細、ちゃんと見てなかったみたいだし……
きっと、奪っても使えないと思います
……えっ?
詳細を、知らない?
奪った能力なのに、知らないとはどういう……。
山風さんは溜息をついて、床に転がされている如月を見る。
『無効化』はもう意味がないんです……
使い終わっちゃってるので……
そう前置きして、山風さんはポツポツと語り始めた。
能力説明
『無効化』
効果
ゲーム中、他の参加者の能力を、一日に一度だけ、効果を受けない。
現在かかっている能力がある場合、能力を打ち消す。
この効果は他の能力の効果を受けない。
また、ゲーム中一度だけ、他の参加者の能力がゲーム終了まで発動できなくなる。
『無効化』の効果を受けない能力には効果がない。
発動条件 端末操作による自動又は任意
保有者
山風茜
……つまり。
一つ目は、一日一度を限度に使える自衛能力。
効果を受けないということは、『共振』や『支配者』などを受けても後手で使えば打ち消せるということか。
能力詳細を住吉に聞いている限り、『共振』で上書きされても、きっとこの能力を使えば上書きそのものを消す事ができる。
『支配者』に使うなと命令されても、きっとこれだけは使うことができるということになる。
ってことは、『無効化』には完全な上書きも封殺もできないということか。
つ、強い……。
あかねはもう、二つ目の能力を使ってます
二つ目は使い捨てなので、奪われても使えないのではないかと……
誰、とは言わない。
言いたくないと首を振る。
きっと該当する人間はいるはずだ。
既に使えないハズなので、それは思い当たる節があるのだから。
成程、『擬死』と同じ使い捨てか……
アレは確か、一度しか使えない
だったか、御手洗?
うん、みたいだよ
半井さんの問いに首肯する御手洗さん。
……今は、話し合いに参加してくれているみたいだ。
また、入れたくないと言われたら困るのだ。
形だけでも入れてもらわないと、ルールだから。
恐ろしい攻防一体の能力ね……
つ、使われないでよかった……
常時の住吉が使われていたらそれこそ命取りだった。
今更ビビる住吉を呆れながら、武田さんを目線で促す。
ああ、俺か……
簡単に言うと『支配者』の能力は、一日一度限定の、絶対命令権ってやつだ
これを使えば、不可能な殺人も可能になる
俺はこれを使って堂賀を殺している
武田さんは、半分予想はできていた内容を告げた。
冷静になれば、分かった。
アレだけ詳細に命令され、それが確実に実行できる事象が起きるとすれば、ああいうことが起きるのだ。
堂賀さん殺しの真相は……絶対命令権、か。
思った通り、死ねと命令されて死んだのだ。
能力を使うことで殺せる、あの不自然な死に。
能力説明
『支配者』
効果
他の参加者に一日に一度、命令を下すことができる。
この命令は『無効化』以外の効果を受けない。
命令を受けた参加者は、内容通りの行動を実行、又は事象に受ける。
命令は絶対であり、如何に不可能なことでも、それに最も近しい事象が起きる。
発動条件 ○○(対象の名前)は○○(命令内容)しろと発言する
効果範囲 目視の範囲
保有者
武田達也
……命令権。尤も近しい事象、または行動。
滅茶苦茶だ。滅茶苦茶すぎる。
こんなものが、罷り通るのかこのゲームでは。
私は絶句していた。目を丸くしたり、唖然としたり、ほうけている他の人たち。
そんな中で、冷静に半井さんは問う。
……
堂賀には何と命令した?
そうだ。
堂賀さんに、何と命令したのかも気になる。
きっとそれが、殺害の動機にも繋がると思う。
もっと言えば、この人の言動の理由にも……。
『今までやってきた自分の言動の全てを悔やみながら、姿も残さず消えて死ね』
そう、俺は奴に命令した
そしたらあんな風に爆発して死んだ
あれは流石に、予想外だったがな
険しい顔で、武田さんはそう告げた。
……消えて死ね、か。
だから消えるがイコールで無音の爆発につながったのか。
悔やみながら……精神にもきっとダメージ入ったはずだ。
その前に一発、奴の頭に直接これで殴った
あいつは俺の顔を見ても覚えてなかったから、最期に思い出させてやるためにな
からん、と彼が取り出したのは……血がついた鉄の棒。
……漸く、人狼らしい姿が垣間見えてきた。
悲鳴を上げるあやたち。
住吉に目配せして、頼まれた阿澄さんが保護して遠ざける。
これで、堂賀さんの頭を殴った?
……随分と怨恨が入っているような気がする。
思い出させる、か……。
先程の発言も入れて、なんとなく、見えてきた。
武田さんの願いっていうのも、私達に手出ししなかった理由も……。
武田さん、貴方……
正直に答えて
最初から、堂賀さん以外を狙う気はなかったのわけね?
それが目的だったのでしょう?
貴方の願いは……堂賀さんの殺害だけ
他は出来れば巻き込みたくないとか、そう考えていない?
私が問うと、周りは漸く納得したような様子を見せる。
そう。それが真実だったのだ。
彼の目的は既に果たされ、願いも同時に果たされている。
堂賀さんさえ死ねばいい。それが全てなのだ。
他は、何も望んでいない。だから、叶っている。
後は必要のない犠牲。
そんなことはさせたくない。
自分が死ねば丸く収まることだから。
こう考えれば、大体が納得いくのだ。
この不可解な人狼の言動の全て。
欲望は既に果たされ、本人は達成感に満たされ、これ以上の血を毛嫌いしているから。
だから……私達を護ろうとする。
これだけでそこまで察するとはなぁ……
そうだ、そんな感じで合ってるぜ
俺はこれ以上、死人を出したくない
嬢ちゃんは敵に回しくない高校生だな
どっかの迷探偵顔負けだ
感服か、からかいか。
武田さんは私にそう言葉を投げる。
高校生探偵とでも言いたいの?
生憎ね……
私だって探偵の敵の方よ?
結局、同じ穴の狢だもの
私が周りを見て言うと、半井さんは眼鏡を中指で直して、くつくつと自嘲的に嗤う住吉。
申し訳なさそうにこちらを見つめるあやと阿澄さん。
悲しそうに目を細める御手洗さんと、首を傾げる山風さん。
あとぶっ倒れている本物の愉快犯。
全員が、身奇麗ではここを出ることなんてできないのだ。
人殺しは人殺し
何処に行こうがその罪は消えない、ってか?
ええ
でも、開き直るしかないわ
死にたくないから
失いたくないから、私は人を殺した
少なくても……今私の中にある世界は、簡単に無くしていいものなんかじゃないもの
生命を賭けてでも、誰かを……自分を護るということが綺麗事じゃない事は知っているわ
そうだね……
私もそれには同感
ふと、住吉が私を見て呟いた。
彼女は私と阿澄さん、そしてあやをみて言った。
何かを決意したように。
そろそろ、ゲーム終わりそうだし
私も白状しようか
今だから言えるけど、このゲームの外で私は一度死んでいるのよ
多分、今の武田さんと同じで、満たされたらそれで終わり、的な感じで
満足したわけじゃないけど、やっぱ後悔って残るよ
それはそれで、さ……
んで、武田さん
覚悟がない人の前でやることじゃないよそれ
きっと、心に大きな傷ができちゃうわ
最期は代理の私が責任もって終わらせる
……彼女も、最後だからか。
隠していたことを、言うつもりだ。
大半がなんのことか分からない中、一人だけ反応した人がいた。
ッ!!
……あやだった。
あの時の事を知っている私以外の、もう一人の当事者。
彼女は、泣きそうな顔で住吉を見て……聞いた。
や……やっぱり……
ますみ……真澄なんだよね?
阿澄さんも何かを理解したように頷き、妹を促して逝く。
送り出される妹は、微笑んでいた。
改めて名乗るよ、私は真澄
住吉真澄って言うのが、前の名前なんだ
……久しぶりだね、文月
元気にしてた?
まずは……あん時、あんなことして、ごめんね
アレは全部私が悪いんだ
あんたが罪悪感に苦しむことないよ
私、今ここにいるから
生きてるからさ
今度は一緒に帰ろうね、文月も速水も
姉貴もしっかり連れていくから
本当の名前を明かした。
訳の分からない面々がいる中、あやはぽろぽろと泣き出す。
嬉しさと悲しさと、悔しさと……色々ごちゃごちゃになってしまっている。
だってあの子は……自分が住吉を追い詰めて殺したんじゃないかって……ずっと後悔していたから。
その気持ち、わかるわよあや。
私だって、きっと全てが終わればそうなるから。
志田奈々っていうのは、実はアナグラムなんだ
並べ替えすると「名無しだ」ってなるでしょう?
私は、今はまだ名前がないんだよ
姉貴の「阿澄」ってのも、前の名前だけど生き返ってまもないから名前がないだけ
だから使ってるだけに過ぎないんだ
最初に言いましたよね、死んだ人も生き返るって
私がその証拠なんです
私も、随分と前に死んじゃっているので、本来はここにいるべき人間じゃありません
この身体も、仮初のものなんです
……ほぅ、姉妹揃って死人だったのか?
それは意外だな
ゆ、幽霊……?
お、驚いたな……
本当に何でもありかよ……?
流石の幽霊発言に、真相を知ってそうな私に視線が集まる。
私、因縁ありそうなことしていたし。当然かな。
住吉が言っていい、と目線で了承。
口を開く。
死人なのはその通りよ
私とあやがこのゲームに慣れているのは、以前似たようなことに巻き込まれたことがあるの
その時、住吉は黒幕……というか、別の意味で内部をかき回す主催者側の人間だった
彼女は死ぬために、私達当時の参加者を利用して……
そして最期に、私達の前で自殺したわ
じさ……つ?
うん、頭を銃でぶち抜いてね
それで全部大丈夫かと思ったんだけどね
甘かったんだそれが
事の顛末と関係を洗い浚い説明して、納得した彼ら。
住吉は武田さんに言った。
経験者から言うと、武田さんの自己満はきっと御手洗さんとかの罪悪感を長引かせる
だから、トドメは私がするよ
私は代理だし、それが仕事だから
武田さんは、その言葉を深く胸に刻んだのだろうか?
思惟に数秒ふけて、そして。
あぁ、分かった
俺の配慮不足だったわ
そんじゃ、最期はよろしく頼んだぜ
そう、告げたのだった。
これで、後は本人から理由を聞くだけだ。
なぜ、堂賀さんを殺したかったのかを。
刻一刻と、武田さんの生命の砂時計が、短くなっていく中、彼は語り始めた……。