橘杏子

はい、問題はありませんよ

しょうがなく借りたぶかぶかのパーカーの
袖をまくり上げた。

何故か、案内されたのは
ダブルベッドの置かれた眺めのいい部屋だった。

ここ、一人で寝ていいのかな。

社長

そうか、お前に頼んで
正解だったな。

橘杏子

ありがとうございます

社長

見捨てないでやってくれ

橘杏子

そんなつもりはありませんよ

微かに語尾が震えていて、
本当に心配しているんだと感じた。

社長

あいつ、迷惑かけてないか?

橘杏子

まあ、社長が言ってた通り
帰りは遅いですけど、いい子ですよ

まだあって間もないものの、社長が言っていたように
根は悪い子ではないのだと思う。

素直になるのには時間を
必要とするかもしれないが・・・。

少しずつ、溝を埋めていきたいと思う。

その後少し会話した後、社長との電話を終えた。

坂田結城

電話してたの?

橘杏子

おか・・
親さんから。

坂田結城

プハッ。
親さんって

彼の前でお母さんという言葉は
行ってはいけないと反射的に感じた。

でも、余計に怪しまれてしまったかもしれない。

橘杏子

というか、同じところで寝るの?

坂田結城

親父のベッドないし

橘杏子

それなのに、ここのベッドは
ダブルなんだ・・・

金持ちは凄いと思う。
こんな豪邸に住むまでに
どれだけ努力をしてきたのだろう。
私には到底、計り知れない。

坂田結城

隣、いい?

橘杏子

わ、私、床で寝ます・・・。

いくら、年下だからといって
隣で寝るのには勇気がいる。

彼氏でもない男と
一緒に寝るのなんてありえない

坂田結城

俺の命令に背くなんて
ことないよな?

橘杏子

いつまでも従うと思うなよ

坂田結城

早く寝るから、
横に来い。

グイッと引っ張られるまま、
私は男の隣へと移動させられると
私の目の前には男の顔が度アップで目に入る。

男の力には敵わない。

橘杏子

なんですか・・・。

坂田結城

お願いがあるんだけど。

橘杏子

だからなんですか

坂田結城

明日、買い物に
付き合ってほしい

橘杏子

別にいいですけど・・・

坂田結城

じゃあ、デートだな

橘杏子

絶対ないです。
冗談でもやめてください

坂田結城

そこまで嫌がらなくても

橘杏子

嫌なものは嫌です。

坂田結城

なんで、
そんなに年下を嫌うんだ?

橘杏子

嫌ってなんてないですよ

坂田結城

じゃあなんで
目、そらすんだよ

橘杏子

嫌ってないって
言ってるじゃないですか

私はそのまま、彼に背中を向けて
寝たふりをした。

坂田結城

嫌なんだよ・・・
それじゃあ

彼は悲しい声色をしていた。
後悔した。なに意地張ってるだろうって。

それじゃあ、の後に続く言葉が
分かった気がして私はその後寝られなかった。

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