最初に
単刀直入に聞くわ
貴方、御手洗さんをどこにやったの?

まず私が聞いたのは、彼の理由とかじゃない。
御手洗さんの行方だった。
ポカンとするメンツ。
二人は、理解している様子だった。

奈々

あっ……
もしかしてだけどさ
御手洗さん生きてる?

白雪

やっぱあの人、死んでないんですね
道理で……

彼女の能力を思い出した住吉と『強奪』を持つ如月は、ピンときたらしい。
すぐに、半井さんも如月の様子を見て舌打ちしながら悟る。

半井

一杯、彼女に食わされたか……
成程『擬死』の能力を……
昨晩使ったということだな?

ええ、恐らくは
多分、偽情報を出す方だと思うわ

私が確信をもって言うと、武田さんははぁ、と溜息をついた。

武田

まぁ、そうだわな……
本意かどうかを聞いてた占い師の嬢ちゃんはすぐにピンとくるか

隠さなくていいわ
御手洗さん殺しを認めてないのは殺してないからでしょう?
部屋にでも隠れてるの?

武田

……勝負に疲れて、休みたいから部屋で寝てるそうだ
何なら、御手洗のネーチャンの部屋見てこいよ
鍵は開けておくって言ってたぜ?

こ、この状況でよく寝ていられる……。
武田さんは俺が言ってもダメだからと、ここにいるから見てくるといいと言う。

奈々

理由がよくわかんないけど……
姉貴、確かめてきてくれない?
悪いんだけどさ

阿澄

うん、分かった
ちょっと見てくるね

住吉に言われて、阿澄さんが談話室を出て彼女の部屋に確認に向かった。
今は危険じゃない。黒幕は目の前にいるし、狙うようなモノは既に無くなっている。

白雪

然し、解せませんね……
なぜこのタイミングで、彼女は能力を使用したんでしょうか?

本当に面白くなさそうに、如月がボヤく。
彼女からすると拍子抜け、肩透かしを食らったような気分なのだろう。

武田

そりゃ、俺がネーチャンに頼み込んだからな
明日で決着つけるから、能力を使ってくれって

…………ああ、やっぱりか。
この人……本当に……。
私はこの時点で、凄い罪悪感が生まれていた。
だってこの人を……私達は、殺さなければいけない。
あの時は違う。むき出しの敵意を持つ水渓さんとは。
理由も察することができた。
きっと、武田さんはこの場にいることが不自然な人なのだと思う。
綺麗事だと思う。偽善的だと思う。
でも、やるやらないとでは大きな差が出る。
彼は、実践した。
プライドもなく、自分のルールに従って。

白雪

まったく……興ざめするようなことをしてくれますね、武田さん
もっと黒幕らしく振舞ってくださいよ
じゃないと、殺すときに嬲りますよ?

如月が唇を尖らせて文句を言っている。
あれが通常の反応だとは思えない。思いたくない。

奈々

あー……大体察したかも……
なんつうか、今回のゲーム……
後味悪いなぁ……ホント

住吉まで、なんとも言えない顔で呟いている。
あやと山風さんは首をかしげ、半井さんは遠くを見つめている。

やがて、阿澄さんが戻ってきた。
眠そうに目をこすっている、御手洗さんをつれて。

阿澄

大丈夫だったよ、奈々ちゃん
ケガもなし、普通に生きてたよ
これで、全員揃ったね

御手洗

休ませてほしいのに……
私は投票したくないよ……

文句を言っている御手洗さん。やっぱり生きてた。
『擬似』の能力である情報操作を使って、死亡通知を私たちに送ったのだ。
そうすれば、私達は狼が御手洗さんを殺したと判断して、互いの無益な争いをやめる。
それが、武田さんの狙い。
余計な殺人をさせたいための。
自分が最後死ねばいいだけだから。

阿澄

武田さん
御手洗さんにお願いしてまで、ほかの人の殺しを止めたかったんですか?

阿澄さんが疑問を投げると、彼は頷いた。

武田

流石に胸糞悪いだろ?
自分が狼だってのに、狼探しで関係ない奴が死ぬのはよ

阿澄

わからなくはないけど……
ゲームの趣旨には反してるよね

武田

いいんだよ
狼である俺がそう決めたんだ
一人なら誰も異論なんざ唱えねえだろ

……このゲームに観戦者がいるのかどうかは知らないが、その態度はどうなのだろう?
チラッと住吉を見ると、唖然と口を半開きにしていた。

奈々

こ、このパターンは初めてだわ……
隠すつもりが全っ然ないし……
でも一応堂賀殺してるから役目は果たしてるでしょ……
ええと、該当するケースが過去にないから、対応も出来ないよ……
うん、今回は例外で、ゲーム進行の阻害じゃないってことで……

困惑していた。
やっぱりレアケースなんだこれ。
案の定、危ない橋を渡っていたのだ。
今回だけしか通用しないルールの穴。
次はない。そして、もうこのゲームにも次はない。

白雪

チッ……黒幕まで偽善者ですか……
仕方ありませんね
今は黙っておいてあげましょう
ですが……
殺すときは簡単には死なせませんよ武田さん
わたしの愉しみを奪ったどころか、全面的に喧嘩を売ったのはあなたです
お覚悟はよろしいようですね?

不機嫌丸出しの如月が、苛立つように腕を組みながら武田さんを睨み付ける。
あやと山風さんをさり気無く阿澄さんが避難させて、間に半井さんが入る。

半井

貴様に殺させるとは、誰も言っていないがな
同時に、他の奴らにも手出しはさせん
俺が貴様を殺すと、言ったはずだぞ如月

白雪

腹癒せにゲーム終了後に皆殺しにしてもいいんですよ
そっちの方が本業ですんで、少しはスカッとするんじゃないですかね

言外に、如月に宣戦布告した半井さんに、そう告げる如月。
目が本気だった。あいつは、本気でやる気だ。
あの契約はあくまでゲーム内だけ。
それ以外は、関係ない……か。
なら、私も逃げてる場合じゃない。
身を守るために、抵抗ぐらいはする。

奈々

調子こいてんじゃないよ、如月
仮にンなことしてみなよ
あんた、一生どころか死んでもここから出られないからね
私もあんたの敵になるよ

ゲームとは関係なく、私達を狙うなら私も味方するわよ
孤立無援で強がり言えるのかしら、如月

私が住吉に味方すると、上等という風に鼻を鳴らして言い返す。
というか、キレた。沸点を超えたらしい。
今度はさっきと違う。
すぐにでも爆発しそうな勢いだった。

白雪

あーウザイですねえ、もう!
ぎゃあぎゃあ喚くなら、今すぐ殺してあげますよッ!!

ガタンッと立ち上がった如月は、武器を手に私達を一瞥する。
半井さんまで、武器を手に立ち上がった。
あやと山風さんが悲鳴を上げて、阿澄さんが厳しい視線で如月を見つめ、住吉が散弾銃を構える。
私も既にナイフをもっていた。
オロオロするのは、何故か武田さん一人。
ぐっすりと、マイペースに御手洗さんはソファーに横たわり眠っている。
何で今ここで眠れるのか、ツッコミを入れている余裕はない。

半井

やる気ならば丁度いい!!
まだ一度のチャンスはある!
貴様を排除してから、ゆっくりと投票に移させてもらおうッ!!

半井

志田姉、山風、文月ッ!!
お前らは御手洗を連れて一度部屋に戻れ!!
ここは俺達で何とかするッ!!

一気に、話し合いの空気から殺し合いの空気に逆戻り。
半井が言うとおり、阿澄さんが言うだけ無駄と二人に言って、二人は脱兎のごとく部屋から飛び出す。
御手洗さんは、阿澄さんが担いで逃げ出す。
戻るとき、阿澄さんは住吉に、私はあやの視線を感じる。
――死なないで。
その思いに応える為に、こいつは殺す!!
逃がすかと追う素振りを見せた如月。
そこに私と住吉がすぐに割り込む。

白雪

ッ!?

銃声が二発続く。
私が水渓さんの銃で一発、住吉が自前で一発ぶっぱなした音だった。
当てる気で撃ったのに、如月は寸前のところで踏み止まって回避した。
昼間に突如始まった殺し合いは、もう止まらない。
止める気もないッ!!

奈々

外したか……ッ!

チッ!

ここにいるメンツで、ルール違反をしているのは私だけ。
だが、能力を明かされる程度ならまだ大丈夫。
どの道、多分……っ!

白雪

志田奈々の能力を強奪す――

やっぱり、住吉の能力を強奪しようとしてきた。
その手は、悪手だ。させる訳がないだろう。
人間、便利なものがあるとすぐに使おうとする。
それが弱点になるとは考えない。そこを、突く!

半井

遅いッ!

疾風の勢いで、半井さんの剣戟が走る。
残像すら見える速度で振るわれる剣。

白雪

ぐっ……!?

如月はギリギリのところで避ける。
室内は既に戦場だった。
一撃を防ぐために言葉を続けようとしても、物理的な方に意識がもっていかれる。
成程、気付いていたのか半井さん。
どんなに強い能力でも言葉にする前に、発動する前に潰してしまえば無効化できる。
これが、現段階での唯一の方法。
私達の最大の武器だ。

奈々

だぁー! ちょこまかと!
だったら吹っ飛ばして――

志田ッ!!
こんなところで手榴弾使うなッ!!

奈々

うわっ、すんません!!

恐らくは阿澄さんの武器であろう、数々の手榴弾を投げようとする住吉を止める。
こんな狭いところでやったら諸共死ぬだけだ。
もう少し考えて欲しい。
私はあやの武器であるクロスボウで半井さんを援護射撃する。
如月は矢を次々掴んで防ぐ。
なんて動体視力してるんだ!?
しかも半井さんの攻撃も避ける、防ぐでダメージが通らない。

白雪

小癪な……ッ!

半井

小物に頼るのが癖になっているな!
だから個人では戦えないんだ貴様はッ!

障害物に隠れて能力を使おうとしても、半井さんはしつこく追い回して剣を振るう。
何時の間にか、端で逃げている武田さんを放置して、如月殺しに突っ走る私たち。
明らかな危険因子はこいつなのだ。
早めに排除しないといけない。

奈々

だったら接近戦だァッ!

高瀬さんの斧を使って、フラフラしながら飛び掛る住吉。
案の定外れて机を叩き割る。
重さがある分、取り回しも悪い。
銃はもう使えない。こんな混戦ではダメだ。
自滅してしまう。

これ使って!!

奈々

サンキュー!

私のナイフを投げて渡す。
彼女はしっかり掴むと、飛び掛る。
私は矢そのものを投擲することにした。
狭い室内ではもう、速さは関係ない。
威嚇になればいいんだ。当てることが目的じゃない。

白雪

ゲリラみたいなことしてくれて……!!
だったら、人狼の能力を!

半井

させるかッ!!

対象を武田さんにしても、無駄だ。
優秀な前衛である彼が防いでくれる。
この状態なら、消耗戦に持っていけば勝てる確率も上がる。
半井さんは感謝すると目線で私達にお礼を言う。
既に昼間の戦闘行為禁止をスルーして、私たちはルール違反。
私は後がないが、また半井さんと住吉は残ってる。
あの二人が決めてくれれば……勝てるッ!!

そう確信している時だった。

武田

……支配者が命令する……
『如月白雪、お前は動くな、考えるな、投票をするな、全てが終わるまでただ黙ってろ』

武田さんが、何かを呟いた。
途端。

白雪

しまっ……!?

如月が突然倒れた。
そのまま、ぴくりとも動かなくなったのだ。
……何が起きた? 
ほうける私に、武田さんは言った。

武田

死んじゃあいねえよ
気絶してるだけだ
全部終わるまでは意識は戻らねえぜ

ああ、そういうことか。
堪え切れなくなって、『支配者』を使ったのか……。
武田さんは、取り敢えず片付けてから話し合いを再開しようと提案する。
私達も、それには賛同して片付けを始めた。
突然始まった殺し合いは、皮肉なことにも、まさかの人狼の調停によって、止まる羽目になった……。

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