私たちは、フィットネス・ジムを出た。

 階段の手前でショーワさんが言った。

音楽は気にならない?

えっ、言われてみれば

じゃあ、止めるわね

うん、でもどうやって?

警備室だと思う

 ショーワさんは、扉を指さして言った。

 私たちは、うなずいた。

 従業員用の扉を開けて、その奥の警備室に入った。

 警備室には、たくさんのモニターがあった。

 モニターには、店内や駐車場が映っていた。

 ショーワさんは、スイッチをいくつか押した。

止まったわね

ここで管理してるんだ

店内放送もできるみたいね

それも警備室でやっちゃうの?

そういう大ざっぱなところは、さすが米軍の施設ね

 ショーワさんはそう言って、部屋を調べた。

 ロッカーから警棒と拳銃を取り出した。

銃ですか?

ええ。ショットガンもあるけど持っていく?

いえっ。というより、銃があるんですね

お客さんは、在日米軍とその家族。ここは日本だけど、アメリカなのよ

そっか

 言われてみれば、それはその通りかもしれないけれど。

 それでも、私たちの住んでいる市のなかに、警備員が銃で武装するようなお店があったなんて、なんだかショックだった。

ねえねえ、お店の中が丸見えだよ?

ほんとだ。昨日、寝たところも映ってる

下着売り場も映ってるよお

外も映ってる

……商品の搬入口かしら

私たちが入ってきたところとまったく違う

滑走路がない

じゃあ、反対側かなあ

相変わらずどこも痴女でいっぱいだねえ

あれ?

どうしたの?

トラック? 車がこっちに向かってる

あっ

ほんとだ

………………

 私たちは、モニターに映る装甲車に釘付けとなった。

 装甲車は、痴女の群れを押しのけるようにして、ショッピングモールにやってきた。

人だ! お姉さんたちが帰ってきたんだ!!

ちょっと落ち着きなさい。痴女かもしれないじゃない

でも、ちゃんと運転してるし

銃だって撃ってる

痴女を撃ちながらこっちに来てる

あっ、ゲートが閉まってる

搬入口から入れない

開けなきゃ

ねえ、無線機は反応しないんでしょ?

えっ、うん……

 私は無線機を使ってみた。

 お姉さんは応答しなかった。

とにかく、ゲートを開けるのは反対よ。あの車を中に入れたら、痴女も一緒に入ってくる。私はまだ死にたくないし、それに、あなたたちを危険にさらしたくはない

じゃあ、見殺しにするんですかあ?

リスクが大きすぎるわ。あの装甲車は銃で武装してるのよ

でもっ

そんな人たちは入れられない。扉を開けるなんて、もってのほか

それでもっ

オトナの言うことは聞きなさい。こういうことはしたくないけど、でも、あんまり意地になると容赦しないわよ

 ショーワさんはそう言って、私に拳銃を向けた。

 目が真剣だった。

 まるで別人のようだった。

あなたたちも落ち着きなさい

……はい

 いつきは、こくんとうなずいた。

 だけど、小夜は激怒した。

 ショットガンをショーワさんに向けたのだ。

見殺しなんてできない。あの車がお姉さんたちでも、そうじゃなくてもだ!

…………好きにしなさい

 ショーワさんは、ゆっくりと両手をあげた。

いつき! ゲートのスイッチを探して!!

うん

智子はこっち来て!

えっ、うん

開いたよ?

搬入口に行こう!

 私たちは、いっせいに駆けだした。

作戦はあるの?

………………

………………

………………

私も行くわよ

………………

 私たちとショーワさんは、搬入口に向かった。

 搬入口は、半分地下になっていた。

 私たちが扉を開けたところで、ちょうど装甲車が突っ込んできた。

シャッターを閉めるわよ!

えっ、うん

 ショーワさんが壁のボタンを押した。

 装甲車の後ろで、シャッターがガラガラと音を立てて下がった。

 搬入口は封鎖された。


 ゲートとシャッターの間には、十数人くらい痴女が残された。

 シャッターのなかにも何人かの痴女が入りこんでいた。

CIAの工作員

中に入って!

お姉さん!

MI6の諜報員

インペリアルがいる

KGBの職員

装甲車にしがみついてるわ

あっ

うふぅん

CIAの工作員

とりあえず中に入るのよ!

 お姉さんはそう言って、インペリアルを撃った。

 装甲車の屋根から、別のインペリアルが飛びおりた。

 お姉さんと対峙した。

中に入りましょう

うん

 私たちは、ショッピングモールのなかに入った。

 搬入口につながる頑丈な扉のところで、お姉さんたちを待ったのだ。

静かになったわね

 ショーワさんは、私たちをかばうように前に出た。

 それから私たちを押すように、ゆっくり後ろに下がった。

 そうやって扉と距離をおいた。

 私たちは、ショーワさんに押されるまま、おとなしく後ろに下がった。

 扉が開いた。

 お姉さんたちが入ってきた。

動くな!

 ショーワさんが拳銃をかまえて言った。

 お姉さんたちは絶句した。

 ショーワさんは叩きつけるようにこう言った。

CIA、KGB、MI6。そんな不審人物は、ここには入れられない。どこか他所に行きなさい

CIAの工作員

……痴女に襲われてるのよ

銃を床に置きなさい

MI6の諜報員

銃をあずけたら、なかに入れてくれるのかい?

さあ

KGBの職員

他に行くところがないのよ

 きっぱりと、KGBのお姉さんは言った。

 それから銃を床に置いた。

 遠くに蹴った。


 すると小夜がショットガンを、ショーワさんに向けた。

もう、いい加減にしなよ

 小夜は激情をこらえて一心に言った。

 ショーワさんは振り向きもせずにこう言った。

撃つときはレバーを引くのよ。そのままじゃ撃てないわ

えっ?

 小夜は一瞬、戸惑った。

 ショーワさんは、すばやく小夜からショットガンを取り上げた。

 くるりと片手でショットガンをまわしてレバーを引いた。

 お姉さんに向けた。

CIAの工作員

………………

 ショットガンを向けられたCIAのお姉さんは手をあげた。

MI6の諜報員

………………

 拳銃を向けられたMI6のお姉さんも手をあげた。

 ふたりは、ゆっくりと銃を床に置いた。

 ショーワさんが言った。

あなたたちは、いったい何者? まずそれから言いなさい

ザ・スパイ・フー・ラブド・女子中学生

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