無線機でお姉さんを呼んだ。

 だけど、応答はなかった。

向こうの無線機とは、つながってるみたいだけれど

声は届いてるってことですか?

届いてるわね

じゃあ、忙しくて応答できないのかなあ

応答スイッチか、それかマイクが壊れたのかも

……とにかく、また後にしましょう

うん

ねえ、2階って行ったことある?

え? あるの?

っていうか、階段のぼってきたばかりだし

まあ、ここって天井すごく高いから

でね、2階には事務所や警備室があるんだけど、お客さんも利用できるようになってるの

うん?

美容室や歯医者、それにフィットネス・ジムがあるのよ

あー

 ショッピング・モールによくあるレイアウトだ。

これから行ってみない? たぶん、ジムにはシャワーがあるわよ

 ショーワさんは、そわそわしながらそう言った。

もちろん!

行こう!

シャワー!

 私たちは満面の笑みで、うなずいた。――

ROUND9
密着の痴女『ウィズソープ』

 2階の雰囲気は、1階とはまったく違っていた。

 床も壁も落ち着いた色で、まるで銀行か病院のようだった。

痴女も人間もいないね

テナントは少ししかないよお

しかも、テナントひとつひとつが大きいし

 それに事務所や警備室など、お客さんから見えないエリアが広いのだと思う。

 2階は、1階と比べてひどくせまく感じられた。

ここよ

ほんとだ

うわっ、ジムってこんなに中が広いんだね

普段は入口しか見ないもんねえ

 私たちは、誰もいない受付を通過した。

 ロッカールームがあって、その先は、ジムとシャワールームに別れていた。

シャツやタオル、ちょっとしたお店があるわよ

あっ、チョコがある

ヘアバンドも

結構、便利かも

 私たちは、お店を楽しんだ後、シャワールームに入った。

 立ったままシャワーを浴びるスタンドタイプだった。

個室は5つあるけど、一緒に入る?

なんでですかー?

だって、さびしいじゃない

あはは

ショーワさんって結構さびしがり屋さんですよね

そうなのよ。体が夜泣きしちゃって

って、すぐそうやって下ネタに走らないでください

 ショーワさんは息を吐くように下ネタを言うので、いちいちツッコミを入れては身がもたないのだけれど、一応義務として、私は突っこんでおいた。

もう。智子ちゃんってば、ツッコミ上手ねえ

 ショーワさんは、本当に嬉しそうに両手を胸の前で合わせた。

 私は困り顔で、それを笑殺した。

 タオルを抱いて、そそくさとシャワールームに入った。

うわっ、仕切り壁が高いなあ

 個室は清潔で、しかも意外と広かった。

 シャンプーやボディソープがあって、タオルをかけるところがあった。

 ちょっとした小物も置けるようになっている。


 私は、おそるおそるシャワーを出した。

 水温を調節した。

 すると隣からもシャワーの音がした。

みんなも入ってきたんだね

 ぼそりと、つぶやいてみた。
 だけど返事はなかった。

まあ、返事をされてもこの水音じゃ聞こえないや

 私はひとり納得すると、シャワーを浴びた。

気持ちいい……

 胸にあてたシャワーを、顔にあててみた。

 あごを上げて、そのまま頭から浴びた。

 汚れと一緒に、疲れも流れていくようだった。

ああ

 私は目をつぶったまま、悦びの声をもらした。

 いろいろなことを忘れて、ただひたすらに髪を洗った。

 とても気持ちの良い、満ち足りた時間だった。

 それは十分にも数十分にも感じられた。

 小夜の大らかな声がした。

先に出てるねー

うん!

 私は髪をまとめながら返事した。

 それから体を洗いはじめた。

ボディソープを泡立てて……うーん、手で直接洗うしかないか

 今度来るときは、スポンジみたいな物をお店から持ってこよう。

 私は、あわあわになった手で、身体をさするように洗った。

 泡まみれの手は、まるで他人の手のように感じられた。

手が私の身体を、まるで白蛇のように這いまわるのだ

 私はそんなことをつぶやいた。

 だけど誰もツッコミを入れる人はいなかった。

うふぅ

 身体をさする手は徐々に下がる。

 太ももを熱心に這いまわる。

 私の太ももとその奥を泡まみれにするのだ。

いつきは、スタイル良かったなあ

 思わず声に出してしまった。

 私は身をすくめ、耳をすました。

 いつきのツッコミを待った。

 しかしなかった。

 ただ水音がするだけだった。

………………

 私は、おそるおそる振り向いた。

 当然といえば当然だけど、いつきはいなかった。

 だけどその代わりに、痴女がいた。

うふぅん

うわっ!?

 私は、いきおいよく飛び退いた。

 しかし逃げ場がない。

しゃぁぁあああ

 痴女は、ゆらりゆらりと寄ってくる。

 私に抱きつこうとする。

助けて!!

 私は跳びはねるように叫んだ。

 シャワールームは騒然とした。

 だけど、そんな気配がするだけで、みんなの様子は分からない。

 痴女が入口をふさいでいるからだ。

しゃわわわああっ!

 痴女が抱きついてきた。

 私は、あわてて押しのけた。

 だけど、ボディソープで滑ってしまった。

 思うように動けない。

にゃわわわわわ

 痴女が私にしがみつく。

 私の胸に、満面の笑みで頬(ほお)ずりをする。

って、ヤバイ!

 私は、痴女の首をつかみ、夢中で押しのけた。

 くちびるがふれると、痴女になってしまう。

いい加減にしてっ!

にゃははっ

 間一髪。

 私は、痴女の首を完全につかんだ。

 これで、くちびるでふれられることは避けられる。

だけど、このぬるぬる

あんぅ

 痴女は仰け反りながらも、しっかり私を捕らえている。

 伸ばした両腕が胸のあたりをまさぐっている。

 股間を突き出すようにして腰を密着させてくる。

 むっちりとした太ももが、私の太ももにからまっている。


 それが泡まみれとなった私には、ひどく気持ちよく感じられた。

 すべすべで、ぬるぬるとした、やわらかい痴女の太ももが私を快美にいざなった。

 そして困ったことに、快感にふるえる私の全身からは、力が抜けていった。

んふぅ

 私は、まるで痴女のような声をあげた。

 このまま痴女になってもいいかも――と、そう思ってしまうだけの悦楽がここにはあった。

だけどっ

 私は気力をふりしぼった。

 私が痴女になったら、いつきや小夜は、私を殺さなければならない。


 それはちょっと可哀想だな――と、私は思った。

絶対に! 私は痴女にならない!!

 私は全身全霊をあびせるようにして、痴女の首をしめた。

んっ、んんんん――――!!!!

 痴女は白目をむいて、その場に倒れた。

 しあわせそうな顔で絶命した。

ふう

 顔をあげたところに、みんながあわててやってきた。

 ショーワさんは目が逢うと、視線を下に落とした。

 胸よりも、おへそよりも、もっと下のほうを視た。

 ツバをのみこんだ。

 やがて顔を上げると、ショーワさんはスケベな笑みでこう言った。

最近の子は発育がいいのね

密着の痴女『ウィズソープ』

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