座長は宿屋のご主人のところへ
情報を仕入れにいった。
その間、私はアーシャやフロストと一緒に
荷物を部屋まで運ぶことにする。

ただし、1泊でこの町を離れる予定なので、
ほとんどは馬車に積んだままだ。


夜間は荷台全体に結界魔法をかけておいて
盗られないようにしている。

さらにサイレン(警報)のトラップなども
仕掛けてあるので、
何かがあればすぐ分かるようになっている。



――ま、売ったところで
二束三文にしかならないものばかりだし、
それでも盗られるようならその時は仕方ない。


ちなみに私のアコーディオンは高級品なので、
置き去りになんかしない。
今も部屋へ持っていくため、手に持っている。

ほかに運び出す荷物(貴重品)は
木箱ひとつ程度。
それは今、フロストに持たせている。
 
 

ミリア

それじゃ、
結界魔法をかけるわよ?

アーシャ

お願いします。

ミリア

フロスト、
もう少し馬車から離れて。

フロスト

分かった。

ミリア

よっし!

 
 
 
 
 
 
 
 

 
♪~♪♪♪~!
 

 
 
 
 
私は荷台に結界を作り出すイメージを
思い浮かべながら演奏を始めた。

コーツ村が森の中にある村ということで、
今回は組曲『大森林』の序曲を奏でている。



――私は使いたい魔法の効果さえ
強くイメージできれば、
どんな曲や音でも発動させることができる。

つまりアコーディオンでなくても、
例えば手拍子でもいいのだ。

でも宿に泊まる時はアコーディオンを
運び出すために手に持っているので、
練習もかねて演奏している。
 
 
 

フロスト

ふむ……。

ミリア

何よ? ニヤニヤしちゃってさ!
どうせ下手くそとでも
思ってるんでしょ!

アーシャ

いい演奏です。

ミリア

ありがとう、アーシャ!

 
それから程なく結界魔法が発動し始めた。
このままあと少し演奏を続ければ、
結界が完全に展開するはず。


私自身の気分も盛り上がって――
 
 
 
 
 

うるせぇっ!

 
 
 

ミリア

っ!?

 
あまりの大声にびっくりして、
思わず演奏を止めそうになってしまった。

でも結界が完成するまでは
何としても演奏を続けなければならない。
途中で音が途切れたら最初からやり直しだもん。



チラリと視線を向けると、
そこにいたのは傭兵っぽい男。
目を血走らせ、イライラしている感じだ。
 
 

傭兵

耳障りなんだよ!
さっさとやめろ、下手くそ!

ミリア

っ……!

 
――ぐっ! 悔しいっ!

でも今は我慢……。
結界が完成するまでは耐えなきゃ……。
 
 

傭兵

聞こえないのかっ!
もし演奏をやめないのなら、
痛い目に遭わせるぞっ?

ミリア

っ!?

 
男は剣に手をかけ、私に近寄ってくる。
このままじゃ、
本当に切り捨てられてしまうかもしれない。


――身の危険を感じた直後、結界が完成した。

即座に演奏を止めたけど、
傭兵は依然としてこちらへ向かってきている。
 
 

傭兵

演奏をやめるのが遅いんだよ!
気に食わねぇっ!

ミリア

演奏を再開して
攻撃魔法を発動させようにも
時間がなさ過ぎるッ!

 
 
 

フロスト

…………。

 
――その時だった。

私を庇うように、
フロストが傭兵との間に割って入った。


なんだか彼の背中が、山のように大きく見える。
それに不思議と頼もしく感じられて、
勝手に胸が熱くなってくる。
 
 

傭兵

どけ、小僧!

フロスト

僕の前から今すぐ消えろ。

傭兵

なんだとっ?

フロスト

今のミリアの演奏が下手くそだと?
バカも休み休み言え!

フロスト

表現豊かな演奏だった。
今までに何度か彼女の演奏を聴いたが、
その中で一番うまくできていた。

ミリア

っ!

フロスト

せっかく演奏を楽しんでいたのに、
邪魔をするな。

傭兵

ゴチャゴチャとうるさいガキだ!
痛い目に遭いた――

フロスト

はぁあああぁっ!

 
 
 

 
 
 
傭兵の言葉を遮り、
フロストは鞘に収めたままの剣で
不意の突きを放った。

続けざまに電光石火で打撃を繰り出していく。


両腕や両足、胸、腹――
そして最後の一撃は傭兵の眼前で寸止めする。
 
 

フロスト

――さっさと消えろ。
次はこの程度では済まさないぞ?

傭兵

ヒ……ヒィイイイィーッ!

 
威圧感を漂わせたフロストの睨みに、
傭兵は怯えながら逃げていった。

足を引きずり、
まるで命からがらといった印象だ。


その姿が見えなくなると、
フロストは私の方へ振り返る。
 
 

フロスト

とんだ災難だったね。
でも怪我がなくて良かったよ。

ミリア

あ……っ……。

 
フロストの穏やかな微笑みを見た瞬間、
胸が大きく跳ねた。


な、なんでこんな気持ちになるのよっ!?
 
 

フロスト

ミリア、アーシャ。
これ以上のトラブルに
巻き込まれないように
さっさと宿へ移動しよう。

アーシャ

そうですね。

ミリア

う、うん……。

 
私は自分自身の気持ちに戸惑いを覚えつつ、
宿の部屋へ移動するのだった……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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