ROUND8
螺旋の痴女『ポールダンサー』

 ソファーで、うとうとしていたら、突然、電気がついた。

 大音量で音楽が流れだした。

 私たちは跳ね起きた。

なに!?

タイマーよ。今は朝の9時

ん?

ショッピングモールの開店1時間前かな? とにかく自動で電気がついたのよ

この音楽も?

ええ

 ショーワさんは、テレビを視ながらそう言った。

 テレビの裏にまわり、チャンネルをいじった。

どの局もやってないわね

………………

………………

………………

ほらっ、暗い顔しないで! 顔を洗ったら屋上に行きましょう!!

 ショーワさんは、無理にはしゃいでそう言った。

 そのことで私たちは、明るさを取り戻した。

 これからもできるだけ明るく元気でいようと思った。そう心がけた。


 私たちは準備を調えると、ペンキを持って屋上にあがった。

 SOSを描くためである。――

気持ちのいい天気ねっ

えっ、うん

なによ、どうしたのよ?

いや、その

うん?

ショーワさん、なんて格好してるんですかあ

えっ? 昨日と同じ服だけど

じゃなくて、下半身

ブルマだけど?

なんかエロいです

そんなこと言ったって、ブルマは運動着よ。あなたたちだって体育の授業ではくじゃない

いやっ

 と、小夜は言って、さすがにくちびるを結んだけれど、あと言おうとした言葉は聞かなくても分かる。


 ショーワさんの時代では、ブルマは体操着だったのかもしれないけれど。

 でも、私たちの時代には、ブルマをはいているのはアニメキャラか女子バレーの選手しかいないのだ。女子バレーだってブルマをはいてるチームは少数なのである。

というか

そういう理屈はさておき

エロいですよお

 私たちは、ショーワさんのむっちむちの太ももを視ながらそう言った。

階段のぼってるときとか、ぷるんぷるんしてたし

なんか歩き方もくねくねしててエロいし

やわらかくて気持ちよさそうだし

 だらしないのがむしろエロい、そんなお尻と太ももを見上げながら、私たちは階段をのぼっていたのである。

 目のやり場に困りながら、しかし釘付けとなりながらも。

今、そんなスケベなブルマはいてるのって、エロアニメだけですよお

 私たちは非難をこめて言った。

やだっ、そんなに褒めなくてもいいのよ

 だけどショーワさんは、ものすごく喜んだ。

 エロいと言われたことが嬉しいようだった。

………………

さてと。さっそく『SOS』って描きましょうか

あっ、うん

いつき、ハケ1つちょうだい

はい。なんか学園祭みたいで楽しいね

ほんとそう

競争しよっか

いいねっ

 私たちは大いに盛り上がった。

 すぐに『SOS』ができた。

ねえ、気がついた?

えっ?

ちょっと下を見てくれる?

うわっ

痴女があふれてる

というより、痴女に囲まれてる

なんか、じわじわとこっちに来てない?

ショッピングモールに集まってるような……

 ここ自衛隊駐屯地には、大量の痴女がいた。

 明らかに昨日よりも多かった。

 よく観察してみると、正門から、わらわらとこっちに向かってくる。

 市街地から集まってきている。

………………

 私たちは、しばし言葉を失った。

なんで来るんだよお

私たちを狙ってる?

それはないわ

じゃあなんで?

さあ。音楽につられてなのか、それとも生前の記憶なのか……

 ショーワさんは、痴女の群れを見下ろしながらそう言った。


 小夜が、カバンからメモ帳を取り出した。

 熱心にページをめくりはじめた。

それは?

痴女の特徴がまとめてあるの。CIAのお姉さんからもらったんです

CIA?

ショーワさんに会う前まで、一緒にいたんです

ここまで連れてきてくれたんです

CIAの諜報員が?

他にもいます

CIAとKGBとMI6のお姉さんだよね

アメリカとロシアとイギリスの……スパイが?

うーん。よく分かんないけど、いい人たちですよ

…………

あっ、そうだ。そろそろ帰ってくるんじゃない?

無線機で呼んでみる?

いいね

 私はカバンから無線機を取り出した。

 だけど変な音がするだけで、まったく使えなかった。

おかしいなあ

ちょっと見せてくれる?

はい

機械に異常はなさそうね

 ショーワさんはそう言って、あたりを眺めた。

ああ、たぶんアレのせいよ

あの屋上ですか?

そう。あそこのアンテナに痴女がからみついている。それで電波が干渉してるのよ……たぶん

えっ? 今、『たぶん』って言いましたよね?

ううん。そんなことないわよ……きっと

『きっと』ォ!?

もう、細かい子ねえ。そんなんじゃあ、モテないわよ?

どきっ

とりあえず、あの痴女をなんとかしましょうよ

あのっ。メモに書いてあるんですけど、あの痴女は、たぶん『ポールダンサー』です

ポールダンサー?

うふぅん

ポールダンスが大好きで、棒を見るとそれに身体をこすりつけるみたい

うーん、なんかそんな感じだね

ちなみにダンス対決を挑むと、自然と身体が動くんだって

はぁ?

あはは

 私たちは笑った。

 だけどショーワさんは、ぽんと手を叩いた。

じゃあ、ダンス対決を挑みましょう。上手く誘導して、あの鉄柱を滑らせるのよ

あの、アメリカの国旗がついてる鉄柱ですか?

ええ。あそこに飛び移らせましょう

 ショーワさんはそう言って、私の背中を、ぽんと押した。

 それから痴女に向かって、缶を放り投げた。

 痴女がこっちを見た。

しゃぁぁあああ!!!!

 対決する気満々だ。

って、私ィ!?

智子、頑張って!

ファイトだよお!

あん

あっ、あん

そこの鉄柱を使うのよっ

あん

あっ、あん

あなた身体やわらかいのね

智子カッコイイ!

エロカッコイイ!

もう

あんあんあーん

あんあんあーん

あん

あーん

あっ

んんー

んっ

んんー

今よ! 助走して飛び移るフリをしてっ!!

えいっ!

にゃあ!

 痴女は、鉄柱に飛び移った。

 そして、くるくる回りながら地上に降りていった。

あっ、あぁあぁあああ――――!!!!!

あぁあああ――――!!!

あああ――――!

ほら、無線機がなおったわよ

やった!

成功だあ!

智子すごい!

痴女も屋上に戻れなくて、くやしがってるわ

あっ

ほんとだ

これで安心だね

智子のおかげだよお

そんなことないよお

 私は、まぶしい朝日の下、いきおいにまかせてポールダンスをやってしまったことには若干後悔しながらも、しかし実のところ満更でもない、誇らしげな気持ちになっていた。――

螺旋の痴女『ポールダンサー』

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