裏風紀委員会
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02.無骨堅物、女嫌い破壊神
「女」という生き物が、心底嫌いだ。
非力ながらに賢く、自分より力のある者の懐にすんなりと侵入し、たらし込み、その〝身体〟という唯一の所持物を使って色香を振りまく卑しい生き物……。
それが「女」という生き物だ、……と。
彼は解く。
袖が触れるのも、誤って接触するのも、声が聞こえるのも視界に入るのもましてやあの独特の〝臭い〟が届くのも、全てが汚らわしく感じられた。
そんな彼は、地獄の生活を耐え抜いてようやっと住みやすい〝男子校〟という居場所を手に入れた。
そこでは伸び伸びと暮らすことが出来、毎日が充実していた。
校内の雰囲気も、風紀も良く、彼はそれらの向上へ尽力し、今では二学年にして生徒会のトップを推薦される身となっている。
それなのに。
その平穏はある一人の人間により容易く壊されてしまった。
……いや、人間ではない。
ただの生き物だ。
彼はその生き物の存在が酷く気に入らず、この学校という空間から排除しようと何度も試みた。
だがその生き物の狡猾さは彼の予想を上回り、どんどん侵食を始めて行く……。
今となっては触れぬよう、関わらぬよう、こちらまで侵されないよう……自身の周りを守るので精いっぱいだ。
気に入らない……。
あんな生き物一匹ごときにこの居心地よい空間が脅かされるなど……あってはならない。
彼……綾女剛孟(あやめたけはる)は、
息苦しく、今日も深呼吸をするのだ。
せんせー! ノート持ってきましたよ~……って、何あんた達。
社(やしろ)先生と何してんのよ
何って……没収された携帯返してもらってんだよ。悪ぃーかよ
ほらほら、職員室なんだから静かにしてね……
なぁ先生~反省文書いたから返してくれよ~
もうそろそろゲームのミッション時間過ぎちゃうんだよ~なあ~
あらら、自業自得じゃない。授業中にゲームしてるからでしょ
そうだなぁ……授業中にはもうゲームしない、って約束してくれるなら返すよ
マジ!? するする!
約束くらいいくらでも……!
せんせー駄目よ! コイツら反省してない!
大丈夫だよ、僕は信じてるよ~
さっすが先生~やっさし……
約束破ったりしたら今度は宮藤(くどう)先生行きだからね
……………
社の緩い声に反応したのは、生活指導主任の宮藤教師だ。
……破りません。誓います。なので返して下さい……!
はいどーぞ
そして没収された携帯は返され、入れ違いで社は女子生徒達からノートを受け取る。
定期試験を先週に終えた為、これから待ち構えているのはノートのチェックだ。
試験の点数とノートや問題集の出来具合を見て、今年度初の成績付けをしなければならない。
窓の外では忙しく雨が降っているが、教師達もまた負けじと忙しかった。
そういえばせんせー
? どうかしました?
先程ノートを届けてくれた女子生徒が戻って来て、ドアから顔を出して来た。
今度の土日、武高(たけこう)の文化祭あるの、知ってるでしょ?
えー……あぁ、あの男子校の?
そうそう!
ねぇせんせー一緒に行かない!?
皆で行くって約束してるんだけど!
えっと、今度の土日……土日……
卓上カレンダーを確認し、携帯のスケジュールを確認すると、ピクリと微かに社の眉が動いた。
あーごめん、その日先生別件あるから駄目だ……
え~!
皆で楽しんで来てくださいよ。写真とか、お土産に
は~~~~い
女子生徒はブーブーと頬を膨らましながら職員室を去り、それを確認してから社は席を立った。
教頭先生、会議室ちょっと使っても良いでしょうか?
ん?
……こないだ言ってた探し物の件かね?
はい。まだ見つからなくて……
あ~……まぁあの会議室は確かに探せる時間も少ない……が、早くしてくださいよ。社先生
すみません……
ではちょっと、と鍵を取って真っ直ぐ〝第二会議室〟へと向かう。
学校の各会議室の鍵は一つしかなく、この鍵は持ち出し禁止とされ、他に開ける為には用務員の持つマスターキーしかない。
鍵を開けて中へ入り、また中から施錠をすると、電気のついていない薄暗い会議室に突然ひょこりと人影が現れる。
先生―! お呼びですか!?
えぇ、呼びましたよ。向陽(ひなた)さん
眼鏡は取らずにソファに腰掛けると、その向かいに向陽が座る。
というかまだ校内にいたんですね、向陽さん……。部活には入ってませんでしたよね?
先生が帰るまで家には帰りません!
部活は陸上部か球技系かでまだ迷ってて……。あ、それより、ご用は何でしょう!?
先程、社が卓上カレンダーと携帯を確認した際、
至急、第二会議室に来い
とメールを打っておいたのだが……。
“鍵も持たず”に、彼女は一体どうやってこの会議室へ入ったのだろうか。
続く...
次回更新予定日:01月31日