裏風紀委員会



02.無骨堅物、女嫌い破壊神









向陽 眞桜

よかったですね!
これで先生も過ごしやすくなりましたよね?

社 優仁

あぁ。掃除が出来て清々したさ

 社、向陽、そして高畑の三人しか知ることのない


〝空き教室の一件〟からしばらくして。



 職員室のデスクが一つ空いた。


 高畑は社に多額の金を払い、自主退職したのだ。




 その後、彼がまた別の高校で教鞭を執っているのか、はたまた全く別の道へ行ったのかは二人共知りはしない。

向陽 眞桜

では先生!
高畑先生も追い出しましたし、教えて下さい!

社 優仁

元、先生な


 職員室のちょうど真上に位置する第二会議室。


 小さな会議室だ。

 社は三人掛けのソファに腰掛けて、お気に入りのコーヒーを啜る。

社 優仁

どうしてアイツをこの学校から追い出したいか、だったか?

向陽 眞桜

はい!

社 優仁

さっきオマエが言った通りだよ

向陽 眞桜


……先生が過ごしやすく……のくだりですか?

社 優仁

そうだ



 社の身辺を(勝手に)調べ尽くし、熟知している向陽でもわからないこと。





 それは社の頭の中だ。





 趣味嗜好は見ていれば把握出来るが、何を考えているかはわからない。


社 優仁

オレはああいうセクハラ男が嫌いだ。気持ち悪いし生理的に受け付けない。あといじめっ子とかも気に入らねぇな……特に学生の。親の名前や金でデカい顔してるガキとか目障りで踏み潰したくなる。他にも上げりゃキリがねぇけど……要するに、
















 オレの目の届く範囲、
耳に聞こえる範囲で、目障りな物は片付けたい。










 これが社の言い分だ。

社 優仁

高畑は去年よりもっと前からか?
正確にはわからんがコソコソやってるのは知ってたんだ。目についてウザかった……

向陽 眞桜

そういえば他の女子も脅されて付き合ってたみたいですね……他の人に言っても信じて貰えなかったっぽくて

社 優仁

だろ?
そういう狡い奴がさぁ~……なーんか目に入ると気分悪くなるんだよな。オレに直接的な害が無かろうともムカつくんだよ

向陽 眞桜

それはいけませんね!

社 優仁

だろ?
なんつーか……風紀が乱れてる、って感じか

向陽 眞桜

でも先生。先生なら表立って組織を起こして、撲滅運動とか出来ると思うんですけど……先生のカリスマ性があれば!

社 優仁

買い被りすぎだろ

向陽 眞桜

そんなことありませんよ!
普段の眼鏡な先生も素敵ですよ?
先生は全てが素敵です!

……けど

社 優仁

あぁ、アレか。何で猫被ってるかって?

向陽 眞桜

はい


 一番わかり易い変化は眼鏡だ。



 眼鏡を掛けている時は表モードになり、物腰柔らかな温和教師になる。



 外した裏モードはご覧の通り。


社 優仁

何でって、表向きのオレ。人気だろ?

向陽 眞桜

はい!
それはもう……!
一年生の間でももう評判うなぎのぼりですよ!
先生かっこいいですから!


 ここで微塵も嫉妬しない向陽を見て、社は内心よしよしと頷いている。


社 優仁

ちやほやされると気分がいいんだよ

向陽 眞桜

なるほど

社 優仁

そんだけ

向陽 眞桜

それだけ、ですか……!






 随分と現金な男だ。





 だがそんな言葉は向陽は言いはしない。






 社優仁という人間がどんなに卑劣で、冷徹で冷血で、利己主義で排他的であっても、


 彼女にとって彼は至高の存在なのだ。



社 優仁

あぁそうそう、こんな話をする為にオマエを呼んだんじゃなかったんだ

向陽 眞桜

あ、そうですそうです!
要件はなんでしょうか!?
また何かしますか?



 わざわざ防音が備えられている第二会議室に、わざわざ昼休みに、社が彼女を呼んだのだ。




 メールをこの会議室で送ったのだが、二秒でやって来たのは流石に気持ち悪かった。



社 優仁

良いことを思い付いたんだ。これはオマエがオレを追って入学して来てくれたから思い付いたことでな……感謝してるぞ。一応な

向陽 眞桜

せっ……先生が……先生がそんな!
あたしに……!

社 優仁

で、思い付いたことはだな、こないだみたいなボランティア活動をする組織がさ。欲しいんだよ

向陽 眞桜

ボランティア部……ですか?
学校のとは別の?





 〝社の為の〟、が頭につくが。




社 優仁

名前は何でもいいんだが、とにかくオレが居心地よく過ごすための掃除屋が欲しいんだよ。
それにはとりあえず向陽、オマエも入るんだぞ

向陽 眞桜

え! 入って良いんですか!?

社 優仁

オレのことはオマエが一番知ってるだろうし、信頼も一番だろう?

向陽 眞桜

ありがとうございますー!!








 キャーッ!と悲鳴を上げるが、それをよそに社は話を続ける。




社 優仁

定員はあと……そうだな、三人は欲しいな

向陽 眞桜

人員の希望とかありますか!?
調べますか!?

社 優仁

いや、オレも一応自分で判断したいから全部しなくていい

向陽 眞桜

わかりました!

社 優仁

出来れば……まずは男手が欲しいな

向陽 眞桜

と言うと?

社 優仁

力仕事が出来て、あとオレよりも表向きなカリスマ性、それから他人からの信頼を得やすい奴が真っ先に欲しい。その方がソイツを表立ててオレが自由に動ける

向陽 眞桜

なるほど! 他の二人は?





 社の上げるリクエストを、向陽はサラサラとメモしていく。



社 優仁

後は男女どっちでもいい。ただ、
『金の融通がきく奴』と
『観察力のある、目立たない奴』が欲しい

向陽 眞桜

見当つけておきますね!

社 優仁

あぁ、あと変な奴でいいからな。普通の奴は、ついてこれねーだろうし

向陽 眞桜

最重要項目にしておきますね!

 情報源と忠実性は向陽一人で事足りる。


 後は行動範囲を広くした場合の動かせる駒が欲しかった。

 その駒との関係は何でもいい。


 金でしか動かない奴でも、コチラがある一定の条件を飲まなければならなくとも……。



 社がこの生きにくい社会で、少しでも生きやすくなれればそれでいい。



向陽 眞桜

そうだ先生!
せっかくですから、名前つけましょ。名前!

社 優仁

? 好きにしろよ

向陽 眞桜

風紀委員なんてどうですか?
この学校ないですもんね!

社 優仁

あぁ……気に入らねぇ生徒会しかいねーなぁ……。いや、でも待て

向陽 眞桜

はい?

社 優仁

風紀委員ってそのまますぎだろ。どっちかってーと……そうだな






 『裏風紀委員会』
の方が、悪の組織っぽくて良いな。



向陽 眞桜

では〝裏風紀委員会〟で!
委員集めですね!

先生は顧問で、あたしはー……

社 優仁

委員長ってたまでもねぇだろ

向陽 眞桜

じゃあ副委員長ですかね!?
次に探すのはカリスマ君ですし、彼に委員長をお願いして!

社 優仁

金の融通は会計で、残りは書記か……あぁ、ちょうどだ

向陽 眞桜

じゃあ決まりですね!
早く集まるといいなぁ~

 仲間探しの旅の始まり始まり、といった具合だろう。

 どちらかというと……魔王を倒す旅ではなく、勇者を倒す旅な気もするが。

向陽 眞桜

楽しみですね!
どんな人が入ってくれるか!

社 優仁

そうだな



 新しい仲間が増えるかもしれない。


 という喜びを噛みしめる少女は、正直な所それよりも憧れの教師の役に立てることに喜んでおり……。




 自分の為の組織が遂に出来るのか。




 と長年の願望が叶う日を掴んだ教師は、少女すら知らない胸の奥深くに沈んでいるある目的に、やっとライトが当てられそうだと。














 静かな喜びを、噛みしめていた。

01.純真可憐、ストーカー女子高生(完)

01.純真可憐、ストーカー女子高生(6)

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