その場に現れた黒服たち。
天都たちにゲームの参加者かどうかをとうこともなく、車に入るように指示をした。
秘密厳守のため、目隠し着用と言われて天都と月子は黙って従った。
多少ごねていた参加者らしき数名は、黒服が何かを見せつけると大人しくなっていた。

車内のシートに座り込み、当然のように右隣に座る月子。
続いて、何故か黒花まで寄り添うようにぴったりと距離を詰めてきた。

月子

…………

不機嫌そのもので横目で睨み付ける月子。
兄に近づく異性は全て敵、とでも認識しているような態度。

黒花

可愛らしい妹さんですね
嫉妬深いのは愛されている裏返しですよ

小声でそんな月子を可愛いと称する黒花。
これを間近で見て大概なことを抜かしているが、これがこの女の感性なのかもしれない。

エンジンに入り、動き出す乗用車。
運転席と助手席の黒服は、目隠しをするように言う。
数名怯えたようにしたがい、天都たちは黙って目を覆う。

視界が闇に包まれる。
そのまま深くシートに寄りかかり、移動を始めた乗用車に揺られていると、次第に微睡みが襲ってきた。
そういえば、昨晩は寝ていない。
今では幼馴染となった親友を誤魔化して逃げ出すのに必死で、一睡もできずにいたんだった。
思い出す頃には、隣に重さを感じる。
きっと、月子も眠ろうとして凭れてきているのだろう。

天都はそのまま、心地よい微睡みの中に沈んでいった……。

ああ、これは夢だ。
そう、天都は自覚をもった。
過ぎ去りし日々の一頁を久々にまくっている。
中学までは同じで、今では違う高校に通い、時々遊んでいる親友が珍しく深刻な顔をして学校帰りにわざわざ待っていたことがあった。

何かと思えば、その親友――光野時雨(こうのしぐれ)は眼鏡を直しながら言うのだ。
あの関係をいつまで続けているのだ……と。

時雨

天都
お前は……何時まで、あの子を甘やかしておくつもりだ?

天都

ンだよ、時雨
藪から棒に

ブランコに座って、互いにもそもそとコンビニで買ったパンを食べながら喋る。
高校が違っても、こうして会っているのは仲が本当にいいからだ、と天都は思っている。
それは、あんなことがあってもまだ思える。

時雨

俺は、軽はずみな感情でお前の家庭の事にああだこうだと口をはさむつもりはない、と先んじて言っておくつもり
これは真剣に思うんだ

そう前置きを置いた時雨は、コロッケパンをお茶で流し込みながら言う。

時雨

お前と月子さんは仲、いいだろ?
何ていうか……互いを支え合っているって感じで

天都

まぁな
俺がいねえとあいつ、本当にダメな奴だからさ

そう天都が苦笑混じりに言うと、時雨は真面目に言う。

時雨

そう!
お前のそこが心配なんだ、俺は

時雨はくいっと眼鏡を直しながら続ける。

時雨

天都……正直に答えてくれ
お前、月子さんを自分に押さえつけるために自分を犠牲にする気だろ?

そう時雨が切り出したとき、天都は自分がどんな顔をしているか、想像が容易についた。
怒りとも違う、微妙な顔をしているだろうと。

時雨

いい加減付き合い長いんだ
俺だってそのぐらい分かるさ
月子さんは異常だ
異常なほど、お前に執着してる

時雨

過去に何があったのかは知らないけど……想像はつくぜ
お前、ガキの頃に一緒に入院していたんだろ?
多分、その頃からじゃないか
お前以外を頼らなくなったのは

時雨

あれは執着か、妄執と言っていいな
まともな感情じゃない
他人に向けたら最後、どうなるかはお前なら分かってくれるだろ
だからって、自分を犠牲にすることはないぜ
俺も、出来る限りのことはするからよ
いい加減、溜まってるもん吐いちまえ
俺を頼れよ、天都
俺はお前のコト、ガチの親友だって思ってるんだぜ?

時雨は、天都の肩に手を置いて言う。
それまで妹のことをひた隠しにしてきた天都は、容易に見抜いていた完璧超人の眼鏡の顔を見ると、肩から力が抜けたようにうなだれる。
その頃、月子の扱いに手を焼いていた天都は、相談できる相手がいなくて参っていたのだ。

天都

……流石は俺の親友だぜ
全部お見通しってか……
本当に地球人か?

時雨

うるせえな、俺ぁ人間だ
そもそもが、親友が困ってるのを見捨てるほど、俺は薄情じゃねえよ
俺が一緒にお前の重荷、背負ってやるよ
親友ってのは、そういうもんだろ?

親友である時雨の知的に光る眼鏡に爽やかな笑み。
さも当然であるかのような言葉。
その時心底、天都は時雨という男に感謝した。
この男、本気でこっちの問題に足を突っ込んで助けてくれるつもりでいるとしれて、同時に泣きたくなった。

天都

……わりーな、時雨
月子の為に、お前まで……

時雨

気にすんな俺のベストフレンド
俺だってお前のこと心配してるんだから
さぁ
お前のぐちゃぐちゃ、全部吐いてくれ
俺が全部聞いて一緒に何とかするぜ

懐かしい。
あの時、時雨が言い出してくれていなければ、月子のことで天都は潰れてしまったかもしれなかった。
もう一人の親友共々、助けてくれて本当にありがたいと思ったものだ。

そんな懐かしい気分に浸りながら、天都の意識は徐々に覚醒していくのだった……。

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