きっと、今日で全てが決まる。
いや、絶対に決めるであろう。
彼女が。
きっと、今日で全てが決まる。
いや、絶対に決めるであろう。
彼女が。
今日で……すべての決着をつけるわ
残った全てのグレー……役職不明の人間を暴く
そう切り出した速水。
昨晩、睨み合う私達に届いた通知。
死亡者が出たとのこと。
殺したのは、私たちじゃない。
あれは、同時に二人のグレーが白である証拠だった。
私は既に黒の……たった一人の狼の目星がついているつもりよ
昨晩……あの人を殺したのはそいつ
全員のグレーが晴れた今、残された人物はたった一人だけだ。
この場にいない人物を殺したのは、ヤツだ。
この状況で人を殺そうなんて思った狼の心境は理解できないけど……
まあ、それは置いておこうと思うわ
私が昨晩調べたのはあや……私の連れよ
彼女が村人だったわ
文月の数字は8。彼女は村人。
ほっと胸をなで下ろす文月を盗み見る。
残されたグレーは私含めて、数人しかいない。
数名の生き残った参加者は、固唾を呑んで彼女が支配する言葉を待つ。
今、村人の命運を握っているのは、占い師の速水。
そういう手はずで、昨晩ぶうぶう文句を言う如月と苛立つばからいを宥めて決めているのだ。
この後、どういう展開になるかも把握済みだ。
もう後先考える必要はないわ
残った役職不明は三人だしね
三人。
それは、私、ばからい、そして……あの人。
役職を明かす、その方法は禁じ手を使うことだった。
もう時間をかけてる余裕はないの
ルール違反で一斉に役職を明かしましょう
一度のルール違反ならまだ死なずに済むわ
彼女はそう私達に告げた。
ここまで事態が進んでしまえば、どの道リスクを踏まなければ先にはいけない。
話し合いの中で使う違反という行為。
危険を冒してでも時短をして、一気に追い詰める。
一致団結して狼を追放するという、最初で最後の話し合いで、この方法しか残されていない。
『無効化』をもつ如月はいいが、他の奪われた山風や私達は、『支配者』を使われたら最後、勝ち目なくその場で死ぬ可能性だってあるのだ。
私は肩を竦めてまっ先に口を開く。
まあ、いいよ
私は村人だしね、別に問題ないし
結局、この方法でしか真実は見えないということか
いいだろう
俺も占い師の提案に従おう
ばからい……じゃない、半井と私は了承した。
残った一人は、沈黙を保っている。
自然と、視線が一点に集まった。
その人物が……。
…………
4番、武田達也。
彼だけは、何も言わない。
同時にこの場にいないのは、5番……御手洗小百合。
彼女が昨晩、狼の犠牲になった死亡者だった。
誰も死体の確認はしていないが、通知で確実に死んでいると判明していた。
そしてここにいないとなれば……そういうことなのだろう。
方法はシンプルよ
三人でそれぞれ取り敢えず、素手で蹴るなり殴るなりするの、互いを
死なない程度に加減はしてね、特に半井さんは
これで、全員が平等にルール違反になって、役職が明かされる。
これなら最初からそうやっていればいいと思うかもしれない。
だがこちらにも開示のリスクがつく以上、良く知りもしない相手と一緒になってやろうとは思えない。
狼には集団戦に向いている何かが必ずあるのだから。
バレた瞬間切り札を使われて全滅、狼の勝ちになんてなったら洒落にならない。
子供でも分かる理屈だ。
…………
相変わらず、武田さんは何も言わない。
何とも言えない顔で、俯いている。
どうしたの、武田さん
二人の了承は取ったわ
何か言ってくれないと、こちらもどうすればいいのかわからないのだけど
追い打ちをかける速水。
ここで万が一、『支配者』を使われた時用に、彼女が構えている。
こっちの準備は万端ですよ
目線でそう語る如月は、楽しそうに、ワクワクした表情で武田さんを見ている。
あいつ……この緊迫した状況を楽しんでいる。
とことん狂っていると思う。
私も人のこと言えないけど。
睨み付ける速水。
怯える山風、文月。
冷静に見ている半井と姉貴。
愉しそうな如月。
そして、私。
黙る武田さん。
万全の状態で、彼を……武田さんを確実に追い詰めていく。
彼は黙り続けていたが……やがて顔をゆっくりと上げて、口を開いた。
……なぁ、進行役の嬢ちゃん
ルール上、自分から役職を白状しても別に構わないんだよな?
……思いがけない言葉がでてきた。
素っ頓狂な内容だった。
ほうける私。
は、白状?
えっ、まさか認めるつもりか?
もう少しこう、抵抗したりごねたりしないの?
……まあ、このゲームで自白はする馬鹿いないけど、認められてはいるよ?
私は呆気にとられながら代理として言う。
彼は、救われたような表情で、溜息をついた。
そうか……それ聞いて安心したわ
なら、俺はバカでいいぜ
どの道こんなことしてる時点で取り返しのつかねえ大馬鹿野郎だからな……
自嘲するように呟いた彼は、大きく息を吸い込んで、私達を一瞥して、またうつむく。
近くにいた私にしか聞こえないような声で、小さく嗤う。
…………漸く終わったぜ…………
長かったな……ここまで……
顔を上げたとき、弱さはなかった。
そこには覚悟を決めた男がいた。
そうして。
彼は、告げた。
真実を。
ルール違反する必要はねえよ
俺がこの中で唯一の『人狼』だ
堂賀を殺したのも、俺だからな
降参するぜ
これ以上はこっちもたまらねえ