私たちは、ショッピングモール内にあるフードコートに戻った。

 途中、食料品店で食べ物を手に入れた。

 フードコートのテレビには、ノイズが流れているだけだった。

ROUND7
淫夢の痴女『ドリームシアター』

放送終了したのかな?

もうそんな時間?

まだ9時くらいでしょ?

別の局に換えてみよっか

 痴女さんはそう言って、テレビの裏にまわった。

 チャンネルをいじった。


 ひとつだけ放送している局があった。

 それは自衛隊のインタビューだった。

なにか市民に伝えたいことはありますか?

現在は、旅客機、鉄道、バス、船舶……すべての交通機関がストップしています。ですから、家から出ないでください。我々が救出に向かいます

体育館などの避難所にいても良いですか?

もちろんです。ただ、これから避難所に向かうのは止めてください。我々は、全力で事態の収拾にあたってます。どうか我々を信じてください。必ずこの非常事態を沈静化させます。安全を取り戻してみせます

………………

それまでは心を強く持って、困難にたえてください

ありがとうございました。以上、自衛隊からのお知らせでした。なお、この録画は繰り返して放送しています。新しい情報が入り次第、すみやかにお伝えします

………………

………………

………………

…………あの

うん?

この後のことは?

なんにも考えてないわよ

このモールを完全に封鎖したいんです。他所から痴女が入ってこれないように

うん、いいと思うわよ

 痴女さんは、あまり興味がないって感じでうなずいた。

……それと屋上に『SOS』って書くのはどうですか?

………………

自衛隊は『救出に来る』って言ってました。私たちがここにいることを知らせたらいいんじゃないかって思うんです

いいわねっ!

 痴女さんは、身を乗り出してそう言った。

 みるみる顔色が明るくなった。

 というより、よだれが垂れていた。

ペンキは工具店にあるわねっ。それから化粧品は……

化粧品?

だって男の人が来るんでしょう?

いや、まだ来ると決まったわけでは

ああん、シャワーとかないかしら。それと香水、ヘアカットもしたいわあ

ダメだ、この人。聞こえてないよお

 いつきが穏やかな笑みでそう言った。

 私たちも笑った。


 痴女さんは、夢見るような顔で店内地図を見ていた。

 そわそわしていた。

 なんだか微笑ましくて可愛らしかった。

ちょっと店内を巡回してくるわねっ。ついでに痴女を完全に排除してくるわ

えっ、うん

屋上のSOSは明日っ、晴れてたらにしましょ

うん

念のため、フードコートのシャッターを下ろしておくわよ

あっ、あの痴女さん

ん?

ありがとうございます

えへへ。どういたしまして

あっ、あの、お名前は?

 私は今更だけど、思い切って訊いてみた。

 すると痴女さんは、首をかしげた。

 それから少し考えて、ぼそりとこう言った。

ショーワ。ショーワで良いわよ

 明らかに偽名である。

 だけどツッコミを入れにくい雰囲気だった。

私は立花智子

武藤小夜

川上いつきです

よろしくね

 痴女さんは、大らかに手を振った。

 それから店内を見まわりに行った。――

 3人になったら、疲れがドッと出た。

 私たちは、ソファーに寝転がった。

なんか眠くなっちゃった

今日、大変だったもんね

ずっと走ってたような気がするよお

ねえ、それってショーツ?

うん。パンツの上にショーツをはいてるの

いいね、私もマネしよっかな

私も

なんか修学旅行みたいで楽しいね

うん、なんだか楽しくなってきた

そうだよ、楽しまなきゃ損だよ

 言葉にすると妙な実感がわいてきた。

 変なため息が出た。

……元気出さないとね

うん

うん

あっ、電気が消えた

店内全部!?

痴女さんかな?

疲れてるでしょ? 電気切ったから先に休んでて

あっ、痴女さんだ。というか、ショーワさん

もう、ショーワって、どこの国の人だよお

ほんとにね

 私たちはカバンを抱いて、クスクス笑った。

 ソファーの上で手足を投げ出した。

 天井を見た。

寝よっか

うん

おやすみ

 私は目を閉じた。

 その瞬間、ずうーんと深くソファーに沈みこんだ。

 あっという間に眠りについたのだ……――。

あれ? ここは?

うふふ、いらっしゃい

えっ?

ここは淫夢。夢の世界よ

ん? インム?

察しの悪い子ね。あなたは淫らな夢を見たの。だからここにいるのよ

……あなたは?

私はドリームシアター。欲求不満な殿方を夢の世界に引きずりこむの

私、女ですけど

……不本意だけど仕方ないわね

 痴女のテンションが露骨にさがった。

でもまあ、私は両方イケるから。あなたカワイイしね

 だけど困ったことに、すぐに持ち直した。

あの、帰りたいんですけど

ダメよ。あなたは私に捕らえられてるの

これからどうなるんですか?

ぎゅぅううって抱きしめてあげる。気持ちいいところを気持ちよくしてあげる。愛でてあげる。それからくちびるを重ねて、じっくりとあなたの気力体力なにからなにまでしぼりとってあげる

ッ!

今日は、たくさんの痴女を視てきたわね? うふふ、彼女たちの痴態があなたの頭にこびりついてる。それが私にはよく分かる

………………

あなたは嫌がっていたけれど、本当は楽しかったんでしょう? 本能のおもむくまま、奔放にふるまう彼女たちが、本当はうらやましかったんでしょう?

そんなっ

うふふ、ここは夢のなか。あなたと私以外だれもいないのよ。だからウソをつかなくてもいいわ。そう。本音と建て前なんて、意味のない世界だもの。素直になりなさい。『私も痴女になりたい』ってね

違うっ!

 私は跳びはねるように言った。

 なぜ、ここまでムキになるのかは自分でもよく分からなかった。

まあ、そうやって意地を張っても私は構わないわよ? あなたが自分の心に正直になるまで待つだけだから

待つ?

………………

もしかして、私を襲うにはなにか条件があるとか!?

ぎくっ

あっ、図星だ。ということは、ここから脱出するのもなにか条件があるの?

……さっ、さあ?

 痴女は分かりやすく動揺した。

 私は、じいぃーっと見つめた。

 すると痴女は、ぽつりぽつりと話しはじめた。

ここは夢の世界、精神がもっとも無防備になる世界。だから心を開くことがなによりも重要、ウソをつくことが大きなペナルティとなる世界なの

だから、あなたはウソがつけない

ウソをつかないことを条件に、私は強大な力を手にしたの

夢から覚める条件は?

……魂の解放。我慢してることをひとつ解き放つのよ

我慢してること?

教えてあげよっか?

いやっ

 自分で考えたい。


 私は、胸に手をあてた。

 それから大きく息を吐いた。

 自分の心に素直になった。

 そんな私の頭に浮かんだのは、それは活き活きしたショーワさんの笑顔だった。

そうか。私はショーワさんに反発していたけど、本当は、うらやましかったんだ。エッチな言葉を平然と口にする彼女が、私は実はうらやましかったんだ

正解

ということは

後は分かるわね

 痴女は、すこし悔しそうな顔でそう言った。

 私は、うなずいた。

 大きく息を吸った。

 それから大きな声で、前から言ってみたかったことを叫んでみた。

おっぱい!

 こんなことを大きな声で言うのは、初めてだった。

 ひどく気持ちよかった。

 私はさらに言った。

お尻!

 やっぱり気持ちよかった。

 私の心に涼やかな風がながれた。

ちっ、胸の先っちょ。ふともも。あそこ。あそこの前のほう。うなじ。わきのした。にのうで!

あら、女の子のことばかり?

おっ、男の子のあっ、あそっ、あそっ

おち○ぽ?

そう! おち○ぽ!!

 私は取り返しのつかないことを口にした。

 だけどその後悔の大きさと同じくらい、いやそれ以上の快感が全身に走った。

 私は快美に酔いしれた。

 そして夢中になって叫んだ。

 次々と叫んだ。

 叫びまくった。

 ひどく楽しかった。

ねえ、あなた好きな人いる?

いないよお

好きな人ができたら、その人のおち○ぽ見てみたい?

うん

えっ? 今なんて?

おち○ぽ見てみたい!

その人が好きなら、その人のおち○ぽも好き?

うん

えっ? 今なんて?

おち○ぽ大好き!

 きっぱりと、私は言った。

 すると痴女は、満ち足りた笑みをした。

 そして、すうぅーっと消え去った。

 その去り際に痴女は、

またね

 と、たぶん言っていた。

 ――……目が覚めた。

 寝返りをうつと、いつきと小夜が私の顔を覗きこんでいた。

大丈夫?

え?

うなされてたよ?

あっ、もしかして寝言とか言ってた?

 いつきと小夜はスケベな笑みをした。

 それから懸命に笑いをこらえながらこう言った。

ショーワさんみたいなこと言いまくってた

言いまくりだよお

………………

でもね、安心した

智子も同じこと考えてるんだってね

……うん

 その後、私たちは朝まで語りあかした。

 今まで、しゃべらなかったことをいっぱい話した。

 そうやって私たちは友情を深めあうのだった。――

淫夢の痴女『ドリームシアター』

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