イマジナリー・フレンドよっ

 唐突に、痴女さんがバナナをくわえながら言った。

イマジナリー・フレンド?

『空想上の友だち』のこと。空想のなかだけに存在する人物で、空想した人と会話をしたりするのよ

あー

目に映ることもあるのよ。空想した人と一緒に遊んだりするの

遊ぶ?

アメリカでは多くの児童が、このイマジナリー・フレンドを持つらしいのよ。ただまあ、成長する過程で自然に消滅するらしいけどね

あの、それが何か?

ワタシも持つことにしたの。『イマジナリー・おち○ぽ』をっ!

こらっ

だって、『おち○ぽ』のない世界なんて考えられないわ

………………

じぃー

ちょっと、なに視てるんですかぁ?

今、あなたの下腹部に『イマジナリー・おち○ぽ』をイメージしているのっ

やめてくださいっ

いいじゃない、減るもんじゃないし

ダメです!

むしろ増えるくらいよ

増えませんっ

 人の身体に、勝手に器官を追加しないでほしい。

 というより、なんて発想をするんだこの痴女は。

ねえ、スカートのポケットにバナナを入れてくれない?

えっ? って勝手に入れないでください

こうやってポケットのなかのバナナをにぎにぎしていると、イメージがだんだんと具体的になってくるわ

ほんと止めてっ!

えへへ。そんなこと言っても体は正直よ

はあ?

こんなに硬くなっちゃってえ

それバナナです!

バナナみたいに大きくなっちゃってえ

もう!

 私は一心に振りはらった。

 すると痴女さんは、ちょこんと舌を出して、ごめんねと言った。

あはは

結構ウマがあうんでしょ?

もう、ひとごとだと思ってえ

 私はそう言って、ひとり歩を進めた。

 小走りで向かった先には、フードコートがあった。

 なにげなくテレビを観た。

みなさん、通常の放送は不可能な状況です。『こしのくに市』だけの問題ではないのです……。当放送局は、神父さまのお言葉をお伝えする以外にはもう、できることはありません

………………

神が我々を裁いておられる。我々の信仰が今、試されているのです

………………

地獄が多くの死者であふれたとき、地上のすべてが痴女になるのです

わけ分かんないよ

 私がぼそりと、つぶやくと。

 痴女さんは、やさしくこう言った。

痴女になった人はね、その時点ですでに死んでいるのよ

え?

アナフィラキシー・ショックに似てるのかな? とにかく痴女の唾液や体液にふれた者は、ショック死するの。そして一度死んでから痴女になるのよ

それじゃあ……

痴女になったら元には戻れない。これは、くつがえることのない絶対のルール

でも……

そのうち分かるわよ

 痴女さんはそう言って、さびしげにまつ毛をふせた。

………いつき

智子……

うん……

……うん

あのっ……

 私といつきは、3人の痴女のことを話した。

 すると痴女さんは、母性に満ちた笑みでこう言った。

いい機会だから、一緒に来なさい

えっ

はい

あなたも

あっ、うん

 私たちは、3人の痴女のところに向かった。

 くくりつけた柱のところに戻ると、そこは――。

 おもてを背けずにはいられない凄惨淫虐の光景だった。

うふぅん

 3人の痴女は、交尾期の野獣のようにたかぶっていた。

あふぅん

 みだれる髪を引っつかんで、ひとりの痴女が、もうひとりの痴女の、あえぐくちびるに吸いついている。

らめえぇ

 そのはちきれるような乳房をもみねじっている。

いやあぁん

 そして痴女はその肩を脱臼させながらも、変な方向に曲がった腕で、もうひとりの痴女の真っ白なお腹をなでまわしている。腕ごと突っこんでいる。

んんっ、んんん――――!!!!

 痴女たちは、己の肉体を破壊しながらも、快美におぼれていた。

欲求に際限がないのよ

………………

痴女は、男を求めながらもこの世から男を消し去る、悲しい生き物なの

じゃあどうすれば……

供養してあげなさい

え?

この娘たちの欲求を満たしてあげるの。その後で殺してあげるのよ

殺してあげるって……

ボロボロと肉体が朽ち果てていくより、しあわせよ

 と、痴女さんは言う。

 力なく、神妙な顔をして。

………………

 私は、その真剣な眼差しに心を打たれた。


 おかしなことばかり言うけれど、やっぱりオトナなんだ。

 ああ見えて、しっかりした人なんだ。


 私は心からそう思った。

 そう。私はこのとき、痴女さんを心の底から尊敬した。


 ――のだけれども。

 しかし、この後が最低だった。

さあ、バナナを舐めさせるわよ!

はい?

股間にバナナを付けて、腰に手をあてて胸を張って、さあ!

……?

ほら、3人いるんだから、あなたたちも彼女たちに舐めさせて!

うーん

ぺちゃぺちゃ

うふふ、3人仲良く舐めちゃって。もう可愛いわねっ

じゅぽっ

ほらっ、ひとり1本ずつよ

きゅるるんんん

 痴女がひとり、上目づかいで私を見た。

 這いよってきた。

っ!

 私は、とっさにバナナを腰に突き立てた。

 痴女さんそっくりのポーズをとった。

 すると――。

じゅぽっ

 ひとりの痴女が、私の股間のバナナをくわえこんだ。

 そのとき、私と痴女の目と目があった。

ひゃう

 痴女が、びっくりして飛び退いた。

 二度三度大きな息をした。

 その美しいくちびるの奥に、ひきつけるように動いた舌まで見えた。

………………

………………

 私は、このときほど淫猥な女の子の顔を見たことがない。

……いいよ

ちゅっ

 痴女は、満面の笑みでバナナにキスをした。

 瞳が黒いガラスみたいに見開かれて、バナナの先っちょに注がれた。

 それから私の機嫌をうかがうように、痴女は上目づかいで私を見上げた。

ああっ

 その刹那の恍惚感。

 まるで下腹部から英雄交響曲が鳴り響いてくるような――私はとめどない悦楽に襲われた。

じゅぽぽっ

 痴女は夢中でむしゃぶりついた。

んんっ

 のどのつまったような声で私は叫んだ。

ッ!

ッ!!

 やがて、ふたりの口から名状しがたい叫びがもれた。

 そして――。

ごめんね

きゅん

 私は痴女をやっつけた。

 痴女は、しあわせそうな顔で絶命した。

………………

 私は大きく息を吐いた。

 すると、いつきと目があった。

……うん

 いつきも痴女を倒していた。

 思いやりのある、いつものやさしい笑顔で、いつきは痴女の冥福を祈った。


 で。


 その奥では、痴女さんが小夜の股間のバナナを舐めていた。

もう! 何やってるんですかあ!!

なにって、やっぱり舐めさせるより、舐めるほうが楽しいじゃない

小夜も何やってんのよお

だってえ

あなたは舐めるのが好き? それとも舐めさせるほう?

もう、ふざけないでください

えへへ

 痴女さんは、首をかしげて可愛らしく媚びた。

 なんとなく許せてしまう笑顔なのが、余計に腹立たしい。

さて、3人目は倒しておいたわよ。戻りましょうか

えっ、うん

食料品店に寄っていく?

 なんというか気持ちの切りかえの早い、痴女さんなのだった。――

ライト・オブ・パッセージ

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