さすが紬ちゃん、わたしが発した言葉もちゃんと聞き取って覚えている。
ぜんぜんわからなかったよ~
明らかに舞が悪いから、仕方ないんじゃない
でもでも、宿題増やすなんてあんまりだよ~。
今日は見たい生放送があるのに~
その反省か、重隅(じゅうすみ)先生の授業は誉められたから良かったじゃない
誉められたのに宿題増やされたのはなんで!?
いや~、愛されてるね舞。
踊らにゃ損ってことじゃないの
踊るなら楽しい時間がいいよ、勉強やだよー!
……で、マコトくんって誰?
さすが紬ちゃん、わたしが発した言葉もちゃんと聞き取って覚えている。
……わかんない
でも、ただ書かれていた単語を叫んだだけだから、そう言うしかない。
そもそも、なんで突然あんなこと言い出したのさ
わかんない……
現(うつつ)さんの教科書に、なにか書いてあったの?
……
図星か。
まぁ、現(うつつ)さん、モテそうだもんね
そんなこと、ないよ!
想わず絶叫してみるけれど、言ってから、またストンと心が落ち込む。
そうなの?
……そんなこと、あるよ
すねたような言い方になってしまった。紬ちゃんのせいじゃないのに。
ごめんね。
ちょっと言い過ぎたかも
眼鏡を直しながら、いつもより優しい声。
いいよ。
でも、わかんない。
マコトくんの意味も、どんな意味なのか
……聞いてみるの?
気だるげに首を振って、聞けないよ、と答える。
なんか、勝手に盗み見たみたいで……イヤだから
そっか。
そうだね、現(うつつ)さんが言い出すまで、待っていた方がいいかもね
確かに、マコトくんのことを知るためには、そうするのが一番いいのかも。
うぅん、でも気になる~
頭を切り替えるのがいいんじゃない?
お出かけの日、来週なんでしょ
うん。
そうだ、もうすぐなんだ……
さすが紬ちゃん、わたしのことを良くわかってくれている。
マコトくんのことはひとまず置いておいて、楽しみにしていたお出かけに頭を切り替えなきゃ。
だったら、顔を治さなきゃ。
そんな仏頂面してたら、現(うつつ)さん、心配しちゃうよ
そうだね。
ありがとう、紬ちゃん
高校からの付き合いである紬ちゃんは、理愛ちゃんと違う視線で、わたしをよく見てくれている。
その優しさや友情に、わたしは甘えっぱなしだ。
たまにほめると顔を赤くする彼女は、とてもカワイイと想う。
教科書返してくるね
いってらっしゃい。
足下と人と事故と天災には気をつけて
すぐそこだよ!?
でも、ありがとう
……んっ
小さく頷(うなず)いて、紬ちゃんは軽く片手をあげて答えてくれる。
それを見て、わたしは軽快な足取りで教室から出た。
――少しだけ、教科書のことは、気になるけれど。
(楽しいことを考えて、がんばろう!)
教科書を胸に抱いて、わたしは理愛ちゃんの教室へと歩き出した。