理愛ちゃん理愛ちゃん!

ま、舞ちゃん!?
どうしたの、急に教室へ入ってきて

教科書貸して!

は、はい?

重なってなかったらでいいから。
お願い!

そ、そう……わたしは、大丈夫だけれど

 どの教科書かしら、と理愛ちゃんが聞いてくれる。
 必要な教科書を言うと、理愛ちゃんは今日の時間割を見て確認する。

だ、大丈夫かな?

 理愛ちゃんは微笑を浮かべ、教科書を差し出してくれた。

突然のことでビックリしたけれど、大丈夫よ。
ちゃんと勉強しなきゃ、ダメだけれどね

うん! 理愛ちゃんの教科書なら、頑張れるよ

自分の教科書でも頑張らないと……

 苦笑いする理愛ちゃんから教科書を受け取り、わたしはパラパラと教科書を見る。

すっごい、書き込みがいっぱいある!

重要なポイントとか、テストで出やすい部分とか、見にくくない程度にはチェックしてるの。
復習する時に便利だからね

さすが理愛ちゃん、ステキだよ!

そんな……あっ!?

 ほめたと同時に、理愛ちゃんは驚いたような声を上げる。

ど、どうしたの理愛ちゃん

 驚きの声が珍しいのか、周囲の視線がわたし達に集まっている。

う、ううん。
なんでもないわ

(あ、明らかになにかあるよ~)

 こんなに動揺した理愛ちゃんを見るのは、わたしでも久しぶりだ。
 周囲の視線が痛い。なんだか申し訳なくって、わたしは受け取った教科書を理愛ちゃんへ差し出す。

あの、やっぱり借りない方がいいのかな……?

大丈夫。
ごめんなさい、変な声を出しちゃって

でも

やり忘れてた仕事を想い出してて。
大丈夫、ちゃんと舞ちゃんが今日の授業の分に集中してくれれば、大丈夫だから

 そう言って理愛ちゃんは、わたしへ教科書をちゃんと貸してくれた。
 さっきの様子は気になったけれど、理愛ちゃんはもう受け取ってくれる気配はないみたい。
 なら、少しでも期待に応えないと――!

うん!
ありがとう、理愛ちゃん

本当、今日の授業範囲に集中するよう、お願いね……

も、もちろん、そうするよ!
終わったら、返しにくるから

 理愛ちゃんの教科書を持ちながら、わたしは軽快に教室へと足を踏み出す。
 その帰り道、まずは注意すべきことをしっかりと想いだして、誓うことにした。

(まずは寝ないようにだね!)

 とっても大切!

……であるからして、ここに式を当てはめれば……

 わたしは理愛ちゃんの言うとおり、今日の授業に集中する。

 集中……集める……一点……見つめて……。

(……ぜんぜんわかんないよー!)

 今までの勉強も飛び飛びなのだ、いきなり今日の授業を集中したところで追いつけるはずもない。
 なので、わたしはパラパラとページをめくり、少し前の部分へと教科書を戻す。

 始めに戻れば初心者用、漫画みたいな導入部分があるはずだ!

(……やっぱりわからない!)

 もしかしてわたしがこの高校に入学できたのって奇跡なのかな? それとも、理愛ちゃんだけ別の教科書使ってるの? なんてことを想うけれど、隣の添石さんも同じ教科書だからそれはなかった。
 わからないなりに理解しようと、ページをめくる。

(……あれ?)

 途中で、わたしはあるメモに気をとられる。
 それは、他のチェック的なメモとは違う、変な文だった。
 そしてその文は、意味がわからないけれど……わたしの胸をざわつかせるような単語が、入っていたのだ。

え、なにこれ

[*月/*日 - マコトくんしか見えない]

[*月/*日 - ステキなマコトくん]

[*月/*日 - マコトくんと熱い一時を]

マコトくんって誰!?

 ばん! と机を両手で叩きながら、絶叫してしまう。

ばっ……!

あ……

 後ろで紬ちゃんが呟いたのが聞こえ、わたしの頭も冷静になったけれど、もうどうしようもない。
 鋭い眼鏡の奥で、鬼割(おにわり)先生の瞳がすっと縮まっている。
 その視線が向けられている先は、間違えようがない。授業の最中に机を叩いて絶叫する、おかしなおかしなわたし以外にありえない。

マコトくん……?

えっ……っと……ですね

 無理矢理に笑顔を作り、鬼割(おにわり)先生へ微笑みを返す。

(笑顔を向ければ、相手も笑顔になってくれるはず♪)

……

 口元が逆三角になりました。
 作戦は失敗であります。

マコトにスバラシイ授業であります、鬼割先生!

本当に立派な授業態度だな、璃鳴地(りなじ)

はい、イエッサー!

では、黒板にてこの数式の答えを書け。
書けない場合は、この部分を含めた追加の宿題を出すことにする

ひどい、問題が読めないのもわかっててそんなことを言うなんて!

ひどいのはどっちだ!
さぁ、早く前に出てくるんだ

読めないって言ってるのに~

……先生、そこまで授業無視されるのも、辛いんだぞ

うぅぅ……

 黒板の前で、あらためて

わかりません……

 と言うと、ようやく席に戻ることができた。
 授業の終わり、追加の宿題を後で取りにくるようにと、先生から言われた。

……寝なかったから、ちょっと改善してませんか?

授業妨害で帳消しだ

うぅぅ……

 机へ横になりながら、悩ましい声を上げてみる。
 もう遅いけれど、やり場のない気持ちをちょっとでも出してみたい。
 でも、そんなことをしていたら、すぐに次の授業が始まる。

 ――そんなこんなで午前中の授業も終わり、昼休みになった。

理愛ちゃんが足りない! - 05

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