ゴルゴンゾーラ
ゴルゴンゾーラ
世界三大ブルーチーズの一つ。カードと青カビを重ねたもので独特な刺激臭がする。あまりに臭いのでピザの際にはハチミツをかけて甘さと塩気を絡めて楽しむ場合が多い。
愛すべきバカたちを描こうってことになってあの写真は始まったんだ。だからスタッフ全員が俺の地元にはこんな奴がいた。あんな奴がいたってエピソードを出し合ってホンの構想が出来上がっていったんだ
ゴルゴンゾーラ監督は彼が初めて
助監督をした90年代の
某大ヒット映画の制作秘話を
こう語ってくれた。
因みに彼のいう
❝写真❞
というのは大本編の映画を
❝ホン❞
というのは脚本の事をさす。
てやんでえバァロウ!ちょいと急に出てきてごめんよぅ!
映画の古き良き時代を知る人の
いわば江戸っ子口調である。
ゴルゴンさんと知り合ったのは
自分が26の時に脱サラして入学した
都内の映画専門学校だった。
演出の授業で臨時講師だった
ゴルゴンさんは授業の後に
何故か自分だけをお茶に誘ってくれた。
恐る恐る自分の短編脚本を
パラパラと読み終えた後の第一声が
セリフの返事で『あっそう』は無いだろう。
それとこのホンには事件が無いな。
これだと冒頭で主人公のビルにトラックが突っ込むくらいの事をしてくれないととてもじゃないけど先を読めないよ
…あっそう
ショックと軽い絶望をしている
自分を悟ってか
ゴルゴン監督は急に話を変えるように
両手の親指と人差し指で長方形を作り
窓の外の景色を眺めながら
こう言った。
映画やるなら身の回りのこと何でも画に当てはめて見なくちゃいけないよ
ここでいう❝画❞とはもちろん
映画スクリーンの事をいっている。
ゴルゴン監督は
〈映画 鬼軍曹〉
でググると
彼の本名が出てくるくらい有名な
助監督キャリアを持つ映画業界人である。
彼のシゴキ・かわいがりによって
錚々たる有名映画監督が現場で育てられ
今は日本映画界を支えている。
ただし
その事実を知らないで
見た場合の彼の風貌は
ドラゴンボールの牛魔王以外の何者でもない。
それくらい兎に角
一般人と空気感やスケールが違うというか
ああ、この人は何かしらの分野の鉄人だろうな
と初見で察しが付く
風貌の濃さなのである。
因みにバツイチ。
一日に小説一冊
映画評論本一冊
映画DVDは二本以上を
ぎっしり見続けている
頭のてっぺんから足のつま先まで
ぎっしり映画が詰まっている人
なのである。
とある港のロケ地で無許可の撮影をした時に警察にフィルムを取り上げられそうになったんだ。それであっちがどんなに質問してきても俺は無表情水平線を眺めながら『僕ですか?ずうっとここでゴジラが来るのを待ってるんですよ』と言い続けたら諦めて帰っていったよ。これは鉄板で使えるテクニックだぞ
そう本気とも冗談ともつかない口調で
言われたのを覚えている。
多分自分が応用する機会は
今後の人生で一度も無いとは思う。
それから自分は
映画専門学校を卒業して
育成を買って出た
TVプロデューサーに
一年足らずで見放され
半年かけて掴んだ
ピンク映画の脚本の仕事も
力不足でポシャって
映像業界から2年で
リタイアして
浅草のバッティンセンター
に拾われ
全ての映画愛を隅田川に
洗い流し切った頃
突如として些細な事件は起きた。
ゴルゴンさんが
たまたま独りプライベートで
ウチの店に遊びに来たのである。
自分の事など微塵も気づかず
空いてる打席を人混みを縫うように
スタスタと並び少しも休まずに
4回券を消化して
さあ帰ろうかとしている時に
勇気を出して声をかけてみた。
すいません、もしかしてゴルゴンゾーラ監督ではありませんか?あのクソぼったくり映画学校で教わった橋本ピッツアと申します!!
ん?ああ、君だったのか
固い笑顔を見せてから
ゴルゴン監督は自分を認識した。
何でも近々草野球の試合があるから
少し肩慣らしに来たとの事だった。
良ければもう一回サービスするんで打っていって下さい!
自分が意気揚々と答えると
固い笑顔で
ん?ああ、じゃあ。ありがとう
と言って
もうワンプレイ遊んでいった。
特にいま自分が何をやっているかとか
映画的な話には一切触れず
じゃあ、元気でな
と言って足早に去って行った。
それ以来ゴルゴン監督は
一回もウチの店には遊びに来ていない。
自分の態度がうっとおしかったのか
他人に恩を着せられるのが嫌だったのか
それとも単に忙しいだけなのか
真相のほどはわからない。
ただ確かなのは
自分がゴルゴン監督の
四角いスクリーンの対象に
当てはまらない人間になってしまった
という事実であった。
そこに悲しみはなく
当然だよな
という納得の気持ちの方が強かった。
あっそう
去年
ゴルゴン監督がメガホンをとって
全国公開されたヒーロー映画では
現場畑の彼だからこそ知り得る
裏方たちの人間臭さや情熱
そして
映画愛がギュッと詰まっていて
感動した。
今は大人が観る映画が無いんだよ。
映画館には女子高生と爺さん婆さんしかいない。
我々はその点においては等々隣国の韓国にまで追い抜かれてしまった。
実に嘆かわしい事だよ。
とあの日の喫茶店で
どこぞの軍人のように
熱弁していたのを思い出した。
あの映画は
そんな彼の想いが反映された
青写真だったのだ
と自分は確信している。
今もどこかで
スタッフや演者を怒鳴りながら
鬼の形相で映画を撮っている様が
ありありと浮かぶ。
一方
自分はとても彼のクオリティには
届かないとは思うが
自分だけが知る愛すべきバカたち…
もといい
気の毒な仲間たちを
トラックでビルに突っ込むくらいの
情熱と悪意で
今後も赤裸々に
書き続けていこうと
思っている。
La Fine
ふざけたイラストですが、
ご使用戴き、有難うございます。