タルトフランベ
フランス・アルザス地方の伝統料理。非常に薄いパン生地の上に玉ねぎスライスとベーコン、チーズを乗せて焼いたもの。ピザとの決定的な違いはサクサクした食感とトマトソースではなくクリームがベースになっている点。
タルトフランベ
フランス・アルザス地方の伝統料理。非常に薄いパン生地の上に玉ねぎスライスとベーコン、チーズを乗せて焼いたもの。ピザとの決定的な違いはサクサクした食感とトマトソースではなくクリームがベースになっている点。
彼はウケるんだけど笑えないんですよね
元同僚が語ったこの一言こそが
わがバッティングセンターの
最古参スタッフであり早番社員
タルトフランベ君
を語る上で最も的を得ている
表現なのだと思う。
かれこれタルト君と働き始めて
5年目を迎えようとしているのだが
自分の力ではどうしても彼のおかしみを
上手く一つのエピソードとして
構成する事が出来ない。
それは実際に彼に会ってもらえないと
どうしても伝わらない
空気感やアンバランスな存在感が
そうさせるのだと思う。
いささか雑で手抜き感が出るのは
非常に無念なのだが
ここはインパクトに残った事実を
簡単な箇条書きにして
読み手の皆様の想像にゆだねるとしたい。
それではどうぞ。
カウンターの一角に
飾られていた
18歳のバイトの子が
作った小さな折鶴を
何か気持ち悪いから燃えるゴミに捨ててやりましたよ
と笑顔で廃棄した。
小説家志望のはずが
ここ一年以上ずっと読み専
健康に気を遣っている割に
すぐに風邪を引く
オーナーが肉を奢ると翌日に
インフルエンザになったり
風邪をひいたりして
穴を空ける虚弱体質社員。
オーナー曰く
本当に奢り甲斐の無いヤツ
一度も
後輩に飯を奢った事が無い。
なぜなら
誰からも誘われないから。
酔っ払うとあまりに
面倒くさすぎて
頼んでもいないのに
店員から彼一人だけ
お冷を出されていた。
すぐにモノを捨てる。
お客さんの忘れ物で
手乗りピカチュウを
可愛いからカウンターに
飾っていたら
不要だと言われ、
ピカチュウなら今頃本館の
地下倉庫で安らかに眠っていますよ
みんなが止めるのに
捨てていた。
料理が得意。
自炊にマメだけど
買った道具はすぐに
飽きて捨てる。
彼が爆笑するツボが
スタッフ一同
全く共感できない。
場内を早歩きすると
なぜか腰と肩をくねらす
モデル歩きになる。
大いに酔っ払って
警察でもなんでもかかって来いって感じっすよ!!
と絶叫するアニオタ。
北海道出身なのに
魚介系が一切食べれない。
小説家志望なのに
漢字が覚えられない。
日誌には
打席を打度
ホームランをホムーラン
と書いてた。
実家のはす向かいが
鹿専門のハンター。
料理解説の時にやたら
適当にぶち込んでえ…
という単語を連呼する。
鍵取って
のことを
キープリーズ!
って言う。
そして
口癖が
さて家帰ったら何作ろうかな?
それで
ずっと一方的に自分が
作った料理の話ばかりして
会話が広がらない。
得意分野のアニメの話を
振ってもネットですでに
書かれていそうな
あらすじ部分しか語れない。
オーナーに了承をもらっては
いるものの
保持期限の切れた
お客さんの忘れ物の洋服を
もらっていく。
そして堂々と
それを職場に着てくる。
おわかりいただけただろうか
こんな感じで一見
一つ一つのエピソードは
中々面白いのだが
点と点を線にしにくいというか
ストーリー展開しにくいのである。
それは筆者の人間的な好みに
よるものだけではなく多分
そもそも彼に情が無さ過ぎるからである。
そこで自分はある賭けに出た。
自分の出勤中
お客さんが忘れていった
可愛い子猫のぬいぐるみを
カウンターの裏に置き
その肉球の間に
タルト君、捨てないでニャン
という魂のメモを挟んで
一晩置いておいた。
今までありとあらゆるグッズを
捨てて来たタルト君だが
もし彼に人間の感情が残っていれば
きっと…
最低でも落とし物箱に
保管ぐらいはしてくれると
筆者は信じて出勤したその翌日。
子猫ちゃんは捨てられていた。
もちろん落とし物箱にもその姿はなかった。
ちなみにその悪戯の犯人は自分だ
というのは
タルト君は知っていたようなのだが、
一切触れてこない辺りが
また感情の欠落をうかがわせた。
年末の後日談として最後にもう一つ。
バイトスタッフK君がタルトくんと
一緒にシフトに入った時に
また彼が飯の話ばかりするので
タルトさんはめしの事だけが生き甲斐なんですね?
ああ、仕事中もずっと家で何を食べるかだけを考えてるよ
…そうですか。
ところでタルトさんにとってどんな年でしたか?
ん?え?…ああ、過去は振り返った事ないからよくわかんないや
…だろうな
K君は心の中でそう思いながら
また閉店までヒマな
冬のバッティングセンターのカウンターで
タルト君のめしの話を
心を石にして延々と聞かされていたという。
La Fine