馬車の前方は座長とアルベルトがいるから、
2人に任せておけば大丈夫のはず!

――つまり私たちは
後方の対処さえなんとかすればいい。
 
 

ミリア

アーシャ!
この場はしばらくお願いっ!

アーシャ

承知しました。

ミリア

フロスト、アンタは馬車の奥に
隠れてなさいっ!

フロスト

…………。

アラン

フロスト、
早くこっちに来いっ!

 
アランはフロストを馬車の内側へ
引っ張って避難させると、
ダガーを握りしめて攻撃に備えた。


その間にアーシャは自分の背丈ほどもある
バスタード・ソードを軽々と持ち上げ、
馬車を降りて盗賊たちと対峙する。

小柄で力の弱そうな外見からは
その使い手だなんて想像もつかないはず。
事実、何人かは怯んでいるみたいだし。
 
 
 
 

アーシャ

いきます……。

 
 
 
アーシャはバスタード・ソードを
自分の体の一部であるかのように
自在に振り回した。

その重く素速い一撃は避ける余裕を与えず、
盗賊の持つ武器を弾き飛ばしていく。
それを見て腰を抜かし、
完全に戦意を喪失しているヤツもいるほどだ。
 
 

ミリア

よしっ! 今のうちにっ!!

 
私は商売道具のアコーディオンを手に取った。
そして荷物の影に隠れ、演奏の準備をする。

別にこれは敵の注意を逸らすという
わけじゃない。
私が身につけている能力を使った、
特殊な戦い方なのだ。
 
 

ミリア

行くわよっ!

 
 
 
 
 

 
   
♪~♪♪♪~!!!

 

 
 
私は曲を演奏し始めた。
今回は次の興行で演奏する予定の行進曲。

このメロディに乗せて、
彼らの意識を眠りへと誘うつもりだ。
 
 
 

盗賊

あ……う……。

 
盗賊の1人が早速深い眠りに落ちたようだ。
全身から力が抜けて、
その場に倒れ込むのが見える。

さらに次々と同じように盗賊たちは
わけが分からないまま
何もできずに眠っていった。

ついには後方にいた盗賊たち全員が
夢の世界へと旅立ってしまう。



するとその盗賊たちをアーシャとアランが
悠々とロープで縛っていった。
 
 

フロスト

こ、これは……。

 
驚愕して呆然と立ち尽くしているフロスト。

私は演奏を続けながら、
足で彼のお尻を軽く突いて声をかける。
 
 

ミリア

ほら、アンタも2人と一緒に
盗賊たちを
ロープで縛ってきなさいよ。
私は演奏で手一杯なんだから。

フロスト

ミリア、まさかキミは
特殊魔法能力者か?

ミリア

へぇ、特殊魔法能力者のこと、
知ってるんだ?

フロスト

スペルの詠唱をする代わりに、
別の手段で魔法を発動させる能力。
ミリアの場合は
それが音というわけか。

ミリア

その通りっ♪

 
――これこそが私の特技。

スペルの詠唱や手振りなどを使わず、
音を媒体とすることで
思った通りの魔法を発動させることができる。



そうした希有な能力を持つ人間は
『特殊魔法能力者』と呼ばれていて、
100万人に1人くらいしかいないそうだ。

消費する魔法力が少ないなどの
メリットがある反面、
音の伝わりにくい場所では効果が薄かったり、
音で敵に気付かれてしまったりする――
つまり不意打ちは難しいなどの
デメリットもある。
 
 

アルベルト

ミリアっ!

ミリア

アルベルト……。

 
全ての盗賊を縛り終えて演奏を止めた直後、
馬車の前の方から
アルベルトが駆け寄ってきた。
その手にはショートソードが握られている。


――見た感じ、怪我はしてなさそう。

ま、この程度の相手に苦戦しているようじゃ、
護衛も雇わず旅なんて続けられないもんね。
 
 

アルベルト

そっちはどうだ?

ミリア

えぇ、あっさりと終わったわ。

アルベルト

怪我はしなかったか?

ミリア

うん、全員無傷よ。
アルベルトも大丈夫そうね?

アルベルト

あぁ、俺も座長も何ともない。

ミリア

それならよかった。

アルベルト

俺はライカントへ戻って
役人を連れてくる。

アルベルト

縛っているからって
油断はするなよ?
絶対に盗賊のヤツらから
目を離すなよ?

ミリア

うん、分かってる。

 
アルベルトは馬車の前へ戻ると、
キホーテに乗ってライカントへ走っていった。


あとはお役人さんに
盗賊たちを引き渡せば終わり。
微々たる金額でも報奨金がもらえれば
御の字かな。



いずれにしても、
これで少しは街道も安全になるでしょうっ♪
 
 

フロスト

お見事だったね。

ミリア

そう?

フロスト

アーシャは特にすごいね。
あんなに重い武器を
軽々と振り回せるなんて。

アーシャ

大したことではありません。

ミリア

人は見かけによらないってことよ。

フロスト

一座のみんなは
随分と戦闘慣れしているんだね?

ミリア

旅をしている以上、
モンスターや盗賊に襲われることは
よくあるから。
あの程度では動じないわよ。

アラン

そうそう!
それに今回の盗賊はザコだもんな。
戦い方がド素人だったから。

フロスト

そうなのか?

ミリア

骨のある連中は
あんなもんじゃないよ。
懸賞金がかけられているような
大物は特にね。

フロスト

ふーん、これはますます
今後が楽しみになったな。
実に頼もしい。

ミリア

ま、こういうことはない方が
いいんだけどね。

 
それから数時間後、
私たちはアルベルトが連れてきたお役人に
盗賊たちを引き渡した。

そして再びサットフィルドへ向けて
出発したのだった。



いきなりのアクシデントだったけど、
旅には色々とあるのが普通だから。
それに何もなさすぎても面白くないもんねっ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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