担任の先生に連れられて生徒指導室にやってきた僕は、「座りなさい」と促されて教室の真ん中にぽつんと置かれた椅子に座る。
その僕の対面に座った先生は、ゆっくり……まるで僕を威圧するように息を吐き出すと、おもむろに口を開いた。
担任の先生に連れられて生徒指導室にやってきた僕は、「座りなさい」と促されて教室の真ん中にぽつんと置かれた椅子に座る。
その僕の対面に座った先生は、ゆっくり……まるで僕を威圧するように息を吐き出すと、おもむろに口を開いた。
どうしてだ……?
え……?
は……?
先生の呟きの意味が分からず、思わずぼけっと返すと、先生は身を乗り出して顔を僕に近づけた。
どうして指輪を盗んだ?
出来心か?
怒らないから正直に言いなさい……
ちょっと待った!
僕は先生に「ただ話を聞くだけ」だと聞いて生徒指導室までやってきた。
それはつまり、今回の事件のことについて参考意見を聞きたいということじゃないのか?
なのに、なんで先生は僕が犯人だと決め付けたような言い方を……?
先生の口から飛び出たセリフに思わず困惑した僕は、ともかく誤解を解こうと慌てた。
ちょ……ちょっと待ってください!
僕はやってません!
なんで僕が犯人みたいに……
本当にやってないのか?
正直に自分の罪を認めて話してくれるなら、先生も一緒にあいつやクラスの皆に謝ってやるぞ?
どうやら先生は完全に僕を疑っている……というか、先生の中では僕が犯人として確定しているらく、僕は思わず絶句した。
公平に僕の話を聞くべき立場の人間が、まるでゴミを見るような目で僕を見ながら、恩着せがましく「反省してるんだろ?」とか「出来心だったんだよな?」とか声をかけてくるのが、正直悲しかった。
それでも……
……ん?
なんだ……?
それでも僕はやってません
僕は指輪なんて盗んでない!
じゃあ誰がやったっていうんだ?
ちょうど指輪がなくなった時間にお前は授業を抜け出して教室へと戻ってきた
そういえば、そのときちょうど廊下で私とすれ違ったな……?
その後で盗んだんじゃないのか?
それは……!
教室に戻ったのは忘れ物を取りにきただけで……忘れ物を取った後はすぐに教室から出たから指輪を盗む時間なんて……
そこまで言ったところで、何か引っかかるものを感じて、僕は口を閉ざした。
そうだ……
僕は教室に戻るときに先生と廊下ですれ違った……
何で先生はあの時廊下にいたんだ……?
違和感を覚えた僕が黙ったまま考えていると、先生は言い訳のネタが尽きたと思ったのだろう、わざとらしくため息をついた。
はぁ……
分かった……
とりあえずお前の意見は分かった……
今日はもう家に帰りなさい……
クラスの皆には先生から伝えておく
その代わり、しっかり家で反省するんだぞ?
そんなことを言いながら椅子から立ち上がった先生は、ドアの前で立ち止まると、くるりと僕を振り返った。
帰る前に、ここの鍵を閉めて職員室に返しておいてくれ
それじゃ、と言い残してどこかへ去っていく担任教師の背中を呆然と見送る。
それくらい、自分でやってほしいのに……
小さくため息をついて、僕はのそのそと立ち上がると、生徒指導室を出た。
そうして、先生に言われた通り鍵をかけていると、後ろからいきなり声をかけられた。
横島君……
振り返ったその先には、探偵気取りの相月がいた。
彼女はどうやら僕が生徒指導室から出てくるのを待っていたらしく、鍵をかけ終えて職員室へ向かう僕の隣を歩きながら、生徒指導室でのことをあれこれと聞いてきた。
それで?
先生には何を聞かれたの?
聞かれたも何も、先生の中では僕は完全に犯人になってるみたいだったよ……
正直に言えだとか、
ちゃんと反省しろだとか、
そんな事言われたよ……
酷いわね……
話を聞くだけとか言っておいて……
まったくだ、と内心で彼女に頷きながら、いつの間にか辿り着いていた職員室のドアを開け、「失礼します」と声をかけながら中に入る。
途端に突き刺さる剣呑な視線を極力無視しながら、生徒指導室の鍵を返却してさっさと戻ろうと、ちょうど担任の先生の机のそばを通ろうとしたときだった。
足早に通り過ぎようとしたのが原因だろう、机の上におかれていた葉書が、ひらりと机の下に落ちてしまった。
おっと……
このまま無視して通り過ぎるわけにもいかず、落ちた葉書を拾おうと、机の下にもぐりこむ。
そうして葉書を拾い上げ、立ち上がろうとした僕は、そのまま担任の先生の机に強かに頭をぶつけてしまった。
まるで目に星が飛び散ったかのような感覚に、思わずうずくまった僕の目の前に、何かが軽い音を立てて落ちてきた。
拾い上げてみれば、それはなんと、盗まれていたはずの鎖に通された指輪だった。
大丈夫?
相月から差し伸べられた手を取って立ち上がった僕は、彼女に軽くお礼を言ってから、たった今見つけたものを彼女に見せる。
今……これを見つけたんだ……
これって……
盗まれた指輪じゃないの!?
なんでこんなところに……
多分……
僕の言いたいことを理解したのだろう、相月がありえないと首を振る。
確かにありえないことかもしれない。
けれど、この鎖付き指輪が先生の机にあったことを考えると、疑うべきは……。
ともかく、一度先生に話を聞いてみましょ?
相月の言葉に頷いて、僕らは先生を屋上に呼び出した。