ゴアス帝国南部、南部軍詰所にてリィは、南部司令官のココレットから魔鉱石の扱い方の指導を受けることになった。
魔鉱石の指輪は炎や電気などを呼び起こせるため、周囲の安全を図るため石壁で囲まれた訓練所で修行を行う。
Links 第2話―友が遺したもの・後編―
ゴアス帝国南部、南部軍詰所にてリィは、南部司令官のココレットから魔鉱石の扱い方の指導を受けることになった。
魔鉱石の指輪は炎や電気などを呼び起こせるため、周囲の安全を図るため石壁で囲まれた訓練所で修行を行う。
魔鉱石を上手く扱うには、圧倒的な集中力とイメージをする力です。
自分が出そうとしている技…そうですね、魔法とでも言いましょうか。
その魔法を出す際、イメージが出来ていれば、その分魔法の威力もしっかりされますし、体力の消耗も最低限で済みます。
…イメージ…。
そうです。試しに炎を出してみましょうか。リィさん、手の平に炎を作ってみてください。
手のひらに炎、炎…。
小さな炎が生まれる
そう、その調子。
でも、これは小手調べ。言わば練習です。
では、今からこれより大きな炎をこの壁に向かって放ってみてください。
大きい炎…。はぁっ!
あ、あれ? もう一度…。
うっ…頭が…痛い…?
気を付けて下さい。
集中とイメージが出来ていなければこうなります。
下手すれば命に関わることにもなります。
…命に…。
止めるなら今のうちです。
あなたにどんな目的があるか知りませんが、命をかけるほどではないはずです。
…続けます。あたしは、兄を探すためにも強くならなきゃならないんです。
兄を…。
やぁああああ!
…うん、いい火力ですね。合格です
くっ、うぅ…。(片膝をつく)
たった3回の魔法ですらこれだけ体力を消耗するんです。
取りあえず最初はこんなものでしょう。
少し休憩してから、再開するとしましょうか。
安いお茶ですが、どうぞ。
ありがとうございます。
リィさん、もしよかったら教えてくれませんか?
どうしてここまでして戦う力を身に着けたいのか。
…。
あぁ、無理に言わなくてもいいですよ。少し気になっただけですので。
…いなくなった兄を探しているんです。
お兄さんを?
…はい。
お兄さんは行先をご両親には伝えていないのですか?
パパとママ…、いえ、両親はあたしが小さい頃にラインに殺されました。
その後兄と一緒に暮らしてきたんですが…何も告げず急に…。
そうですか…。失礼なことを聞いてしまいましたね、申し訳ありません。
…お兄さんがどこにいるか見当は?
いえ…。ただ、生きていることは確かなんです。つい最近の新聞の記事に兄が写っていたので。(新聞の切れ端を見せる)
これは…。珍しい服装ですね。
ゴアス帝国に来る前に同じ服を来た男と会いました。
彼らはラインと戦ってると言ってたので、ラインが出るところに行けば、もしかしたら兄と会えることができるんじゃないかって…。
…確かに、その方法でしたらお兄さんに会えるかもしれません。
ただ、その道はとても険しく、危険なものです。
理解していますか?
はい。
そこまで覚悟しているなら私は止めません。
私ができることであれば、惜しまず協力しましょう。
あ、ありがとうございます!
あ…ココさん、一つ聞いてもいいですか?
なんでしょう?
ココさんはどうして司令官になったんですか?
…女の私が軍の司令官になることに疑問を持った人は多くいました。
それでも私は司令官になって、人間がラインに脅かされないような世界を作りたかった。
…。
私もリィさんと同じで兄がいました。
司令官になる前は兄と二人で孤児院を経営していました。
兄と共にランディール王国の滅亡によって行き場を失った子供たちを引き取ってはお世話をしていたんです。
でも、ある時、兄は徴兵によって隣国との戦争に赴いたところ、突如現れたラインによって殺されてしまいました。
…すみません。
別に構いませんよ。
だからこそ、リィさんがお兄さんを探す気持ちが分かるんです。
でも、無理してあなたが倒れてしまったら、それこそお兄さんが悲しんでしまいます。
これだけは覚えていてください。
はい。
さて、長く話してしまいましたね。さぁ、
練習を再開しましょうか。
…ここは王都付近だな。
なんでそんなことが分かるのさ?
んーなんとなく。
強いて言うなら家の建ち方だな。
あそこにある瓦礫、大分古びているが他と比べて質が良いだろ?
昔はあそこに王宮が建ってたんだろうな。んでもって王宮を囲むように民家が建っていたんだろう。
なるほど、俺には瓦礫の質感とか分からないなぁ。
はっはっは、そりゃそうだろうよ。俺はここで仕事して長いからなぁ。目が肥えてるんだよ、目が。
流石だなーセンパイはー。
はっはっは、なんだその言い方はー、もっと敬えー。
ははー!
あはは、はは――ん?
どうかしたのか?
しっ! 耳を澄ませてみろ。何か聞こえないか?
…これは…誰かが争ってる音、か?
みたいだな。
こんなところで人がいるのはおかしいな。
同業者か、物珍しさに忍び込んできた馬鹿か…
それとも…。
それとも?
今だ見つかってないランディール王国の財宝狙いの大馬鹿野郎。
まっ、危険と報酬が釣り合わないだろうからそれはないだろうがな。
取りあえず、争ってるってことはラインかなんかに襲われてるってことだ。
行くぞ、レイジス!
あぁ!
戦ってる音を頼りに向かった先にいたのは、男が二人、剣を交えていた。
一人は怪しい衣服を身にまとった男。ゴアスに来る前に合ったエレアードや、新聞に写っていたセイルさんが着ていた服と似ている。
もう一人は筋骨隆々な大男。
ただ一つ気になるのは額から鋭い角が生えていることだ。
それはまるで、おとぎ話に出てくる鬼のようだった。
ちっ!
おいおい、こんなもんかよ!?
ギルティアさんよぉ!?
喧嘩吹っかけてきた割には弱いじゃねえか!
とんだ肩すかしを食らったぜ。
好き放題言いやがって…誰が弱いって?
ギルティアと呼ばれた眼帯の男は短刀を振るった。
瞬間、彼の武器から一閃、水が迸り、鬼のような男に襲いにかかる。
エレアードが風を操ったの同じように、このギルティアという男は水を操るのだろうか。
くぅ…、痛ぇ。やればできるじゃねえの。
他に隠し玉は無いのか?
おいおい、頑丈な体だなぁ、羨ましいぜ。
ラインは頑丈なんだよ。
んで、あんのか? ねえのか、どっちだ。
無いわけねぇだろ!
そうこなくっちゃなぁ! さぁ、来い!
はいはーい、そこまでや。
シェリル!?
新手か…。
お楽しみのところ悪いねんけど、無駄な戦闘で時間を費やすわけにはいかんのや。
無駄だと? 無駄かどうかは――
シェリルは動作も無しに短刀をブロウの足元へ投げて牽制する
ッ!?
さあ、行くで、ギルティア。
ちっ、仕方ねぇなあ。
……と言うわけだ、ブロウさんよ。
勝負はお預けだ。またやりあおうや。
シェリル、ギルティア、姿を消す
くそっ!
くそっ、くそっ、くそぉ!
つまらねえ終わらせ方しやがって!
おい、レイジス、気づかれないうちに行くぞ。
いいのか?
あんな戦いに巻き込まれたら命がいくつあっても足りないだろ…。全く、なんだあいつら。
分からない。でも前にあの男と同じ服を着た奴にあったことがある。
その時も変な力を使ってラインを倒してた。
じゃあ、あの角生えたやつは?
俺に聞くなよ。でもさっきの奴らラインって言ってた…。
そもそもラインって喋るのか…?
知るかよ。取りあえず俺たちが話しても埒があかねえ。
俺は戻って報告する。
レイジス、お前はどうする?
ちょうど一週間目だし、俺も戻るよ。
よし、そうと決まれば――
よぉ、ガキ共。どこ行こうってんだ?
なっ…!?
ばれてたのか!?
俺は鼻が利くからな。
「壊れた時計」どもと戦ってた時から気づいていたぜー。
まあ小物だから放っておいたんだがな。
「壊れた時計」?
さっきの奴らだよ。なんだ、知らねえのか。
まあそんなことはどうでもいい。
俺は今機嫌が悪いんだ、少しくらい楽しませてくれるんだろ?
野郎ども! このガキ共と遊んでやれ!
グルルルルルゥウゥウ…
うわ…なんて数だ。
さぁて、人間様の強さを見せてくれよ。そして俺を楽しませてくれ!
…どうやらこいつらをどうにかしないと生きて帰れないらしいな。
勘弁してくれよ。
泣き言言うなって、奴さん待っちゃくれないぜ。…来るぞ!!!
やぁああ!!!
電撃を生み出す
お見事、大分慣れてきましたね。
弱い魔法だったらある程度使いこなせるようになりました。
…でも、少し威力の強い魔法となると、まだ1、2発が限界です。
そのようですね。でも、この短期間でこんなに上達すれば十分です。
後は何度も使うことによって体を慣らし、打つ魔法をより緻密にイメージできるようにすることが今後の課題ですね。
分かりました!
では、もう少し訓練を――(扉ノックする音)
あら、誰でしょう…。
どうかされましたか? はい。はい。はい。
…え? 分かりました。
追って指示を出します。(扉が閉まる音)
どうしたんですか?
旧ランディール領にて、凶悪なラインが暴れていると情報が入りました。
え!? あそこにはレイが…。
お友達ですか?
はい…。助けに行かないと。
私も行きましょう。
ランディールに調査をしに行ってるあの子も心配です。
あの子…?
話は向かいながらしましょう。
詰所の倉庫に私のバイクがあります。
私は皆に指示を出してからそちらに向かいますので、リィさんは準備して待っていてください。
は、はい!
おい、シェリル…少し待ってくれ。
ん? 別にええけど。
――ってちょっと! 大丈夫か!?
あーいたたたた。あのラインめ、一撃が重いんだよ、ちくしょう。
体中が軋んでやがる。
ごめんな、はよ応援に向かえば良かったわ。
本当だよ。…でも、二人でも苦戦する相手だろうな。なんせ相手は怪力で有名な鬼だ。
てかラインって言葉喋るんやな。ちょっと驚いたわ。
俺もだよ。そんでもって他のラインより圧倒的に強い。
こりゃ報告もんだな。
せやな。取りあえず立てるか?
なんならウチが負ぶってやってもええで。
はぁー、お前がもっといい女だったら喜んで負ぶってもらったんだがな。
なにをー! ウチええ女やで!
そうだないい女だな。まあ冗談はこれくらいにして行くぞ。早くベッドでゆっくりしたいぜ。
はいよー。
はぁー、全く、そもそも俺たちラインに刃向うってのが無謀な話だ。
俺たちはお前ら人間より力も強ええし大きさも違うからな。
デケェラインだったらそこらの家より大きい奴だっていやがる。
そんな奴と戦うとなると、お前らは虫みてぇなもんだな、一瞬でペチャンコ、お陀仏だ。
人間ってのはどいつもこいつも――
ギェェエエエエ…。
はぁっ…はぁっ…。
ゴチャゴチャ言ってねえで、ちゃんとこっち見ろや。
はぁっ…はぁっ…。
意外と何とかなるもんだな。俺もうヘトヘトだけど。
これだけの相手に生き残れたんだ。大した成長だぜ。
なるほどな、ただのガキだと侮ってたぜ。兵士かなんかか?
ただの学生だ!
そーかそーか、最近のガキはある程度ラインと戦える力を持ってるのか。
それともさっきのは火事場の馬鹿力ってやつか?
だが、馬鹿力なら――こっちの十八番なんだぜ!?
瓦礫の山を粉砕する
な、なんて力だ…。
鬼。名前くらい聞いたことあんだろ。
それがこのブロウ様だって話だ!
それじゃあ行くぜ!?
どこからともなく火炎がレイジスたちを遮る
うわっ!? な、なんだ!? 火ぃ!?
そこまでです。
レイ、助けに来たよ!
リィ!? なんでここに。
先生!?
話は後です。今は目の前の敵に集中してください。
は、はい!
ひい、ふう、みい…四人で俺を倒すつもりか?
多勢に無勢。それでも戦いますか?
俺をなめてんのか?
大人数でも所詮女子供、後れを取る俺じゃねえ。
…と言いてぇところだが、さっきから色々茶々入れられてたら興が覚めちまったぜ。帰るわ。
ま、待て――むぐっ!
放っておけ。今のままじゃ到底敵わねえのは分かるだろうが。
そう言う事だ。命拾いしたな、小僧。はぁーっはっはっは!
…行ったようですね。
何なの? さっきの奴。
ライン、みたい。
ライン!? ラインって人の形してるの!?
先生、その事も踏まえて報告すべきことがたくさんあります。
そのようですね。こんなところで話すより、一度帝国に戻りましょうか。
待て。人の気配がする。
えぇ!? まだいんのかよ…。
この瓦礫の裏にいるな…。誰だ、出てこい!
わわわ、剣を収めてください!
私は怪しい者じゃ――って、ありゃ?
リィちゃんとレイジス君じゃないですか。奇遇ですねぇ。
アリス!? どうしてここに!?
いやー、一度ランディール王国の跡地を観光してみたくてですね。
せっかくの休みなのでボランティアのついでに来てみた訳です。
お友達ですか?
はい、俺とリィの同級生のアリスって子です。
なるほど、そうだったのですね。
でもここは危険です。観光で来るのは結構ですが、アリスさんもあまり長居はしないほうがいいですよ。
はい、ご心配ありがとうございます!
では、リィちゃん、レイジス君、学校で会いましょう。
アリスって行動力あるよね。
うん。あたしたちも負けちゃいられないね。頑張ってセイルを探そう!
そうだな!
レイジス。
どうしたんだよ、ゼノン。
あのアリスって子何もんだ?
…どう言う事?
こんな危ない所、下手すりゃ死ぬ可能性だってある場所に、一人で来るのはおかしいだろ。
いくら観光っつってもそれくらいの常識はあるはずだ。
まさか、アリスの事疑ってる?
…。
アリスは今まで学園で一緒に過ごしてきたし、特に怪しいところはなかったよ。
…そうか。
皆さん、行きますよー!
あ、はい! 今行きますー!
…俺の疑いすぎか?
人の姿をし、俺たち人間の言葉を解するライン…。そしてラインと敵対する組織、「壊れた時計」か…。
まだ俺たちには分からない事がたくさんあるみたいだな。
もしかして、セイルもその「壊れた時計」の一人なのかな?
かもしれない。新聞の記事に映っていたセイルさんの服装も、その組織の奴らが着てたものと似てたし…。
…あの馬鹿兄貴、見つけたら問いただしてやる!
取りあえず、この事は後で各地域の司令官を集めて会議するとしよう。
人語を理解する――つまりただの獣だと思っていたラインに知能があるとすれば、対応も変わるからな。
ココ、各地域の司令官に召集令を出しておいてくれ。
分かりました。
ところで、セイルたちに関して何かわかりましたか?
セイルかどうかは分からねえが、怪しい恰好をした男が、ここから北にある「オルテア小国」に向かったって情報があった。それが例の組織かどうかは分からないが…。
行ってみて確認するのもありじゃないか?
そうですね、行ってみます。
道は分かるのか?
それは…。
だったら、ゼノン、あなたが道案内をしてあげてはいかがですか?
お、俺ですか!?
あなたは私のところに来る前は各国を転々としていたと言っていましたし。
それはそうですが…。先生とのラインの研究が――
私の手伝いは気にしないでください。
それより今、ラインに関して新たな事実が判明したからこそ、改めて世界を見て回る必要があると思います。
…というのは建前で、若いあなたにはリィさん、レイジス君と一緒に旅をして、まだまだ色んな物を見てきてほしいのですよ。
…そういうことなら。分かりました、オルテア小国の案内、俺が引き受けます。
すまねぇな。
さて、リィ、レイジス、ゼノン。
今回はお前たちのお陰でラインに関する有力な情報を手に入れることができた。
お礼としてゴアス帝国の特上のメシをご馳走してやろう。
メシ! やったぁ! もうまずい非常食は懲り懲りだったんだ!
なんだレイジス、俺が用意してやったものにケチつけつのか?
あ、いや、そうじゃなくて――
はっはっは、冗談だ。はっはっはっは!
言葉を話すライン。組織「壊れた時計」。
まだ旅をしてあまり日が経っていないけれど、普通に生活していたら知らないままだっただろう。
セイルは本当に壊れた時計の一員なのかな? ラインについてどれほどまで知っているんだろう?
ゴアス帝国の料理を食べながら、あたしはぐるぐるとそんなことを考えていた。
to be continued...