TO BE CONTINUED...
Links 第2話 ―友が遺したもの・前編―
大陸西部にある巨大国家、ゴアス帝国。
あたしたちが住むジェナ・リースト共和国と違って、軍需産業が発達し、また、兵役や徴兵制があるため、他国と比べて軍事力に秀でている。
大規模のライン相手にまともに対抗できるのは、おそらくこの国くらいだろう。
あたしとレイジスはゴアス帝国に着くと早速、帝国軍の総司令官をしているサネルさんに会いに城へ向かった。
執務室のドアをノックする
おう、入れ。
失礼します。サネルおじさん、お久しぶりです!
お? おぉ! リィか。
久しぶりじゃねえか。随分と大きくなったなぁ。昔会った時はあんなガキンチョだったのに、今や立派なレディって感じじゃないか!
ふふ、ありがとうございます。
…セイルもいなくなって大変だっただろう?
…はい。
それでさっきから気になってたんだが、隣の子は…あれか? 恋人か?
いやぁーリィが立派に育ってくれておじさんも嬉しいぜ。
いえ、それはただの護衛係です。
なんだろ、そこまできっぱり言われると切ないよ…。
えっと…サネルさん。
俺はレイジスって言います。
さっきリィも言ってましたけど、護衛という形で一緒に旅をさせてもらってます。
ふむ、護衛…か。今時授業でも戦闘訓練をするとは聞いているが、軍人でもない人間にラインの護衛をさせるのは酷じゃないか?
いえ、護衛は自分から言ったので…。
ただ、ここに来る途中、ラインに襲われて…。
小さいラインはなんとか追い払えたんですけど、すっごい大きいやつが出てきて――
そうなんです! そこで変な力を持った男が現れて助けてもらったんです!
変な力…? なんだそれは?
あたしも見てびっくりしたんですけど…そいつ、風を操ってラインを倒したんです。
後、セイルのことも何か知っているようでした…。
なるほどな。それにしても不思議な力を使う人間か…。
何か、心当たりでもあるんですか?
これは聞いた話なんだが、過去に数回、軍の部隊が大量のラインによって壊滅させられそうになった時があってな。
全滅しかけたその時、突然どこからともなく現れた男が、一人で大量のラインを倒したって噂を聞いたことがある。
見たやつらは昔死んだゴアスの軍人に似ていたって言ってたが、それを体験していない軍人は幻だっつって笑い飛ばしたよ。
勿論俺も、な。
幻だったら、その倒したラインはどうなったんですか?
俺にも分からねえよ。
でもただの人間が一人で大量のラインを倒すなんて不可能だろ?
幻覚を見せるラインがいたら話は別だがな。
確かに…。
でもさっきのお前らの話を聞くと、まんざら嘘でもなさそうだな。
これは結構重要な話かもしれん。詳しく話を聞く必要があるな…。
そういえばリィとレイジスはこれからどうするんだ?
俺に会う以外は特に何も考えていないんだろ?
い、いえ! そんなことは…ない…こともない…んですけど(ごにょごにょ)
がっはっは! もっと俺を頼ってくれていいんだぜ。
ふむ、そうだな…それじゃ数日の間だが、ここに留まるといい。
もしかしたらお前らにとっても何か必要な情報が手に入るかもしれないしな。
いいんですか?
あぁ、大切なダチの娘が困ってるなら、助けんわけにはいかんだろ?
ここから出てすぐ横に外来用の部屋がいくつかある。そこを適当に使え。分からなかったら城の誰かに聞きな。
俺の名前出せばある程度のことはなんとかなる。
ありがとうございます!
さ、長旅で疲れただろ? 今日はゆっくり休みな、飯は適当に誰か使って持ってこさせてやる。
はい、では失礼します。
あー…リィ、先に行ってて。
え? …うん、わかった。先に行ってるね?
…。
どうした、残って――って大体理由は分かるんだがな。
…はい。サネルさん、俺に戦い方を教えてくれませんか?
そう言うと思ったぜ。だが、無駄に命を捨てるもんじゃないと思うぞ?
ラインはお前らも知ってるように、人間じゃ太刀打ちできねぇ奴だっている。
俺たち軍人だって手こずるんだ。
それに友人とはいえ、赤の他人に命を掛けるつもりなのか?
それは…サネルさんの言う通りだと思います。でも手伝ってやりたいんです。
それに、リィがどうとかじゃなくて、俺自身が何か戦わなくちゃならない気がするんです。
…。
…。
…お前さんが引き下がらないなら別に俺は止めはせん。
ただ厳しいことを言うが死ぬのは自己責任だからな。
それでもいいなら明日早朝にこの部屋に来い。一週間だけお前さんのトレーニングに付き合ってやる。
いい訓練場所に連れて行ってやるよ。
あ、ありがとうございます!
じゃあ明日の早朝にな。すまんな、俺もこの国の軍のトップをしてるから色々仕事があったりするんだ。
今日はしっかり休んどけよ。
はい! じゃあ…失礼します。
おかえり、長かったわね。
リィ!? 待っててくれたんだ?
まぁ、特にすることなかったしね。何話してたの?
ん? あぁ、サネルさんにラインと戦える力をつけるために特訓をお願いしたんだ。
…そう。
どうしたんだよ?
いや、なんか申し訳ないなって…。無理矢理連れてきて、危険な目に合わせて。
どうしたんだよ、リィらしくない。
…別にいいよ、そんなこと。
そもそも強くならないとジェナ国でラインに襲われて殺されてるかもしれないしさ。
自分で命を守るにも、いい機会だと思うんだ。
…うん。
だから俺はサネルさんが言ってたように、情報が入るまでの一週間トレーニングに勤しむよ。
うん。
じゃあ俺は明日早いからもう寝ようかな。
おやすみ、トレーニング頑張ってね。
ありがとう。それじゃあ、おやすみ。
…あたしも、頑張らなくちゃ。
翌朝、サネルさんによって連れていかれたのはゴアス軍専用の訓練所ではなかった。
そこは瓦礫と、なんとも言えない臭いに満ちた場所。
かつて十数年前にラインによって滅ぼされた王国、ランディール王国の跡地だった。
ここがお前のトレーニング場所だ。
ここって…。
そう、ランディール王国。
とは言っても滅んでからラインの巣窟になって以来、誰も住んでないし瓦礫だらけだがな。
お前は今日からまるまる一週間、ここで過ごしてもらう。これがトレーニング内容だ。
死にたくなければ強くなれ、レイジス。
なるほど…
――って、えぇ!?
そんな無茶な!
無茶じゃねえよ。なぁに安心しろ。この周辺にいるラインはそんなに強くない。
帝国の兵士の訓練場所としても活用してるほどだからな。
よっこいしょっと…。あ、これ一週間分の生活物資な。
…はあ。
本当は滅茶苦茶を言ってるのは分かる。
でも、俺は認めてるんだぜ。
いくら授業でライン相手に戦闘訓練をしてるとはいえ、本物のラインを追い払えるなんてそうそうできねえ。
…それを信じてここに連れてきた。
サネルさん…。
昨日は厳しく言った手前なんだがよ、お前さんにはセンスがあるんだろう。すぐに強くなる。
その力でリィを、お前自身を守ってやってくれ。
は、はい!
ありがとよ、レイジス。…と言うことで俺は最高司令官という立場があるから今から帝国に戻らなきゃならん。
…え? 一週間俺一人なんですか?
まあ心配するな。時間があれば様子を見に来てやるからよ。
それにもしかしたら…あいつに会えるかもな。
…?
まあ、そういうことだ。健闘を祈るぜ。
サネル、帝国へ戻る
グルルルルルゥウゥウ…。
…って、言った傍からラインかよ。
ウォオオオオオォオオン!!!
倒せなくはないんだろうけどさ…。
流石に怪我するんじゃないか、これ?
ガァアアアアァァァァァ!!!
うへぇ、そんなに吠えるなよ。
…なるほど、こんなんで死ぬようじゃ人を守れないってことかよ。
…やってやろうじゃんか!
あんの野郎…一体どこへ行きやがった…。
おーい! シェリルー!
おーい…。はぁ。
全く、人手が足りないからって伝令を俺に任せるんじゃねえよ、かったりぃ。
そもそも命令下される時になんでその場にいないんだよ。
おーい、どこだー?
そんなに大声上げんでも、ちゃんと聞こえとるわ。もぐもぐ。
…何してんだお前。
ご飯食うてる。さっきまで別の命令で走り回ってたからお腹ぺこぺこやねん。
あぁ、だからいなかったのか。てか、のんびりお食事タイムとは呑気だな。
サンドイッチ、いる?
…食う。
それでギルティア。ウチに何か用があったんやないん?
あ、そうだ。飯食ってる場合じゃねえわ。仕事だ仕事!
仕事かー、場所は?
旧ランディール王国。討伐対象のラインは、王都があった場所らしい。
なんでそないなところに。人が住んでへんからってランディールの廃墟をアジトにでもしてんのやろか。
かもしれねぇな。ほら、面倒くせぇが、さっさと準備していくぞ。
ほーい。二人で任務ってのも最近多なってきたなぁ。
そうだな、それほどラインも増えてきたんだろうよ。あー面倒くせぇなぁ、お前がいるからサボれねえじゃねえか。
あははは、せやでー。二人で熱々のデートと行こか。
ちっ…。
ぶー、そんな盛大な舌打ちせんでもええやんか…。
あ、歩くの早いって!
待って待って、一緒に行こうやー!
おう、入れ。
…サネルおじさん。
おぉ、どうした?
あたしもラインと戦えるようになりたいです。
…なぜ? レイジスを護衛に任せてるんだろ? お前は戦う必要はないだろうが?
あたしは本気でセイルを探したい。セイルはあたしのたった一人の家族だから…。
だから旅の途中、自分の身は自分で守れるようにしたいんです。
それにレイにばっかり負担をかけちゃ申し訳ないし…。
なるほどな。お前が言いたい事は分かった。
だが…それがたとえ、お前の両親が望んでいないことでも、お前は戦う力を求めるのか?
え?
今のご時世だ。お前の両親は常々お前やセイルが戦いに巻き込まれることを懸念していた。
セイルがこうなってしまった以上、お前まで自ら戦いの場に行くことを望んじゃあいないはずだ。
でも――
もう一度聞くぞ。両親の望みを振り切ってまで、お前は戦うのか?
…。
黙ってちゃ分からんぞ。
あたしは…戦いたい。セイルが何を企んでるか分からないけど、少なくともあいつと話をするまでは、旅を止めないつもりです。
ラインと戦って傷ついても、あいつを――セイルを探す。
そうか…。なら俺はせめてダチの娘が傷つかないように支援せんといかんだろうなぁ。
――よっこらせっと。
机の引き出しから出てきたのは一つの指輪
これは…指輪?
魔鉱石は知っているな?
え? は、はい。…え、と…魔鉱石はまるで魔法みたい火や水を創りだすことができる鉱石のことですよね。
扱い方によっては危険だから、現在では魔鉱石が埋まる鉱山は国の管理下にあるんでしたっけ?
そう。流石は優等生ってか? 魔鉱石を加工した商品は今じゃ日常生活の必須アイテムとして売買されている。
暖房器具とか、お前らが乗ってきたバイクがその例だな。85点。
その魔鉱石がどうかしたんですか?
あぁ、この指輪は魔鉱石で作られている。しかも遥かに純度の魔鉱石で、な。
これが何かって思うだろうが、直接みた方がいいだろうな。
サネルおじさんは指輪を嵌め、人差し指を立てる。すると指の先からボッと音を立てて小さな炎が生まれた。
…すごい!
魔鉱石の類は純度が高ければ高い程強い力を持つ。
しかし、それに比例して人体、環境にも強い影響を及ぼす。
…この石は致死性はないが、やはり危険だ。だがその分ラインとも渡り合える力が使えるだろう。
ッ!?
レイジスも一週間いない。だからリィ、お前もこの一週間でこれを扱えるようになるんだ。
は、はい!
俺も訓練に付き合ってやりたいが…なんせ、立場上仕事を怠るわけにもいかんのでなぁ。
サネル総司令官。ゴアス帝国南部司令官、ココレット・フランチェスカ、只今参上致しました。
おぉ、ココか。入ってくれ。
報告の件で参りました。
北部ではラインと交戦する兵士以外の人間は見受けられていないようです。
また、ラインに関する報告ですが――
あー、後で聞く。それよりココ、少し頼みたいことがあってな。
頼みですか? 私にできることであれば、ですが。
この子に魔鉱石の扱い方を教えてやってほしい。
よ、よろしくお願いします。
魔鉱石!? こんな幼い子に何を…。
まあ、死んじまったダチの娘で、ちょいと色々あってな。
だからといって――
危険なのは分かってる。
でもな、そのリスクを知った上でこの子は言ってるんだ。分かってくれねえか。
でも…。
たのむ。
…分かりました。仕方がないですね。
すまねえな。色々迷惑をかける。じゃあこの子――リィは南部で預かってもらっていいか?
分かりました。
よろしくお願いしますね、リィさん。
あぁ、そういえば自己紹介がまだでしたね。
私はココレット・フランチェスカ。
ゴアス帝国南部の司令官を任されています。
よろしくお願いします。
まあそんなに気構えなくていいですよ。
私のこともココって簡単に呼んでもらっても結構ですよ。
はい、ココさん!
そうと決まれば、南部に行って魔鉱石を扱えるように練習しましょうか。
総司令官、ラインの報告の件はいかがしますか?
そうだな。緊急でなければ報告書だけ貰っておこうか。
分かりました。
あぁ、そうだココ。
あいつは今日もランディール王国にいるのか?
あいつ? あぁ、彼のことですね。はい、今日も研究のため、サンプル採取に向かっていますよ。
俺が旧ランディール王国に連れてこられてから4日が経ち、トレーニング期間の半分が過ぎた。
訓練は順調で、サネルさんの言う通り、この辺りにいるラインたちはそんなに強くはなく、俺の実力でも退治することができた。
キィイイイィイイイイ!!!
よっと! やぁっ!
グゲ…エ…。
ふーっ…。
この辺りにはもうラインはいないかな。
戦いにも少し慣れてきたし、今日はちょっとランディール王国を探検してみようかな。
…しっかし、一日中ラインを探し歩くってのは無茶だよなぁ、ホント。
っ!? 瓦礫の向こうに……何か……いる?
出てきた相手と剣を交える
…ラインか!?
――って人間? …なんだ、ラインじゃねぇのか、紛らわしい。こんなところで何してんだ?
俺は…えーと…ラインと戦う訓練を――。
ふーん。兵士志望かなんかか?
いや、旅に必要な力くらいは自分で付けようって感じで…。
はっ、物好きなもんだ。…じゃあな、死なねえように頑張れよー。
ま、待ってくれよ! アンタはこんなところで何してるのさ? いや、そもそもあんた、誰?
はぁ…。俺はゼノン。普段は傭兵稼業で食ってるが、今はラインの研究をしてるゴアスの南部司令官のところの研究の手伝いをしてる。
ここにいるのも研究の手伝い、ラインの血液採取だ。
…血液採取って、危ないんじゃ…?
相当な。でも俺は腕には自信はある。
何よりラインの研究を少しでも進めないと人間がラインに対抗できねえしな。
まぁ話もなんだ、俺も忙しいし、あんたも訓練もあるんだろ? じゃあな。
い、いや、ちょっと待って!
なんだよ、俺は忙しいんだ。
俺にも手伝わせてくれないか?
なんで素人のお前が。
いや、深い意味はなくて…その一人じゃ心細くて…。
ゼノン…さん、腕が立つみたいだし、参考になるかなーなんて、はは。
あー、わかったわかった。
ったく、仕方ねえなぁ。少しの間だけだぜ?
あと、ゼノンでいい。あんた、敬語とか苦手そうだしな。
あ、ありがとう!
んで、あんた、名前は。
お、俺はレイジス。
よろしくな、レイジス。
こうして俺は暫く、ゼノンという男と一緒に行動することになった。
彼が言う南部司令官がどんな人かも分からないし、サネルさんが「もしかしたらあいつに会えるかもしれない」と言っていた「あいつ」が、
ゼノンの事なのかも分からないが、4日間も一人で過ごしてきた俺にとって、ゼノンと出会えた事は心に余裕を持たせてくれた。
でも、俺はあと3日間はここにいなければならない。このまま無事に終えることができればいいんだけど…。
TO BE CONTINUED...