ジェナ・リースト学園。名の通り、ジェナ・リースト共和国に存在する学園の一つ。6歳から18歳までが通うことができる大規模な学園。その高等部で、少女リィ・ティアスは授業を受けている。
第1話 ―その少女表舞台へ―
やぁ、セイル。
ラッセルか…。任務は終わったのか。
うん、今終わったところだよ。そっちは?
今から向かうところさ。
えっと、場所は確か――
ジェナ国だ。
そっか、そうだったね。それで…いいのかい?
…何の話だ?
ジェナ国に――祖国に帰るのは久しぶりなんだろう? 会わなくていいのかい、妹さんに。
何を今更。俺は決めたんだ。真実を知るまであいつに会わないって…。
そうか、君がそう決めたのなら僕は何も言わないよ。
ありがとう。それじゃあ、行ってくるよ。
あぁ、いってらっしゃい。くれぐれも無茶をしないでね。
ジェナ・リースト学園。名の通り、ジェナ・リースト共和国に存在する学園の一つ。6歳から18歳までが通うことができる大規模な学園。その高等部で、少女リィ・ティアスは授業を受けている。
ふわぁ…(あくび)
おっはようございます、リィちゃん!
うわぁ!? あ、アリス…。はぁ…、もう!脅かさないでよ。
授業でちゃんと起きていれば驚くことはないはずです。
し、仕方がないでしょ。昨日はよく眠れなかったのよ。
世間ではそれを言い訳って言うんですよ?
ぐぬぬ。ま、まぁ、いつも授業の予習とかしてるし大丈夫よ。
そういう問題でもないのです。
てへっ。
それにしても…今日は来てないんですね。いつもなら私より先に来てるはずなのに…。
ん? あぁ、レイのこと? 確かに今日はきてないわね。風邪でも引いたのかしら。
誰が来てないって?
あら、噂をすれば…。
おはよう、リィ、それにアリス。
おはようございます、レイジス君。
ん、おはよ。
なんだよ、二人共。つまらなそうな顔してるなー。
もとからこんな顔よ、悪かったわね。
あぁ、そういえばそうだった、忘れてた。
リィの笑顔の腹パン
痛てて…。あ! そうそう! それよりさ聞いてよ! もうすぐ学校は夏休みに入るじゃんか。せっかくだから皆でどこか遊びに行こうよ!
そう言えば、もうそんな時期ですかぁ。いいですね、ぜひ行きたいです――って言いたいんですが、すみませんが私は遠慮しておきますね。
えぇ…なんでー?
いやぁ、実はもう予定を入れてしまいまして。…私、夏休みにですね、色んな国を巡りながらボランティアをするんですよ。だから今回はお断りさせてもらいます。また来年誘ってください。
ほわー、偉いなぁ。んじゃ、リィは?
んーと…特に何にも考えてないけど。
じゃあ――
パス。そもそも何が悲しくてレイと二人で遊びにいくのよ。
ふふ、言われてますよ。レイジス君。
ひっでぇ。まぁいいや。あー夏休みどうしよっかなー…。
なんか、頭がお天気で羨ましいわ…。
おいおい、そんな言い方ないだ――
怪物「ライン」、校舎に侵入
おわっ!?
この振動は…。
はぁ…はぁ…。クラスの皆さん! 落ち着いて聞いてください。たった今、学園敷地内にラインが侵入してきました! 先生たちの指示に従って速やかに避難してください!!!
またですか、最近物騒になってきましたねぇ。
あー、こりゃ学校の修理とかで夏休みが長引きそうだな…。
ライン。数十年前から急に現れてきた生物。その姿は絵本や伝承で聞いたようないわゆる魔物・モンスターと言われるような姿をしている。そのラインが今、私たちの世界を脅かしている。10年前に起きた事件、大陸屈指の巨大国家、ランディール王国が滅ぼされて以来、世界中でラインに対する警戒が強くなり、学園の授業で、少しでもラインに対抗できるように武術の授業が取り入れられるようになった。
ほどなくして、あたしたちの学園は夏休みに入った。実のところを言うと、前にラインが侵入した騒ぎで校舎がいたるところに穴が空いてしまい、修復工事も兼ねて夏休みが早まる結果となったのである。あたしはというと、長い休日ライフをのんべんだらりと過ごす予定で、今日も少し遅くまで寝ることにしていた…んだけど。
すぅ…すぅ…
リィー!
う…むぅ…。
リィーさぁーん!
うぅ…。ふぁ…あんのバカ。朝っぱらから元気過ぎでしょ。ホンット嫌な目覚まし時計…。
リィー! …て、ずっと叫んでて気づいたんだけどー!
リィって虫の鳴き声みたいだよねー! なー! 聞いてるー?
…ぶちぃ
窓を開ける
お! おはよー、リィ。
うふふ、おはよう、レイ。そして――(枕を掴む)
おやすみ!
リィ、枕を投げる
おぶっ!?
はぁ…取りあえず、うるさいから家に入ってて。
まったく、あんたは…。夏休みになってもあたしん家に来るなんて…。何? 暇なの? もしかして友達いない?
なんで家に来ただけで枕を投げつけられて、その上こんなに罵倒されなきゃならないんだよ。
あ、この卵焼き美味しそう! もーらい!
…まさか、レイ。あんた朝ごはん食べに来た訳じゃないよね?
ん? あぁ、違う違う…って、そうだ! それどころじゃなくてッ!
何よ?
これを見てくれよ!
レイジスが持ってきた新聞には数日前の私たちの国、ジェナ・リースト共和国の学園に侵入してきたラインの記事が載っていた。そこにはラインと戦うジェナの軍隊とともに写る一人の青年――そう、数年前にパパとママがラインに殺されて以来、姿を消した兄、セイルだった。写真に写っているセイルは軍隊とは別に、ラインと戦っているようだった。
これって…!? レイ、よくやったわ!
へへん。
セイルめ…可愛い妹置いて何してんのよ。
それで、どうするのさ?
そうね、せっかくの夏休みだし……旅に出ようかしら。
旅!? 旅、かぁ…。なぁ、リィ。俺もついて行っていい?
ほんっと暇なのね…。多分それなりに危険だとおもうけど?
カワイイオンナノコを一人旅させるのは危険だしね。あと護衛くらいならできると思う、武術の授業は得意だったし!
棒読みなところがムカツクわね。てか授業の評価が良いだけでラインを倒せたら苦労ないでしょ。…でもまぁ、一人じゃ心許ないし、お願いしようかな。
おう! でも旅をするって言ってもこれからどうするんだよ? 行く宛てとかあるの?
一応ね。パパの友達に聞いてみようかと思う。今は確か…帝国で軍の司令官をしているんだっけ…。
それはまた…すごい人がご友人なこって。でも、そんな凄い人だったら簡単に会えるかな。
大丈夫…多分。パパとママが死んじゃった時に、困ったらいつでも相談しに来いって言ってくれたし。
それなら、大丈夫だな。あと帝国に行くなら長旅になるだろうからしっかり準備しなきゃな。
うん。じゃあ出発は…そうね、旅の支度も考えて明後日でいい?
わかった!
じゃあ決まりね。…ねぇレイ。もう一度聞くけど本当についてきてくれるの?
あはは、暇だしなぁ俺。後、セイルさんは俺もよく知ってるし、だからこそ見つけてやりたいじゃん?
そっか…ありがと。
気にすんなって、じゃあ明後日だな。
こうして始まった、あたしたちのセイルを探すための旅。まさかあんなにまで壮大な旅になるとは思ってはいなかったけど。それは全ての始まりで、全てを終わらせるための旅。多くの絆を培った旅が今始まろうとしていた――
とはいえ、荷物とか移動手段、宿とかどうするのさ?
移動手段はセイルが使ってたバイクがあるからそれを使わせてもらう。どうせあいつ、家にいないんだから文句も言われないでしょうよ。
旅の荷物は?
もちろん今から買いに行く。さあ、行くわよ。
え?
女の子に重い荷物を持たせる気? まーったく、甲斐性がない男だわー。ほら、乗って乗って!
その言い方ズルイなぁ…。
あ、待って。エンジン掛けないで。ちょっと! おーい! あーーーーーー! 置いて行かないでーーーーー!
この大陸にある国は、領域を定めて国境線を塀で囲んでいる。また国境外の土地はどの国の所有権もない。と言うのも有り余る土地の所有は、いざラインに襲われても手が届かないためである。従って、国境外の土地を踏む時は他国を旅する場合か、物資の輸送、もしくは戦争くらいだ。
兄のセイルを探して旅に出たあたしとレイジス。まずはパパの知り合いに聞くため、西の大帝国、ゴアスを目指してバイクを走らせる――
あー、やばいわ。
どうしたのさ。
暇なのよ。
うん。
レイ、面白い話してよ。
無茶言うなよ…。
なんの為のあんたよ。
え、護衛だけど?
ぶー、面白くない。
酷い。じゃあ、なんだ、今からラインが現れて素敵な国にでも連れていってくれるとか、冗談言ってみる?
それは冗談にならないからダメ。
そっか――
するとあたしはバイクのミラーに、狼の姿をしたラインが一匹映っていることに気が付いた。
…どうやらそのラインはあたしたちを狙っているようで、一直線にこっちに向かっている。
げ、本当にラインが来た。
ほら、これがあんたの無計画な冗談の結果よ!
あぁ…なんていうか…その、ごめん。
グルゥウウウウ…
夢の国に連れてってくれる雰囲気じゃないよなー、やっぱり。
ぽっくりと連れてってくれるわよ、夢の国じゃないけど。
うへぇ、嫌な言い方。
ほらほら、護衛さん。撃退準備!
はいはい、わかってるよ。よぉし、掛かってこい!
ガァアアアアアアア!!!
グ…クゥゥン…
あ、逃げた。ちょっと呆気ないけど…まあいっか。お疲れ様!
ふう、実践は初めてだったけど、意外となんとかなるもんだな。
そうね。これなら安心して任せられるわ、これからもよろしく!
都合のいい奴だなぁ…。
まぁまぁ、ささ、早くバイクに乗って!
はいはいっと。
巨大な足音
…待って、レイ。…何か聞こえない?
うん? あ、そう言えば聞こえる…かも。てか、地面…揺れてる?
…揺れてるね。
…なぁ、リィ。もしかして――
な、何も言わないで。わわわ分かってるわよッ! 取りあえず、せーので振り向くわよ。
あ、あぁ。
せーの!
グルルウ…
…うわぁ。
さっきのラインって成長したらこんなに大きくなるもんなの?
知らないわよ。と、とにかく――
うん、分かってる。
逃げよう!
早く乗って!
わ、分かってるって! よし、乗った!
行くわよ!
…まいた?
いや、ダメだ!
追ってきてる!
リィ、もっとスピード上げて!
オォオオオオオオオン!!!
ダメだ、潰される――
ななななな、なんだよコレッ!? 凄い風!
グ…グゥ!?
やー、こんなご時世に二人旅なんて、随分と世間知らずなカップルだねぇ。
な、なんだアンタ!? てか一体どこから現れたんだ!?
ボク? ボクは君たちを助ける正義のヒーロー! なんてね。
…なによそれ。
ま、詳しい話は後でね。敵さん、来るよ。
オォオオオオオオン!!!
危ない!
はいはい、ご苦労さん。――いけ。
風の刃
グ…ゴアアアアアァァアアア!!?
な、何が起こったんだ…? なぁ、それどうやったんだ? 風を操ってるのか?
あぁ、これ? ふふ、簡単に言えば選ばれた者にしか与えられない素敵な魔法さぁ。
男は大きく跳躍するとまるで羽が生えたかのように空高く飛び、あっという間に巨大なラインの頭の上に飛び乗った。
それじゃあこれで――おっしまい!
ォオオ…ン…
す、すごい…。
よっと。さてさて、一段落着いたし――
あなた何者なの?
せっかちだねぇ。人に名前を聞くときはまず自分が名乗る。そうだろ?
…あたしはリィ。
俺はレイジスだ。
ふんふん、リィちゃんとレイジス君ね。ボクはエレアードって言うんだ。そんでさっきリィちゃんが言ってたボクの正体についてはナ・イ・ショ!
…そう。
そう落ち込むなって、いずれ分かるよ。君がこのまま旅を続ければね。ティアス家のお嬢さん。
それって――
おっと、つい長話してしまったかな。ボクはこの辺で帰るとするよ。じゃあね、楽しかったよ!
あぁ!? ちょっと、待ちなさいよ!
あんな簡単にラインを、しかも凄いデカイ奴を倒すなんて…バケモノかよ。
あいつ…
うん?
ティアス家のお嬢さんって言ってた。絶対セイルの事知ってるわ。うぅ、もったいぶりやがってぇ…
まぁ、過ぎたことは仕方がないよ、リィ。取り敢えずゴアス帝国に向かおう。ここに留まるのはちょっと危ないしね。
…そうね。おじさんなら何か知ってると思うし、帝国に向かいましょ!
おう!
…はぁ
やっほー、セイル。ただいまぁ。
エレアード…。
君の妹に会ったよ。ラインに襲われてるところをたまたま見かけて助けた。
何だって!?
雰囲気的に君を探して旅をしてる、って感じだねぇ。
あいつ何をしてるんだ……。探すなっていっただろう、クソッ!
君が直接言ったほうがいいんじゃない?
…くっ。
強情だねぇ、君も。まぁセイルが妹ちゃんを殺したいなら話は別だけど、ふふふ。
俺は…
私情は判断を鈍らせる。君がここにいる時点でそんなことに悩む権利はないんだけどね。次の任務で失敗して死なないようにねぇー。んじゃあボクはボスに報告してくるよ。
あぁ、分かっている。
to be continued...