朝の騒がしさの中、わたしはいつもどおりに登校してきた。
朝の騒がしさの中、わたしはいつもどおりに登校してきた。
朝っぱらからニヤニヤしてるねぇ
えぇ~、そうかなぁ~
うん、ぜひ爆発してほしい顔をしているね
そうかなぁ~、爆発しちゃうかな~
……もう爆発してるのかもしれない
紬ちゃんの皮肉も軽く流しちゃう、今のわたし。
理愛ちゃんとの約束から数日、わたしの心は約束の日を想像して弾んでいた。
だから、まさかその人が近くにいたなんて、ぜんぜん想像できなくて。
舞ちゃん
理愛ちゃん!?
どうしたの突然
イスへ座ったと同時、理愛ちゃんに声をかけられる。
驚くわたしへ、すっと差し出される紙の束。
あの、これ
これって……
ケーキとかコーヒーとかの、写真?
朝に見るにはちょっと違うかも、と想いながらも惹かれてしまう、美味しそうな写真ばかり。
うん。
あの喫茶店のこと、ちょっと調べてみたの。
だから、舞ちゃんにも教えたいなって
これ、あの喫茶店のメニューなんだ!
数日前に通りかかったあの喫茶店、理愛ちゃんも気にしててくれたんだ……。
それがわかって、わたしの朝の気だるさがパッと明るくなる。
どれも美味しそうだね! 楽しみになっちゃうよ
そうなの。
舞ちゃんに伝えたくて、想わずプリントアウトしちゃったの
わたしに、伝えたくて……
その言葉に、胸の奥がぶわっと暖かくなる。
うう~、すぐにでも行きたいけれど、ガマンだね!
そうね。わたしも楽しみにしているから
そう言って、理愛ちゃんは自分の教室へと戻っていった。
わたしの手元には、理愛ちゃんがプリントアウトしてくれた喫茶店のメニューがずらり。
へへへ
……たるんでると、先生の指名が飛んでくるよ
後ろから聞こえてくる紬ちゃんの厳しい声も、今のゆるんだわたしにはまったく聞かない。
ああ、早くお出かけの日にならないかな~♪
そうして、もらった資料をカバンのなかに入れて……。
……あれ?
カバンの中身がやけに少ないことに気づいて。
あれ、れ
呟いて――次の瞬間。
あー!
わたしは大声を上げながら、頭を両手で抱えてしまっていた。
……そろそろ"騒音注意"のテープでも貼るか
璃鳴地(りなじ)さん、どうしたの?
紬ちゃんの皮肉も、隣の席の添石さんの言葉も、わたしは呆然として聞いていた。
ゆっくり、今のことを確認するように、ぼんやりと口を開く。
教科書、忘れた……再来週のこと考えすぎて、すっかり
あれ。
教科書を持ち帰るなんて、珍しいね
だって、理愛ちゃんがきっちり勉強しないとダメだって言うから!
どうやら理愛ちゃん、わたしの学力をどこかから聞いていたみたい。
この間の帰り道、心配するようにそんなことを言われた。
ので、とりあえず学校に置きっぱなしだった教科書を、一通り持ち帰ったりしていたんだけれど。
うわわ……全部、置いてきちゃったよ……
慣れていないことはするもんじゃない、そう想ってもどうしようもない。
ふむ、心がけは良かったんだろうけれど……まずいんじゃない
まずいよー!
今日は怒りっぽい鬼割(おにわり)先生と、細かい重隅(じゅうすみ)先生の授業の二連続なんだよ、耐えられないよー!
他の授業は体育だったり、実験室だったりで誤魔化せそうだけれど、その二つは無理そうだ。
なおかつ、わたしはその先生方によく注意されている。教科書を忘れただなんて、これ以上のマイナスポイントは勘弁だよ!
耐えて割れ、そこを隅までつつかれるわけだね。
それは辛い
冷静に言わないでよ、いつもわたし指されてばっかりなんだから
わたしの言葉に、紬ちゃんは眼鏡を直しながら言う。
それは舞が赤点スレスレなうえに、授業中も上の空だからでは
正論って痛い。
ひどいよねー、人間集中できない時間と相性ってあるよねー
正論返し。
本当にひどい。
私は本当の被害者である先生方に同情するよ。
二人とも、むしろ名前に困っているような優しい性格だというのに
……正論なんてなかった!
なかったことにする、あるのは現実だ!
そんなこと言わないで、半分を分かち合って!
どっちかの教科書でもいいから、貸してー!
え、その時間の私はどうするの
痛みは半分に、喜びは倍に
いや倍はないだろ、確実に
痛みを倍に、喜びを半分に
……残念ながら、私の教科書のライフは1しかないので、あげることも割ることも出来ないのだよ
難しいこと言ってもわからないので、レンタルさせてください!
いや、小数点および借り貸しできないってことは理解しようよ……で、どうするの?
机を横にしてもいいかなぁ。
見せてくれる?
横目でわたしは添石さんに聞く。
私はいいけれど……ねぇ?
添石さんは首を傾げながら、困ったように口を開く。
そもそも、忘れたことで眼をつけられるかも。
璃鳴地(りなじ)さん、そういう眼で見られてるはずでしょ?
そ、そうなんだけれど……
添石さんからも、紬ちゃんみたいなことを言われてしまった。
むむむ、どこでも一瞬で行けちゃう道具があればいいのに……!
うぅ、理不尽だ~
普段の行いを棚に上げているこの子は、将来痛い目を見ると想います。
皆さんも、そう想いませんか?
だから、いったい誰と話しているの紬ちゃん
……?
いったい誰と……と、呟いたあたりで、ふっと浮かんだ顔があった。
あぁ!
それは、今日一日、ずっと考えていた人の顔。
ど、どうしたの。
突然立ち上がって
いいこと想いついたよ!
これで問題解決な、ホットのアイディアだよ♪
もう大声で騒いでる時点で残念な感じが満載です。
で、なに?
今からちょっと出てくるね、すぐ戻るよ
あっ、ちょ……
わたしは人にぶつからないよう、自分なりの最速で教室を後にした。
急がないと授業に間に合わない……なんて想いながらも。
――実の所、会う口実ができたことに、喜んでいる自分を自覚してもいたんだ。