困ったように笑う理愛ちゃんだったけれど、わたしはそれくらい嬉しかったのだ。
――というよりも、積み重なっちゃたのかもしれない。
なんだか楽しそうね、舞ちゃん
もちろんだよ♪
だって、久しぶりに理愛ちゃんと一緒に帰れるんだもの
久しぶりって、一週間も経ってないんじゃ
困ったように笑う理愛ちゃんだったけれど、わたしはそれくらい嬉しかったのだ。
――というよりも、積み重なっちゃたのかもしれない。
ねえねえ理愛ちゃん、生徒会ってどんな感じなの?
舞い上がりそうになった考えをふって、話題を変える。
少し考えてから、理愛ちゃんは口を開く。
そうねぇ。
生徒のことを考えて、先生方と学校のことを考えて活動している、素敵な場所よ
むむむ、難しそうな気配がプンプンするね!
月毎の行事とか、生徒への情報提示とか、やることはたくさんあるわね
理愛ちゃん、大変じゃないの?
忙しそうにしながらも、いつも笑顔を浮かべている理愛ちゃん。
もしかすると、言えないこともあるんじゃないか……。
そう想って聞いてみると、ありがとう、と一言言われて。
大丈夫。
先輩方も先生方も、優しい人ばかりだから。
とてもやりがいがあるわ
自信を持って答える理愛ちゃんに嬉しくなって、わたしも同じように嬉しくなる。
まさしく理愛ちゃんにピッタリの場所だね
そう?
舞ちゃん、本当にそう想ってくれてる?
想ってるよ!
わたし、理愛ちゃんが皆に褒められてたり、頑張ってる姿を見るの、大好きだから!
わたしは理愛ちゃんに少し近づいて、頷(うなず)きながら必死な声で伝えた。
寂しくない、と言えば嘘になるけれど、理愛ちゃんがカッコよく輝いているのを見るのは……とっても、嬉しいことだから。
そう……そう想ってくれると、嬉しいわ
(あれ……?)
なのに――わたしの瞳に見えた理愛ちゃんの顔には、少し嬉しくなさそうな暗さがあった。
じゃあ、これからもっと頑張るね。
舞ちゃんに褒められるの、大好きだから
そ、そう……。
わたしも、カッコいい理愛ちゃん、ステキだと想うよ!
(……理愛ちゃん、今、ちょっと寂しい顔をしたような)
気にはなる。教室が別になり、帰る時間も減って、休日に遊ぶことも前ほどじゃない。
だけど、理愛ちゃんのあんな顔、今まで見たことはなかった。だから、気になる。なるけれど……。
ね、ねえ、理愛ちゃん
なあに、舞ちゃん
え、えっとね……
どうしたの?
なにか、不安なことでもあるの
(さっきの、気になったこと聞いてみようかな……でも……)
どうしようか迷いながら歩いていたわたしの眼に、ひょっこりその看板が入ってきたのは。
あっ!
そういえばあの喫茶店、理愛ちゃん行ったことあるかな!?
ああ……あの、新しくできた喫茶店のことね
理愛ちゃんもわたしにつられて、落ち着いた雰囲気の店へと視線を移す。
木目調の看板に、レンガっぽい外観の建物、挽きたてがウリって書いてある茶色いコルクボード。
最近できたばかりの、ちょっとオシャレな喫茶店。
このあたりに住んでいる子も、よく教室で話題にしているお店。
それを聞いて、わたしも行きたいなって想っていた。
うん。
みんな、美味しいケーキと飲み物が飲めるって、すごく話題だよ
話に聞いたことはあるかも。
でも、わたしはまだ行ったことはないかな
そうなんだ!
人付き合いの広い理愛ちゃんのことだから、もしかして誰かと行っているかも……なんて想って、聞いちゃったのだけれど。
じゃあ、今から寄っていかない!?
想いきって誘ってみるけれど、浮かんだ表情はとまどい気味。
だ、だめかな……
ごめんなさい、今日はあんまり時間がなくて
本当に申し訳なさそうな理愛ちゃんを見て、わたしは、もう一歩踏み出すことにした。
じゃあ……来週の日曜日って、空いてるかな?
来週?
……ごめんなさい、その日は用事があって
じゃあ、再来週で、どうかな
その日は、たぶん大丈夫だと想うわ……どうしたの?
最近、理愛ちゃんとお出かけしていないなって。だから、一緒に遊びたいなと想って
さっきの暗さは気になったけれど、わたしが伝えたかったのはこれだった。
――理愛ちゃんとまた、一緒にいられる時間が欲しい。
だからその時、一緒にこの喫茶店にも来ようよ。
そうすれば、会えなかった最近のことも、ゆっくりお話しできるでしょ♪
わたしの言葉に、理愛ちゃんもぱあっと顔が明るくなる。
嬉しいわ!
ごめんね、わたしが忙しいばっかりに
いいのいいの。
たまにだからこそ、楽しさもいっぱいになるんだよ♪
そうね。
再来週、ちゃんと空けておくから
楽しそうに答える理愛ちゃんの顔には、さっきまで残っていた暗さは、残っていないように見えた。