しかし、問いかけた少年からの返事はなく、それどころか身じろぎ一つもない。
うっすらと開かれた少年の目は虚ろに移ろういながら、景色を映しているが、何も見えていないようだった。
少女の苦みばしった珈琲の香りが湯気に乗ってそっと辺りを包み込んでいく。
例えば私が飲んでいるこの珈琲からひょっこり妖精が現れて、何か願い事を一つだけ叶えてくれるとしたら君は何を願うのだろうな。
しかし、問いかけた少年からの返事はなく、それどころか身じろぎ一つもない。
うっすらと開かれた少年の目は虚ろに移ろういながら、景色を映しているが、何も見えていないようだった。
少女の苦みばしった珈琲の香りが湯気に乗ってそっと辺りを包み込んでいく。
もし、妖精が現れたなら私は何を願うのだろうか。
やっぱり、君との楽しかったあの時間に戻してくれと頼むのだろうか。
それともいっそ君と出会わなければよかったなんて思うのだろうか。
楽しかった。毎日がまるで絹糸に真珠やダイヤやたくさんの宝石が紡がれていくようで、キラキラと輝いていた。
少し前まで確かに私の手にあったあのきらめく日常……
手から零れ落ちていった幸せが彼女には見えているのか、その両の手を見る目には涙があふれ、噛みしめられた唇は震えている。
どうせ失うのであれば、こんな幸せがあるなど知らない方が良かった。誰かが傍にいてくれる幸せ、誰かが私を見ていてくれる幸せ、誰かが愛してくれている幸せ、そしてこれほどまでに誰かを心から愛せる幸せ…
そんなもの知りたくなかった。
懇願するようにつぶやく彼女の震えた声は、しかしその目の前の少年には何も伝わることはなかった。
お願いします。
もし、今の私の願いが叶うのだというのなら、
どうか私と彼に再び幸せの時間をください。
たとえ死が二人を別つとしても変わることのない幸せを…
そう言うと少女は彼の頬に小さなキスをした。
ふぁ~、寝ちゃってた。
ねぇ、何か一人でしゃべってなかったぁ?
気にするな、なんでもない。
それより君、半眼開けて寝ていたぞ。
お陰で思わぬ楽しい遊びを一人でしてしまったじゃないか。
えー、何面白い遊びって!!
どうせなら僕が起きてる時にしてよ!!
もし願いが叶うなら何を願うだろうか考えていたのさ。
私は叶うならばもう一度今日という日を過ごしたい!
今日を?
あぁ、今日をもう一回だ!
日本一の夢の国!楽しかった!君ともう一回あそこでデートがしたい!!
そんなことなら今日をもう一回じゃなくて、また一緒に来られるように願おうよ。
その方が思い出増えるしさ。
おぉ、確かにそうだ。
ちなみに君は願いが一つ叶うとしたら何を願うんだ?
願い事?
この世界全てのモノを幸せにして…かな。
世界中全ての者をか…なかなか大きいスケールだな。
全ての者だけじゃないよ?
全ての物も。
僕が知らないだけで、もしかしたら物にだって幸せとかあるかもしれないじゃん?ほら、付喪神とかって言うしさ。
だから人間だけじゃなくて、全て動物も植物も無機物も人工物も全部全部含めて幸せにしてくださいってお願いすると思うよ。
君はなかなかにスケールが大きいな。
人間だけに留まる器ではない。
最早人ではないな。
あれだ、チワワっぽくて可愛いぞ君は。
人間です!!!!
でも、そんなに大きなことじゃないし、欲張りでもないよ。
ただ、自分も幸せで他の周りも全員幸せだったらそんな平和なことはない。みんなが毎日思ってることなんだからさ。