あ、理愛ちゃん!

 わたしは想わず大声を出して声をかけてしまう。
 恥ずかしそうな理愛ちゃんの様子に、手で口を押さえる。

あっちから来てくれたみたいね

 よかったじゃない、という紬ちゃんの声が、優しく聞こえる。
 せっかく来てくれたんだから、と足を踏み出そうとしたら。

う、あぁ……っと

 引いたままの椅子に引っかかってしまう。
 幸い、転ばずにはすんだみたい。

ありがとう、紬ちゃん

なんの話?

 一瞬の内に腕を出して引っ込め、そして知らぬふりをする紬ちゃん。
 気を使ってくれているのがわかるから、なにかお返ししなきゃなとも想うけれど。

舞ちゃん、大丈夫だった?

二人とも、心配しすぎだよ。
ぜんぜんへっちゃら!

 今は、眼の前に来てくれた理愛ちゃんのことで意識がいっぱい。

間(あいだ)さん。
いつも舞ちゃんと一緒にいてくれて、ありがとう

……別に。
舞が、私に絡んでくるだけだし

あぁ、またそんなこと言って。
紬ちゃん、ほんとは優しいのに、そんなこと言っちゃダメだよ

ええ、知ってるわ。
舞ちゃんが寂しがりで、それに合わせてくれてるってこともね

理愛ちゃん、舞が寂しいってわかっててくれたの!?


ええ。
舞ちゃん、いつも誰かと一緒にいるのが、好きでしょう

あ、うん。
そうだね……

 なんでか、その受け答えがちょっと寂しい。

……現(うつつ)さん、今日は生徒会は大丈夫なの

 紬ちゃんの問いかけは、わたしも気になっていた。
 いつもは、生徒会があったり、先生方の用事があったりする日だったはずだからだ。

ええ。
今日は急ぎの事案もないから、お休みなの。
だから、舞ちゃんと一緒に帰ろうと想って

ホント!? やったー!

 理愛ちゃんの言葉に、想わず両腕をあげて喜ぶ私。
 だって、喜ばないでいられる!? 最近、すれ違いばっかりだったんだもの。

そこまで喜んでくれると嬉しいわ

……よかったねぇ、ほんと

紬ちゃんが相談に乗ってくれたおかげだよ~

いや、私は本当に何もしてないし、舞もなにもしてないでしょ

いいの、結果良ければ全て良しなんだから!

……本当、仲が良さそうで嬉しい

うん、今日は理愛ちゃんといっぱい遊ぶよ!

あ……

え……?

ごめんなさい、遊ぶ時間はないかな……家のお手伝いをしないといけなくて

そ、そんなぁ……

本当、ごめんね

 申し訳なさそうな理愛ちゃんの顔を見て、わたしは気持ちを切り替える。

ううん、こっちこそありがとう!
一緒に帰れるだけでも、すごく嬉しいよ

じゃあ、間(あいだ)さん。
舞ちゃんと一緒に帰って、大丈夫?

大丈夫。
時間、あるんだろうから

そう。ありがとう

……舞

 ちょいちょいと手招きされて、わたしは紬ちゃんの顔へ近寄る。

なに、紬ちゃん

もう少し寄って

ここでも大丈夫だよ?

いや、あの……

 紬ちゃんはイスから立って、わたしの顔へ唇を近づけると。

……言いたいこと、ちゃんと言いなよ

 そう、ささやくような声で言ってくれた。

うん。
ありがとう、紬ちゃん。
大好き!

は、早く帰れ!

 顔を真っ赤にしてイスに座る紬ちゃん。

さ、帰ろ

な、なんかごめんなさいね間(あいだ)さん

……ちゃんと、舞の話、聞いてやって。
大変だろうけれど

紬ちゃん、また明日ね♪

 手を振って、わたしは理愛ちゃんと一緒に教室を出た。
 浮かれ気分の私は、もう、理愛ちゃんの顔ばっかり見ていて――。

(……ちゃんと、話さなきゃ)

 ――でも、心の中は、ちょっと冷静にそんなことを考えてもいた。

理愛ちゃんが足りない! - 02

facebook twitter
pagetop