目の前にあったのは、近未来的な高層ビル群。
えっ!?
えぇ────────!!
目の前にあったのは、近未来的な高層ビル群。
しかし、その隣には中世のようなお城。
更にその隣には、不可思議な空間──
世界観も時代もみんなバラバラの景色が見える。
こ、ここは……
一体どこなんですか?
あっ?
神世(カミヨ)の国だけど?
神世の……国……
人間が言うところの神様
オレらみたいなのが住んでる場所だ
神様の国……
そこは、カオスと呼ぶにふさわしい場所だった。
この和風なお屋敷の日本庭園から見ているのもあってか、いろんなジャンルの映画のセットを無作為に並べたか、もしくは全く描き方の違う絵画を切り張りしたみたいな、ともかくおかしいとしかいえない風景。
とりあえずメシでも行くか?
お庭からカオス空間へと続く橋を、私は一之臣さんに手を引かれながら進んで行く。
しばらく行くと、今度は見慣れた雰囲気の街が見えて来た。
えっ? えぇっ?
そこは、普段の私の日常とあまり変わらない場所だった。
大きな道路には車が走っていて、ビルやカフェみたいなものも立ち並んでいる。
一見、普通の街。
ただ、違うのは──
歩いている人たちが……
…………それでさ~
……ヤダ~
…………
ジュルジュル……
みんななんだか
様子がおかしい!
まるで、全ての国民にハロウィンの仮装が義務づけられてしまったみたいな……
見て見て、一之臣様よ!
きゃ──! ほんとだわ、今日もステキ~❤
あ~ん、こちらを向いて下さらないかしら……
一之臣さま~❤
街ゆく女性の視線が、皆こちらに注がれている。
そして、あちらこちらから悲鳴のようなものが飛び交い、気が付けば……
私たち、ううん
一之臣さんが
注目の的となっていた。
んっ? どうした?
私はそんな状況にいたたまれなくなり、一之臣さんの手を離して少し彼との距離を取る。
いえ、その……私、あんまり注目されるのは……ちょっと……
あ~? 注目?
一之臣さんは辺りをグルっと見回す。
私たちの周囲を取り囲む人々(神々かもしれないけど)から歓声が巻き起こった。
最早、アイドル並の人気だ。
これじゃあデートにならないか……
一之臣さんは眉間に皺を寄せ、何か考え込んでいる。
はぁ~あ……
本当はイヤなんだけどな~……
そう言うと彼は着ていたジャケットを脱ぎ、いきなり宙にそれを投げた。
突然の事に私を含め、周りにいた者、全ての視線が投げられたジャケットに奪われる。
そして、それが下に落ちた時には──
一之臣さんの姿はどこにも無かった。
えっ?
キョロキョロといくら見回しても、どこにも彼の姿は無い。
手品みたいに、一之臣さんは一瞬で消えてしまった。
狐につままれるとは、こういう事なのだろうか?
い、一之臣様は?
どちらに行ってしまわれたのかしら~
えぇ~……
せっかくお会い出来たのに~!!
探しましょう!!
一之臣さんの姿が煙のごとく消えてしまい、彼を取り囲んでいた女性たちもみんなその姿を探して散り散りになっていった。
一体、どこに……
すると、落ちているジャケツトが微かに動いている事に気づいた。
えっ?
おい! 早くこれをどけろ
もぞもぞ動くジャケットの中から聞き覚えのある声がする。
恐る恐る、ジャケットをめくりあげるとそこに……
…………
小さな狐がいた。
……!?
なんだよ?
へっ? アノ、まさか……
こっちの姿なら目立たないからな
いっ、一之臣さん!?
そこには一匹の可愛らしい狐がいた。
ふわふわな毛並み、くりくりとした瞳。
私の中にどうしようもない衝動が沸き上がる。
も、もふりたいっ!!
どうした?
狐がつぶらな瞳でこちらを見ている。
か、可愛い!!
あっ、あの……撫でてもいいですか?
はっ?
なでなでしたいです!
はぁ? いいけど……
私はそっと狐の背中を撫でてみた。
思った通りのふわふわとした柔らかな毛の感触に、感動してしまう。
背中を何度か撫で撫でしてみる、一之臣さんも目を細めて気持ちよさそうだ。
…………
私はいい気になって撫で撫でしまくった。
おっ、おい、もういいだろ?
メシ行こうぜ?
まだ撫で足りなかったが、狐の一之臣さんは私の手をふいと避けて、先にトテトテと歩き出してしまう。
あっ、待ってください!
私は慌ててその後を追った。
大通り沿いを狐の後ろに着いて歩いていく。
見慣れた光景の中にたまにありえない景色が見えて、まるで白昼夢でもみているみたいだ。
高層ビルがあったと思うとビルの間には川と山があり、オシャレなカフェみたいな建物の中は奇妙な物がびっしりひしめき合っていたり……。
教会のような建物には大きな空洞が空いていて、そこから謎の雄叫びが上がり、大きな木には触手がはえている。
歩いている謎の生き物に目を奪われたりして、私は一之臣さんとはぐれないように必死だった。
ここだぞ
しかし、立ち止まる一之臣さんの前には、お店らしきものは無い。
洞穴みたいな穴がぽっかりと空いているだけだ。
看板? だろうか、店の前に立てかけられた板には文字みたいなものが書かれているがなんのお店かはわからない。
ほんとに営業してるのかな? っていうか
本当にこれお店なの?
あ~、腹減ったな~
一之臣さんはそう言ってぽっかりと空いた穴の中に、ヒョイっと入って行ってしまった。
えっ? ここ、入るんですか?
どうしよう、こんな所怖くて入れないよ……。
私が戸惑っていると
突然後ろから声をかけられた。
かぁ~のじょ、どったの~?
振り向くと……、後ろにいたのは、またしても目を見張るほどのイケメンだった。
…………
えっ? えっと……
ん~っ?
少しチャラそうだけど、中性的な容姿と愛くるしい笑顔のその人は、私の顔を覗き込んで来た。
この神世の国(?)の男の人は、基本イケメンしかいないのだろうか?
ねぇねぇ、ヒマならボクと遊ばない?
ナンパ? なのかな……。
えっ? そっ、その……
クスっ、そんなに警戒しないでよ~
あっ、あの私、今これでも一応
で、デート中で……
ふ~ん……。
ねぇ、君~、アノ狐君の彼女?
狐……君……?
そう、稲荷んとこのさ~
なんだろうこの人、一之臣さんの知り合い?
一之臣さんのお知り合いですか?
知り合いっちゃ知り合いかな~……
不思議な人。
見つめられているとなんだか、全てが見透かされているみたいに思えて来る。
狐君の大切な人なら、ボクらにとってもほうっておけない存在だな~……
なに……それ?
一体、どういう……
おいっ、どうした?
あっ、いえ、この人が……
あっ? どいつだよ?
そこにはもう誰もいなかった。
あれ? 今、いた人は……?
今まで確かにいたはずなのに……。
今、人が……
はぁ? もう、いいからメシ早く食おうぜ~
さっきのヒトの事を考えるヒマもなく
私は袖を一之臣さんの口でぐいっと引っ張られ、穴の中へと引きずり込まれた。
えっ!? ちょっと!
まっ、待ってくだ……
不思議の国のアリスのこんな一文が頭を過ぎる。
アリスはどこまでもどこまでも暗い穴の中へ落ちていきました……。