一助と呼ばれた狐面は立ち上がる。
私は、ちょっとびっくりした。
狐面さんにも名前があったんだ!
……っていうか、こんなに同じような狐面がいる中で、一体ぜんたいどうやって見分けているんだろう。
顔は狐のお面で見えないし、背格好もみんな同じ。声だろうか?
しかし、私にはその声すら同じにしか聞こえなかった。
なんだ? 一助
はい
一助と呼ばれた狐面は立ち上がる。
私は、ちょっとびっくりした。
狐面さんにも名前があったんだ!
……っていうか、こんなに同じような狐面がいる中で、一体ぜんたいどうやって見分けているんだろう。
顔は狐のお面で見えないし、背格好もみんな同じ。声だろうか?
しかし、私にはその声すら同じにしか聞こえなかった。
デート、というものを
されてみてはいかがでしょうか?
でーと……?
……!?
…………ふぁ~
で、デート──!?
更に、その一助さんの発言にもあまりにびっくりしてしまい、心臓がバクバクいいはじめる始末だ。
なんだよそれ?
はい、デートというものは人間の男女が二人きりで一緒に食事や娯楽などを楽しみ、会話をしつつ互いの事を理解し合う行いでございます。
姫様はまだ御三方の素晴らしさをよく理解されておりません故、決めかねておられるのでは?
ふ~ん……じゃあ、それしよ、それ
えっ……えぇ~っ!?
そ、そんな簡単に……っていうか多分……
メシ食って話せばいいんだろ~? 余裕~
この人は何も考えて無いんだと思う!
私は別にいいですよ?
二之継さんまで賛成し出す。
あとは、三之丈さんだけだけど……。
……それって~……一緒に寝てもいいの?
イキナリそれは無理!!
えっ? 一緒に寝るのとかありなのかよ? じゃあ、オレは一緒に風呂に……
……それは、ダメ……
間髪入れずに、三之丈さんがばっさり一之臣さんの意見を切り捨てた。
えっ!? なんでだよ~!?
なぁ、オレのはダメなのか? だったらジョウのもダメだろ~?
そうでございますね~
……膝枕は?
それは~……
時と場合によっては可能でございますかね~……
二人はどこまでが『デート』においての許される範囲なのかと、一助さんに意見を求め詰め寄りだした。
すると──
カナリ狼狽している私に、二之継さんがこそっと耳打ちをして来た。
ここは、この話に乗った方が里沙さんのためになるかと思われますよ?
えっ? どういう事ですか?
イキナリ結婚だなんて言われ断りたくても
この状況では皆納得しませんでしょうから……
はあ……
デートをしてみて僕らが断られたのなら、皆も少なからず納得が行くかもしれませんし……
でっ、でも、約束が……
すると、二之継さんはクスリと笑った。
あなたは律儀な方ですね、大丈夫。約束の事は私がなんとかしてさしあげますよ?
初めて見た彼の微笑みは、とても優しくて
思わずその笑顔に私の鼓動は早くなってしまう。
なんて、綺麗に微笑む人なんだろう……。
あっ! 人じゃなくて神様なのか……。
でも、出来る事なら何時間でも見つめていたいとすら思ってしまう微笑だった。
でも、もし……
もし……?
デートをしてみて、里沙さんが誰かを本当に好きになったら……その時は……
そ、その時は……?
二之継さんはふいに私の手を取り、真っ直ぐにその澄んだ瞳を向けて来る。
向かい会った私と二之継さんの距離は、本当にもう少しで二人の唇が触れあいそうになるくらい……。
結婚して下さいますか……?
えっ……?
おいっ! ニノ、何してんだよっ!!
私と二之継さんの間に突然、一之臣さんが割り込んできた。
里沙さんにもご意見をお伺いしていただけですよ、デートの事を……
ふ~ん……
私と二之継さんの顔を、一之臣さんは何度も交互に見てくる。
兄さん……ヤキモチ焼きは女性に嫌われますよ?
はっ!? ち、ちがっ!!
オマエ何言ってんだ!!
一之臣さんの顔は何故か真っ赤だ。
よく見ると、耳まで僅かに赤くしている。
兄さん……動揺しすぎです
はっ? し、してねーし……
……で、どうなんだよ?
どう、とは?
だから、デートだよ
里沙、どうなんだよ?
えっ……その……私は……
……もしかして、イヤか?
オレたちとデートするの……
ふいに、今まで自信満々だった一之臣さんの顔がちょっとだけ不安そうな表情になり、その顔に私はドキっとさせられる。
べ、別に……イヤでは……無いです……
私がそう言うと、一之臣さんは安心したのか、すぐまたいつもの自信たっぷりな表情に戻った。
そうかそうか、まぁ、そうだよな~
オレとデート出来るなんてオマエほどの幸せものはいないからな~……
はあ……
さっきの自信なさげなアレは、幻だったんだろうか?
では、里沙さんは僕らとデートをして
結婚相手を決めるという事でよろしいですか?
は……い……
狐面さん達の間から歓声のようなものが上がる。
では、デートの順番ですが……
二之継さんはシルバーフレームの眼鏡のブリッジ部分を、クイっとあげた。
んなもんっオマエ
そこは長男からに決まってんだろ!
一之臣さんは、自信たっぷりの笑顔で言い放つ。
……僕は、最後が良い……眠いから……
三之丈さんはどんだけ寝不足なんだろうか……。
私は、何番目でも構いませんよ?
んじゃ、決まりだな!
ほら、行くぞ!
えっ!?
一之臣さんは、いきなり私の手を取って歩き出した。
あの、デートって……
まさか、い、今からですか?
辺り前だろ?
早く決めた方がいいんだよこういうのは!
でっ、でも!
まだ心の準備がっ……
というか、男の人と手を繋ぐのだって中学1年の時のキャンプファイヤー以来だ。
大きな手はしっかりと私の手を包み込む様に握っている。
いーから行くぞ!
どうぞ、お気をつけて……
慌てふためく私に二之継さんが優しく微笑んで言った。
そして──
さっきの質問の答えは……またあとで
そう、耳元で囁いた。
ほら、おいてくぞ
繋いだままの手を一之臣さんがぐいっと引っ張って、そのまま私は連行された。
最初の広間を抜け、どんどん屋敷の中を進んで行く。
広いお屋敷はまるで迷路みたいだ。
先が全く見えない。
綺麗な庭の見える長~い廊下や、どこまでも続く襖を開けながら歩いていて、私はふと思った。
これからデートに行くのだ。でも、デートって普通は街中とかでするはずなのでは?
しかし、ここは神様の住んでる場所、そんな所にデートする場所なんてはたしてあるのだろうか?
あの、一之臣さん……
なんだ?
どこに行くんですか?
オマエはバカなのか?
ばっ……
さっきデート行くって出て来たばかりなのに
もう、何すんのか忘れたんだろ?
違います……。
デートって普通は街の中とかでするんですよ?だけど……ここは神様の住んでる場所なんですよね?
そんな場所じゃ……
はっ?
オマエ、何言ってんの?
気が付けば、玄関の様な場所にいた。
ようなと付け足したのは、この場所が玄関というにはあまりにも広すぎるからだ。
じゃ、行くか
そう言って一之臣さんが横開きの戸を開くと──
うそ…………!?
扉を開けたその向こう、私の目の前には信じられない景色が広がっていたのだ。