これ、やるよ…

上着のポケットに入っていた飴玉を差し出してみる。
孝から貰ったものだ。

ぅ…ぐすっ…ありがと…

いや、別に…

少年はやっと顔を上げてくれた。
流石孝、困ったときは大概助けてくれる奴だ。

ねぇ、お兄さん…

どうした?交番なら連れていってやるけど…

ふふっ。人の焼ける匂いって、知ってる?

…っは、ぁ?

今この少年は、何て言った…?

ご、めん…。もう一度…

ふふひっ、知らないよね。
おかしいよ。どのニュースでも非難ばっかりで僕の気持ちをわかってくれる人がいないんだ

何、言って…

お兄さんにも見せてあげたいなぁ。痛みでのたうちまわる人。本当、ふふっ爆笑だから

あ゛ぁっちっ!!

少年が満面の笑みを浮かべた瞬間、上着の袖に火がついた。
急いで脱ぎ捨てるが、腕は真っ赤でじんじんと鈍く痛む。

お前がっ

そうだよっ、僕が噂の放火魔!!こんなガキだと思わなかったっ!!?思わなかったよねぇっ!!!!ふふはははっ

先程までの子供らしい姿が嘘のように笑い始めた少年から距離をとる。
不思議な能力を使うこの少年に一人では勝てない。

なんだろぉっ、お兄さん凄くいじめたくなるなぁっ。沢山沢山痛くしてあげるよっ!!

突然少年の身体の周りを火がおおう。
へたに逃げれば関係ない人まで巻き込んでしまうから、走って逃げながら助けを求める。

ほらぁっ、もっと頑張って逃げないと燃えちゃうよっ!!!

ピッ

つ、露草っ!!

『はぁーいっ、潤ちゃん潤ちゃぁーんっ!!露草君にへるぷ希望でーすかぁっ?』

放火魔を見つけたんだっ

『へーーーぇ』

た、助けてっ

「『りょぉーかぁーいっ!!』」

電話越しに聞こえる声とダブって何処からか露草の声が聞こえた気がした。

露草っ?

「『なーぁにー?』」

っ?

後ろからの声に振り向くと、すぐ傍に露草は立っていた。
電話を切って声をかける。

何で、こんな早く…

ひゃはははっ!!そりゃーぁ近くにいたからーぁっ!

近くに…?

潤ちゃんはぁ、俺が守るよーぉっ。だから安全なとこにちょぉーっと離れててねぇっ

わかった、気をつけてな…

少年は余裕の表情を浮かべて、俺達の会話を聞いている。
露草の後にゆっくり俺を燃やせば良いと考えてるんだろう。

潤壱、こっちこっち

兄さん?

公園の隅にあったベンチの後ろ。
そこに兄さんはいた。
とりあえず俺もそこに向かう。

ここで何を?

後をつけてきたんだ

ぇ…?

潤壱は妙にバグに好かれる体質みたいだから、放火魔が寄ってくるかなと思って

柔らかい笑顔で兄さんはそう言った。
離れた所では、露草が少年の攻撃を避けながらいつものように笑っている。

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